第二章 1悪夢の始まり

 

 俺は約4時間、セータンを探し続けた。

 心当たりのある場所は全て当たった。

 当然、バイト先の事務室にも顔を出したが、見つからない。


 ちなみに、チームメンバーの3人は公園で作戦を考え、決してセータンを探そうとはしない。



 どこ行ったんだ……

 まあ、能力で異次元に姿を消していたら絶対見つからない。

 コンビニ前の歩道、俺は必死に探す。


「やすくん!」


 そう声をかけてきたのは母だった。

 名前で呼ばれる事が少なくなったから、新鮮な気持ちだ。



「母さん 何だ?今忙しいんだが」

「うちに来て」



 母に言われるがまま家に向かった。

 俺はセータンが心配で心配でたまらない。

 何かあったらどうしよう……頭の中がセータンで一杯だ。



 自宅前。

 何だかんだで俺らは公園で野宿してたから久々な感じがする。


「で、何かあんのか?」

「良いから上がりなさい」


 ドアを開ける母


「うぅ……ダーク……」


 涙が溢れ止まらないセータンがそこに居た。


「せ、せ……せーたん…セータン!!」


 安心感と共に会えた喜び、数時間離れていた寂しさ、全ての感情が爆発し、セータンを抱きしめた。


「俺を一人にしないでくれ……」


 母が隣に居るが、恥ずかしさを感じない。


「うぐっ……ぅ……」


 俺達は抱きしめるのを止めない。

 セータンの温もり、匂い、胸の感触、髪の毛……全てを感じ続ける。



 母は俺達に配慮したのか居間に戻った。



「セータン、何故こんな事をしたんだ?」

「セドラと……」

「え?」


 セータンは強く俺を抱きしめる。


「キ、キスしたから……」

「え?いや、あれは無理矢理だろ!?」

「我と……その……」


 てっきり俺は何か死ぬぐらい深刻な何かを抱えて俺達に近づけない理由があると思ってたからホッとする。


「キスし、しろ……!」

「ふぁ!?え、え?い、今なんて?え!?」

「二度も言わせるな……」


 俺みたいな売れないボーカルをしながら、適当に夜勤を入り続けて大学はロクに行かずにチート能力を持ってる21歳がセータンの唇を奪うなんて勿体なすぎる。


「セドラとは出来て我とは出来ない……」

「いやいやいやいや!そうじゃない!そうじゃないけど……」

「けど?」


 少し間が開く。

 抱き合っているセータンの鼓動を感じている。


「セータン いきなりだが、俺はこんな気持ち初めてなんだ 好きとかじゃない そんなんじゃない」

「え……?」

「だが、お前を誰よりも愛してる自信はある」


 俺は生まれて初めて告白した。

 正直、恋愛的な意味の好きとか嫌いっていう感情が良く分からないが、俺の言葉に偽りはない。


「我は……ダークに恋している」

「う、う、ううむ!」


 これ、キスする展開か?

 いやいや、俺やり方わかんねえぞ?!

 というか、こんな玄関でやる事じゃねえ……


「な、なあ?セータン 外行かないか?」

「良いだろう……連れていけ」


 俺とセータンは外へ出た。


「どこ行く?」

「ショッピングモールに行ってみたい!」


 思ってた返事ではなかった。

 まさかセータンがショッピングモールに行こうと思うとは……


「なら、駅前の大型ショッピングモールに行くか?」

「うん!」


 俺達は歩く。勿論、手を繋いで。

 第二回戦が行われる事や、今俺達チームの3人が作戦会議している事を忘れて。



 ショッピングモール前


 にしても、俺は小学生以来だろうか。こんな場所に来たのは。

 友達が居なかった俺は家族以外と外出した経験が皆無だ。


「映画が観たい!」

「映画かぁ よし、観るか」


 映画館で映画を観るのは何十年ぶりだろうか。

 4階にある映画館に向かった。


「うわぁ……なんか映画館って感じだわ この感じ」

「ここが映画館か……」

「え、来たことねえの!?」


 セータンは映画館に来たことに感動してた。


「いや、昔あるとは思うんだが 魔王してたからな 映画館とは無縁だった」

「魔界には映画館無かったんだな」

「うむ」


 俺達は何を観るか考えず、受付に並んでいた。


「次の方こちらへどうぞ」

 受付の女性が俺達を誘導した。


「本日は何を鑑賞なされますか?」


「……」

「…………」


「ええと、本日は何を……」


 俺、今何が流行ってるとか知らねえんだわ、ってかセータン観たい映画あるんじゃねえのか……


 セータンを見ると、俺に助けを求める様な目をしていた。


 仕方ねえな……



「すいません、ちょっと決めてなくて 何かオススメありますか?」

「オススメですと あ、カップルなら この作品はいかがでしょう?」


「あぅぅ……」


 カップル!?

 思わず、セータンも口に出そうになっている。


「あ、わ、わかりました では……それで……」

「高校生2人組ですと、1800円になります」

「え?」


 え、何、俺高校生に見られてんの?!


「通常、高校生料金ですと1000円なのですが、カップル割引として900円になってます」

「あ……じ、じゃあ、こ、これで……」

「200円のお返しになります ありがとうございます」



 なんか、得した?いや、プライドがズタボロだわ!もう成人してるんだよ!!こっちは!!



「何の映画なの?」

「あ、そうだな、ええと?」


 俺達は映画のタイトルを見て少し固まった。


『愛love ドキドキラブラブ青春物語R18』


 い、いやいやいやいや!お、俺は良いけど、セータンアウトじゃね!?ってか高校生に見間違えたならこれ勧めて来んなよ!!ええ!?


「違うのにするか」

「いや、これが良い!うんうん!」

「え」


 セータンのテンションが上がっている。


「我はポップコーンが食べたい」

「ん、りょーかい」


 期間限定七味唐辛子味(10禁)を購入した。

 ポップコーンに年齢制限がある……これが普通なのか……


 俺達は映画を2時間観た。

 まあ、内容はあまり人前で言える様な物ではないのだが……


「ダークぅぅ……ドキドキしたな……」

「え!?あ、あ、ああ!」

「ダーク、ぎゅってしたい気分だ」


 セータンに抱きつかれる。

 ちなみに、ここは映画館ロビーのど真ん中。

 人目がヤバい。



「はぅ……あれは何をしてたんだ……?」

「え!?」


 セータンが喰い付いてしまった。

 ピュアな心を持ったセータンに悪影響を及ぼした……


「ありゃあ、そうだな そうなんだよなぁぁぁあ ん?あ!公園戻らねえと!!」

「え!?ダーク!」


 俺はセータンの手を掴んでショッピングモールを出た。

 俺達は何かあるとすぐ抱きしめる癖があるが、抱き合うと安心感が得れる。



「ちょっと疲れたな」

「う、うむ……」


 公園付近の大通りを歩いていた。

 そういや、あの三人ちゃんと話し合えてるかな?と不安が過ぎる俺。


「ダーク、我から離れないでね」

「当たり前だよ セータン」


 あー、セータンかわいい。

 もう俺どうにかなっちまいそうだわ。












 …………これが悪夢の始まりだった。








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