第一章 8セータンとの出会い

 

『では、先鋒を開始致します』



 先鋒戦が始まった、俺達は声が出せない。

 相手が誰なのかもまだ分からない。

 いや、名前が分かった所で……って感じだが。



「ふっ……ふっ……俺様のパンティーどうだい?魅力的だろ?」


「我はそういう奴が嫌いだ」


 セータンがいきなり魔法を発動の準備を始めた。


「闇より暗黒に満ちた精霊よ……今我と共に解き放て!!」


「ほどなるねぇ……闇より暗黒に満ちた精霊よ……我と共に解き放てーっと」


「ヴァンアロー!!」

「ヴァンアロー!!」


 この男とセータンがほぼ同時に同じ魔法を発動する。

 あいつは何者なんだ?


 真っ黒で少し紫色をしている槍がセータン、パンツ一丁の手元に渡り、それが放たれた。


「うぐっ……」

「うぁぁぁっっ!!」


 お互い、同じ魔法を出し、同じ魔法を受けた。



「ふっ……世界最強の俺にひれ伏せろは誰にも負けねえ」


「貴方が世界最強の俺にひれ伏せろか 我が名はセータン!魔界第938代魔王して魔界魔人序列一位!!冥魔力保持者だ!」



 あぁ、こいつが変な名前の奴か……確かレベルは3だったな。


「おおっと、セータンさん レベル90ですかぁぁ……これはこれは」





 ☆☆




 まずいですな。

 私、世界最強の俺にひれ伏せろって名前を付けたのですが、実は言うとクッソ弱いんですよねぇ。

 私の能力は相手のステータス、能力をコピーする能力。

 つまりセータンさんと互角、いや、身長や身体能力の面では私の方が上なはずなのですが……


 実は、この能力10分しか持続しないんですよねぇ。

 セータンさんにリタイアして貰う何かを考えないと私は完全に詰みます。



「精霊結界を発動させる!!」


 なんだなんだ!?精霊結界?!

 ま、とりあえず同じこと言えば良いか!!


「精霊結界を発動させるよぉー」


 うぁぁ、なんだこりゃ。

 私の周りに変なゾーンみたいなのが出来て体が軽い。

 このセータンって女の子強いわ。



 そう、私はこのように、お前の技は全て私も持っているから通用しないんだわってオーラを振りまかないといけないわけだ。

 ちなみに、対戦は今日が初めてだから、あまり慣れていない。


 だからパンツ一丁で来たんだよ。


 えと……ところで、この精霊結界ってのは何……?



 スキルが使えてもスキルの詳細まで私には分からない。




 ☆☆




 なんでヴァンアローを使えるの!?

 あの技は我が魔界で特訓に特訓を重ねて作った魔法。

 我以外が使えるはずがない……


 少し精霊の力でも借りるしか無さそうね。

「精霊結界を発動させる!!」


 よし、これで精霊を召喚させれば優位に……


「精霊結界を発動させるよぉー」


 え、なんで!?え、え!?

 精霊結界術も持っているの?!

 なら、ここで精霊を出すと危険……

 相手が精霊術師なのだとしたら、相打ちになって最悪の場合死ぬ……


 何なのこの人……嫌だ……






 …………








 我は、いつもそうだ。

 追い込まれるといつも……




 我は小学校の時、クラスの女子から虐められていた。

 クラスのリーダーみたいな存在の子が好きだった男子が我の事を好きだったらしい。

 理由はそれだけ。


 小学校5年生の時、毎日一緒に登校していた友達が突然他の子と登校するようになった。

 約5年間、ほぼ毎日待ち合わせて学校へ行っていた親友だったんだが、口を聞いてくれなくなった。



 学校へ着くと黒板に『たらし女』など毎日違う言葉で書かれていた。

 私は男子に恋をした事などないのに……

 下駄箱に入れた新しい靴がドロドロになってカッターで切り刻まれていた。

 我は一人泣いた、ただ泣くことしか出来なかった。

 当然誰も助けてなどくれない。

 助けるとイジメの標的になるからだ。


 我の事が好きだった男子は我を虐め始めた。

 この男子が原因で我はいじめられているのに、理不尽で憎く思った……

 先生は新卒の先生で、笑いながら注意をする。

「お前ら、せいなと仲良くしろーははは」

 先生は笑う。笑う。笑う……


 私は世界が怖くなった。

 人間が恐ろしく感じた。


 ほんの一週間前まで仲良くしてた友達が、我の事を好きって言ってた男子が、先生が。

 敵に回った。



 我は追い込まれていた。


 一番許せなかった事があった。

 私の母が作ったお弁当を捨てられた事だ。

 それだけは許せなかった。

 我は、殺す気で捨てたイジメっ子のリーダーである女子を殴った。


 周りは見てるだけ。先生は口だけで何もしない、いや少し楽しんでいるようにも見えた。

 そして、その女子が泣いた。

 泣いたら勝ち。たまたま教頭先生が廊下を歩いてきた。


 その女子は言った

『何もしてないのに殴られた』

 先生は言った。

『教頭先生、せいなが全部悪いんです』

 クラスのみんなは言った。

『せいな最悪、消えろ』


 我は教頭先生に酷く怒られた。

 そして、その女子の親に罵声を浴びせられ、

 更に母にまで……


 普通に学校生活を楽しんで居たのに。

 ただ単に生きてきただけなのに、なんでこんな事になるの……?

 我は現実を見たくなかった。

 その日を境に家庭が壊れ始めた。

 母もママ友からイジメられ始めたのかは分からない……

 けど、大好きな母が毎日我に暴力を振るうようになった。

 そして父は女を作り始め、ギャンブルにのめり込むようになった。


 気がつけば、毎日朝早く起きて作ってくれていたお弁当は、無くなり。

 気がつけばクラスで危険な子としてイジメられる様になった。


 耐えられなかった。

 ただただ……耐えられなかった。


 エスカレートしていくイジメ。

 次第には先生もイジメ始める。

 体育では我だけ居残りで20km走らされ、

 教室での授業は先生の命令に従い、パシられる日々。

 母からの暴力もエスカレートし、近所のおばさんが警察に通報した。

 我は母を庇った……けど、おばさんは盗撮していた。

 母は捕まり、父と二人で暮らす事になった。


 父は女を何人も何人も家に入れ、毎日パーティーを開いている。

 我に寝る時間はない……


 もう、いっそ死のうと考えた。

 我の味方はこんな一瞬で消えるんだ……

 こんな世界消えてしまえばいい……


 我は学校のトイレでカッターを持ち、脈を切ろうとした。

『うぇぇぇーーい!』

 上からバケツやホースで水が被せられる。


「うぅ……なんで……私こんな……」


 我はどうにかなってしまいそうだ。

 その前に……


(まって、せいなちゃん)


 どこからか声が聞こえるけど、我には関係ない。またイジメっ子の声だろう。


 我はカッターを脈に当てた。


 カーーンッッ……


 カッターが地面に落ちた。

 我はトイレの中で死ぬ事も出来ないのか。


(貴方はもう生まれ変わったのよ)


 え……?


(貴方は死なないわ)


 これが我とこの声の主……

 精霊〈セータン〉との出会いだった。

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