第31話 深夜のプロポーズ作戦計画
深夜二時半。山本が会議室で忘れていった婚約指輪を返そうと、誰もいない静まり返った社内のそのフロアをうろうろ探したのだが、山本がなかなか見つからない。どーせ朝になったら二人でテスト結果見るんだから、その時でいいかと思って廊下を歩いてたら、会議室のドアが少し開いてる。確か、あそこは御崎さんが寝てるとこだったよなと思って、近づいてみたんだ。
そしたら、ソファーで眠る御崎さんのそばに、山本が床に膝間付いててさ、御崎さんの手を握って、御崎さんの顔をじーっと見つめてたんだ。
邪魔しちゃ悪いな、と思い、取り敢えずそーっとそのまま自分のデスクまで戻った。――しかし、あんなの見せらちゃったらなぁ、なんとなくだけど、山本って結局、御崎さんのことを好きなんだろうな、と。とすれば、俺が知り得る限りの情報のみで推測する限り、プロポーズを「きちんとした思い出に残る方法」にしたいけど、なかなか上手くいかないって事になるよな。
でも、「きちんとした思い出に残る方法」ってどんなのだろう? つか世の中、プロポーズってやっぱ色々考えやらないとダメなんだろうかと、ネットで検索――。へぇ、世の中七割もの人がサプライズを求めてるんだ、とかぽけ〜っと感心してたら山本もデスクの方に戻ってきた。全然眠くもないので、朝まで暇だし、山本にほんとにそうなのかどうなのか、聞いてみようと、山本のデスクの側にあった椅子に俺は腰掛けた――。
「山本、さっきこれ会議室に忘れてたぜ」と、俺は婚約指輪をケースごと山本の机の上に置いた。
「あ……気付かなかった、ありがとう」と、山本はそれをデスクの引き出しに仕舞った。
「山本、俺さぁ、実は御崎さんから色々と相談受けてたんだ」
「なんとなくそんな気はしてたけど……」
「だからさ、俺も全く関係ないかと言えばそうでもないんだ」
「……で?」
「御崎さんに、プロポーズをきちんとやりたいから、待ってって言ったらしいな?」
「あいつ、そんなことまで御手洗に話ししたの? マジかよ……」
「ああ、でもさ最初聞いた時は、山本が適当に誤魔化してるだけなのかなぁと思ってたわけよ。でもさ、もしかしてそれってマジなの?」
すると山本は、何故かそのまま自分のデスクに突っ伏してしまった。で、そのまま黙ってたんだが、しばらくしてその状態でやっと山本が口を開いた。
「サプライズ」
「サプライズがどうかしたか?」
「全然、思い付かない」
というわけで、どうやらマジだったみたいだった。
「そんなの色々あるじゃん、思い出の場所に行くとかさー、どっかにその婚約指輪隠しておいて探させるとかさー、あるだろ? ネットでも簡単に出てくるじゃんか」
「ダメだそういうのでは。オリジナルでなければならん」
呆れた……。ただ、それに拘ってただけなのか。――アホだこいつ、意外と。
「いやしかし、御崎さんさ、延々待ってて、もう疲れ果ててもう別れるとまで言ってるぞ?」
そしたら、山本、突っ伏してたデスクからムクッと状態起こして真顔で言った。
「マジか?」
「マジだよ、昨日それ聞いたばっかりだし。別にそこまでこだわらなくとも、さっさとやっちゃえばいーじゃん。婚約指輪、持ってんだからさ、今起こしてさっさとプロポーズしちゃうとかはダメなの?」
「……それ、さっきやろうとしたけど、出来なかった」
なんだ、あれはプロポーズしようとしてたのか。
「なんでやらないんだよ?」
「だからそれではサプライズにならない」
――信じがたい拘り。
つまりこのままだと、お互い全然結婚の意思ははっきりあるのに、御崎さんもずーっと待ってるのに、たかが山本のサプライズへの飽くなき拘りだけを理由に、別れるってことになるんだが。
「困った奴だな、山本って意外と」
と俺が言うと、また山本はデスクに突っ伏してしまう。
「なぁ、御手洗ちゃんさぁ、なんかサプライズのいいアイデアない?」
んなこと俺に聞くか? マジで呆れた……。
その時、テストを走らせてるその確認用PCから警告音が聞こえてきた。
「山本、あれちょっと見てくるわ。大きな問題なければスルーして進めていいな?」
「うん、いいよー」
で、俺はそのパソコンまで行って、色々と確認とかしてたんだよね。それで、ふと、あ、これ使えるんじゃね? って思いついてさ。で、山本のデスクまで行ってそのアイデアを話ししたら、
「よし!いけるじゃんそれ!いいねー!」
