第2話

  大陸のやや西側に位置し、亜人の国と人間の国の国境付近である王都――グランエディア。

  その国境となるのがボルセイド樹海である。 樹海の中にある洞窟を小さな灯りを頼りに少年は進む。

  黒髪黒眼で歳は二十くらい。灰色のローブに手袋をはめ、食料の入ったポーチと血に濡れた剣を装備していた。

 洞窟の中には、外では見たことのない魔物がたくさんおり、一人で捌くのは容易ではなかった。

 身体に切り傷が一つ、また一つと増えていく。


「これじゃあきりがないな」


  魔物たちに追い込まれ、少年の背後は行き止まりになってしまう。

  グルルと魔物が唸り声を上げた。


「魔力を使うから何度も使いたくないんだが、これは使うしかない……か」


  剣を少年は構える。

  魔物たちが一斉に飛びかかった。

  その刹那――『旋空』

  それは剣と風魔法を合わせた技であった。

  剣をなぎ払うと風が巻き起こり、衝撃波となって魔物たちを貫通して切り裂いていく。

  辺りは血の海となり、魔物たちの亡骸が転がっていた。

 少年は剣に付着した血を振り払い、鞘に収める。


「それにしても……魔物多すぎだろ。神戮具ラグナロクってやつも見つからない」


  腰についたポーチの中に目を落とすと干し肉が一つ、水もあと僅かだった。

  そんな状況に少年はため息をつき、壁に寄りかかる。

 ふと足元に風の気配を感じて、怪しげに思った少年は壁に手をついて探ってみると、僅かながらに隙間風が吹いていた。


「行き止まりだと思ったがどうやらそうじゃなさそうだ」


 剣で壁を強く叩いてみると、案外脆かったのか壁は簡単に崩れ落ちる。

  少年がそこに立ち入ると壁が本格的に崩れ始め、退路を塞いでしまった。


「おいおい、これからどうする」


  途方に暮れていた少年は振り返ると、眼の前に広がっていたのは、目を疑うような神秘的な空間だった。

 そして、中央の祭壇に一人の少女が全裸姿でぐっすりと眠っているのが見える。


「……なぜこんなところに?」


  少年が祭壇に足を踏み入れると、少女が眠気眼を擦りながら目を覚ます。


「うにゅ」


  鋭い八重歯。翡翠と紅玉を嵌め込んだようなオッドアイ。シルクのような白い肌。祭壇につくまで伸びた銀色の髪は、全裸の少女の慎ましい丘の秘部を隠していた。

 身長は百四十前半くらい。見た目は小さいがどこからか妖艶さを感じる美少女だ。


「……お主が戦士スレイヤーか?」


  気怠げそうに少女は問いかけた。

 少年は頷き、少しの間思考する。


「そうだ。そう言うお前は神を殺せる武器――神戮具ラグナロクでいいのか?」

「確かにそうだが正確ではない」

「それはどういうことだ?」

  少年は眉を上げる。


「…………………………」

「おい、なんとか言え」


  ギュルルルと腹の虫が鳴いた。

  鳴いたのは少年ではなく、少女のものだった。

  その証拠と言わんばかりに、少女は顔を赤くしている。


「……腹が空いた」

「話して貰うためにはまず食料ってか」

  と言いながら、少年はため息をついた。

 ※ ※ ※ ※ ※

「俺の名前はレイクス。……それでお前は何者なんだ」

「妾の……名前は……ミオレだ」


  干し肉を全裸姿で咀嚼する少女とそれを見守る少年というなんとも不思議な空間となっていた。


「これを着ろ」


  レイクスはローブをミオレに渡す。

  それを不思議に思ったのかミオレは小首を傾げる。


「なぜだ? 妾は寒くないから大丈夫だ」

「そういう訳じゃなくてだな。俺が目のやり場に困るんだよ」

「ほう。なんだ? 妾の体型に欲情しているのか?」

 レイクスをいやらしい手つきで体を触ってくる。


「おい、やめ、ろ」

「そうかここが弱いのか」


  レイクスの太ももを集中的に触りだして、だんだんとミオレの潤んだ唇が近づいてくる。

  そして、重なり合う唇……とはならず、ミオレは耳たぶをあまがみし始めた。


「いい加減に」


  レイクスはミオレを振り払おうとしたとき、大きくバランスを崩してしまう。

  途端に手をついたが、地面の硬さはなく、柔らかな感触がそこにはあった。


「……これは?」


  ふにゅふにゅとした心地良い感触を二度、三度と確かめる。

 すると地面の方から、吐息が聞こえた。


「妾の胸を揉むとは大胆だな」


  レイクスの倒れた下にはミオレが居たのだった。

  一瞬動揺したものレイクスは平然さを取り戻し、ミオレの上にコートを乗せる。


「……なんだもう終わりか。つまらんのう」

  と、ミオレはむうっと唇を尖らせている。


 レイクスはため息つき、

「初対面の人によくそんなことができるな」

「人と喋るのは久しくての。気分を害したならすまない」


  そう言い、ミオレは倒れていた体を起こす。

  勿論、ミオレは全裸の姿ではなくなった。

 が、ところどころコートから見える谷間やうまい具合に隠れた秘部というそれはそれで違うエロさが出ていた。


「子供とじゃれあうのは慣れてる。それに悪い気分……でもなかった」


  レイクスも健全な男子である。

  美少女に体を触られて嬉しかったのは事実であった。


「子供ではないぞ。これでも四百年は生きているからな。少しは敬ってもいいのだぞ?」


  ミオレは腰に手を当てふんぞり返っていた。


  レイクスは小声で、

「その動作が子供っぽいんだよ」

「ん? なんか言ったか?」


  ミオレは小首を傾げる。


「いいや、なんでもない。それでお前は神戮具なのか?」

「お前ではないミオレだ」

「ミオレは神戮具ラグナロクでいいのか?」

「正解であるが正確ではないと言ったであろう」

「じゃあ、ミオレは何者なんだ?」

「妾達は思念体。……妖精の類と言ったほうが分かりやすいかのう」

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