第40話 封印ノート
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たかしくんへ
きょうもいっぱいこうえんであそんだね
たかしくんはどろんこまみれになって、どろんこをいっぱいなげてくるからいやだっだ。
くやしいからみずでっぽうでしかえしした。
たかしくんはきのぼりして、あみでせみをつかまえたのに、かわいそうだからといってにがしてあげた。
やさしいたかしくん だいすき
ケイより
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なんだこれ? 日記? でも、……日付がないな。でも、これだと五、六歳くらい? もうちょっと見てみよう。
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たかし君へ
今日はお母さんと弟の優作とたかし君のお母さんとたかし君と五人であたらしいショッピングセンターに行った。
優作がまいごになってみんなでさがした。
たかし君はケイと手をつないでさがしてたら、クラスのいじわるな男の子にラブラブーと言われてからかわれたら、たかし君が怒ってやっつけてくれた。
そして、ケイはいっぱいないて、たかしはなかなかいでって、なきやむまで頭をなでてくれた。
ケイはそんなたかし君が大好きです。
ケイより
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そんなことあったっけ? 新しいショッピングセンターって……あそこか。だったらこれは小学校二年か三年くらい? 誰だ? いじわるな男子って。
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隆君へ
お父さんが転きんでイギリスに行くことになった。
私はイヤだったけど、家族みんなで行くことになったので行くしかなかったんだ。
でも、隆君とはなれるのがつらくて、行くと決まってからはずっと隆君の顔を見たくなくて、隆君に冷たくしてしまった。
きらわわれるのもいやだったけど、別れたくなかったし、涙を見せるのがイヤだった。
でも、今日、空港に見送りに来てくれた時、いっぱい泣いた。
隆君が「帰って来たらまた一緒にあそぼうよ」ってなんども言ってくれて、ケイはそんな隆君にはじめてハグしちゃった。だってもっとはなれたくなくなっちゃったから。
隆君、手紙いっぱい書くからケイを絶対に忘れないでね。
大好きな大好きな隆君へ
ケイより
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これは、五年生くらいの頃だから思い出すのは無理か。――とにかく、三冊目までパラパラめくってたら、びっしり俺宛てのラブレターみたいになってて、ケイって小学生くらいまではそんなに俺のこと好きだったんだ、と嬉しくなりながらも、一方でこれはヤバイ、見てはいけないものだと思い、5冊あったが全部は読まずに押入れの上に戻した。
しかし……マジかよ、俺のことそんなに好きだったの? そりゃ幼児の頃のことは頭に刻みつけてる感じだから覚えてるけど、小学校ってそうだったかなぁ? 普通に学校一緒に行って、一緒に帰って来て、近所だからよく遊んでって、としか。俺はケイのこと好きだったけどさ、そんなの表に出してケイには言わなかったし。
――待てよ。そっか、俺が表に出さなかったみたいに、ケイも出さなかっただけなのか。なんかでもドキドキしちゃったな。そんなに思われてただなんてなぁ……あ、そろそろ六時か。ケイ、帰ってくる頃だな。
と思って、ケイの部屋から出ようとした時、ふと「まさか今でもあんなラブレターもどき書いてたりするのかな?」と、本当に興味本位で、ケイがちっちゃい頃からずっと使ってるその学習机の引き出しを開けたら……、あった。つい最近書いたであろうページが開いたままになって。でもまさか、二十七歳にもなってあんなラブレターもどきなものがあるわけがないと思って、ちらっと見たら――。
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隆へ
これを書くのは何年振りだろう? 多分、高校卒業以来だと思う。私がこれを書くのは自分の想いをここに閉じ込めるためだ。これまでたくさん閉じ込めて来た。
私が中学生一年になってはじめて男子生徒から告白されて、隆がそれに無関心を装った時、悔しくてその男子生徒と付き合ってさえ、それでも隆は無関心を装い続けた。あの頃が、その悔しさのあまり、一番酷くてかなりたくさん書いた覚えもあるけど、一回書いたら二度と見ないという自分への誓い――それを昨日初めて破った。
隆が千夏さんとの過去を知ろうとしたからだ。あの場所には私の過去もある。気にならない筈がない。だって、私は千夏さんのことをあの頃も知っていたからだ。私はずっとずっと隆のことを想って来た。彼女よりももっともっと想って来た、その証だから。
小学生六年になって、隆が私に好きな子が出来たと言って来たあの時の悔しさは今でも忘れられない。中学生になって男子生徒から告白されて付き合ったのはその復讐だったわけだし。
でも、大人になるにつれて、隆とずっといるには幼馴染の友達のままの方がいいと思うようになったし、それなら別れなくて済む。そうやって隆への想いを自分なりに消しゴムかけてきたようなものなのに、なぜ今になって千夏さんが現れたのか。封印していた筈のあの頃の自分自身の気持ちをどうしてそこまで刺激するのだろう?
やっぱり私は隆のことが好きだ。結局、封印しただけでその想いを変えることはできなかった。どうして運命ってこんなに残酷なのだろう。
隆には千夏さんと幸せになって欲しい。それが本心だ。だから、辛くても過去を知ろうとする隆には協力もしたし、二人を応援するようなこともした。でも、辛くて、このままでは私は壊れてしまいそうだ。
隆に抱きしめて欲しい。離れたくない。どうすればいいんだろう?
隆、助けて。
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――絶句する他なかった。これは絶対に見てはいけないものだ。それを見てしまった。俺とちなっちゃんが同じ火事の被害者だったという事実よりも、はるかに衝撃的だった。脳髄をハンマーで叩かれたような衝撃。
しばらくケイの部屋で、椅子に座って呆然としていて、ふと「私は千夏さんのことをあの頃も知っていた」という記述が気になった。……え? つまりこれはどういうことだ? ケイは何もかも知ってたってことか? 慌てて何度も読み直したが確かにそう書いてある。
すると、玄関の方でケイが帰ってきた声がした、慌てて、そのノートを机に元どおりにしまって、例の写真を入れた紙袋を手に取り、急いで部屋を出て、階段を降りると、
「あれ? 隆、上にいたの?」
とケイが玄関で靴を脱いで上がろうとしながら言った。でも俺は、ケイの顔を見ることが出来ず、一言も声を発することすら出来ず、そのまま神崎家を後にした――。
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