と、嬉しそうに山本が乗ってきたわけ。で、山本と二人で色々と打ち合わせて、朝が来るのを待ったわけだ。
本来は、計算では朝七時頃には完了する筈だったが、夜中にちょっと警告を吐いて俺がテストを一旦止めて少し作業をしたので、完了は概ね八時頃にずれ込む算段となった。ほとんど寝ずの番だった山本と俺は、最後は完了確認のボタンをクリックするだけだからと朝起きてきた御崎さんに説明して、応接室のソファーで仮眠する、ってことに。で、御崎さんはその確認用PCの前でずーっと待ってる形。
――実はこれ、全部プロポースの作戦のうちだった。
いやいや、実に見事なくらい成功した。そこまで感動的になるとは、思いついた俺としては予想外。どんなプロポーズ作戦だったかと言うと――。
八時前くらいに二課のみんなに出勤して来るように、メッセージ打っておいたのだ。御崎さんは、九時出社なのにみんな早く出勤して来るなぁと不思議がっていたみたいだけどね。それで、出勤してきたら俺たちが寝てた応接室に来るように言っておいて、来たら計画を説明し、全員じゃないけど何人かにはあるものを配った。
で、実は、その自動テストが終了すると、御崎さんが確認ボタン押したら、ある表示が現れるように仕込んでおいたのだ。
《♡御崎舞さん、私、山本勝男と結婚して下さい♡》
って。その瞬間には御崎さんの背後で当然、山本がスタンバってて、その周りに出勤して来たみんなもそーっと集まっててさ。で、その画面を御崎さんが見た時、「え?え?え?」みたいに驚いててさ、御崎さんが後ろ振り返って、そこで山本が膝間づいて指輪のケースを出して、開けて、「結婚して下さい」って。
そしたら御崎さんがいきなり涙目になって泣き出して、御崎さんがコクっと頷いたその瞬間――。
周りに集まってたみんながクラッカーでパーンって、みんなで「おめでとー!」って。で、その後、散々みんなで祝福してさ。
いやーさすがに独身の俺も感動して、涙出ました。……朝までほとんどずっと起きてたから、目がかなり辛かったのが正直なところではあるが。とにかく発案者の俺としては、上手く言ってよかったな、と。内心、これで妙な御崎さんの悩み相談にも付き合わなくて済むなぁと、ホッとしたのでありました。
***
この日は金曜日。朝、そういうサプライズやった後、疲れ果てて三人とも帰ったんだけど、とにかく気分は良かった。とにかく、眠くて、自宅に戻るとベッドに崩れ落ちるようにして夕方までぐっすり。
――ピーンポーン。
その音に目を覚ますと、すでに夜七時。うっはー、こりゃ幾ら何でも寝すぎだ。とにかく、受話器に出なきゃな。
「はーい、御手洗ですが」
「ケイだよ、開けてー」
「ちょっと待ってすぐ開ける」
と言って俺は、玄関に行ってドアを開けたら、そこにはケイと優作がいた。
「隆、電話しても全然出ないから直接来ちゃった」
「ああ、徹夜だったからさ。さっきまで寝てたんだけど、何? 中入る?」
「いやここでいい。……優作、こないだのこと、きちんとお礼言いなさい」
ケイがそう言うと、それまでケイの背後にいた優作は、ケイと立ち位置を入れ替えて前に出た。
「今まで色々とありがとうございました。一応、郷原家の方で農業の方をやることが決まりまして、これあの、向こうで採れたものですけどお礼に」
と優作が言って渡されたのは、袋いっぱいに入った野菜の他に、何と松茸が。
「わー、ありがとー。とにかく、向こうでやって行くって決まったんだな?」
「はい、田舎のお父さんにも是非こっちで跡取りになれるくらい頑張って欲しいって言われまして、覚悟決めました」
「偉いじゃん。お母さんにも報告したの?」
「はい。母にもなんとか認めてもらえました」
するとケイは優作の背後から、横に並び直して言う。
「隆、ありがとね。また今度うちに来てよ。うちも松茸とか色々いっぱいもらっちゃってさ、あんなには食べられないし」
「うん、とにかく、良かったじゃん」
――その時、ちょうど櫻井姉妹が二人で一緒に四階に上がって来たのと出会して、俺とケイは普通に挨拶したりしてたんだけど、一人、優作の様子が変。部屋に入った櫻井姉妹のそのドアの方見て、こう言ったんだ。
「……あの子、どっかで見たことある」って。
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