第4話 混沌の理


璃音が亮の結界領域を訪れてから三日後のこと。后妃が危篤状態になり、国王から璃音へ神力循環をうつした時、璃音は亮と国王である天吹 凛樹以外のメンバーを全員集めた。

「とうとうこの時が来たわねえ」

璃音の言葉に全員が頷いた。

「やっとですぅ…私たちの仲間が増えるんですぅ。ようやく13人揃うんですねぇ」

琉那が言った。

「30年以上かかってようやく~?僕としては何で彼だけこの世界の生まれじゃなかったんですかね」

禁書の間の番人を他の一族達に任せてきたイリアが言った。

「まあそれは言っても仕方ないよ、イリア。で?準備の方は大丈夫なんですか?」

エルンストが尋ねた。

「俺と和人で大まかな策略はたてました。凛樹のほうが協力できなさそうなので、凛伽に頼みたいと思うんだけどさー。凛伽的にはどうなのよ?」

真が言った。その言葉にぶすくれた凛伽がボソリと言った。

「わかったわ。あいつをお兄様があの女をよみがえらせようとしたときに、連れていけばいいのね?それにしても10人程『あれ』が連れて行くっていうのは本当なのかしら?」

凛伽の言葉にノクトは言う。

「そうです。あいつ、13回目の神々の黄昏(ラグナロク)に使うみたいで、阻止は無理だと思う。」

ノクトの言葉に皆驚いた様子だった。

「13回目か。…私達の使命はそれなのかしらね?」

璃音の言葉にノクトは言う。

「おそらく。まあはっきりと視えたわけじゃないし、…でも、この世界が滅びるのは視た」

他のメンバーはまあそうでしょうね的な顔になった。

「滅びないなんてものはないんだから。それにこの世界は天吹と蒼神のどちらかが王位について神力の循環をさせなければ滅びてしまう世界。他の2国も民主化運動が続いているから、おそらくそんなには保たないでしょうね、この世界は」

璃音は言った。

「民衆ってホント愚かですぅ。なぜ私達が苦心して世界を維持しているのかがわかってないんですからぁ!」

バンっと壁を琉那は蹴った。

「人の家壊さないでくれる?」

璃音が冷たい言葉で言った。

「お前さ、キレるとすぐなんでも蹴りいれるよな。いい加減にしたら?」

ヴィルトゥーズが言った。

「うるさいですぅ!!!それにしてもなんでうちの国王はあの女にベタ甘なんですかぁ!!!私達を死なせなくしたのあの女のせいじゃないですかぁ!!」

ギャーギャー琉那が喚いた。

「うるさいですね、琉那は。とりあえず、璃音、作戦についての資料渡しておきますね。」

和人がすっと差し出した紙束を璃音は高速で読んで言った。

「…これ私達完全に恨まれるパターンじゃないの?」

璃音がぼそっと言った。

「えっ、だって彼を連れて行かれても困りますし、他の連れて行かれそうなメンバーに関しては僕の異能で記憶から存在消せますし。…エルンストとかアルヴィンとかヴィルトゥーズを仲間にした時に散々恨まれたじゃないですか。別にもういいんじゃないんですか?」

和人が開き直った様子で言った。その様子に真以外のメンバーは呆れた様子になった。

「…こいつが作戦たてるのもうやめにしない?」

凛伽の言葉に真以外のメンバーが頷いた。

「でも適任者他にいないよね?どうするの?」

その言葉に他のメンバーは黙り込んだ。

「どうしたもんかねえ。まあ凛伽がいくしかないだろ。璃音は璃音で湧き出してく闇を抑えなきゃいけないし、他のメンバーもあれが連れてくる軍勢に対抗しなきゃいけないだろう」

ヴィルトゥーズの言葉に璃音は言った。

「確かに。私達以外の異能持ちの人たちにも協力を頼みましょう。正直動けるのが100人位だったかしら?それなら何とか抑えられるでしょうし」

璃音の言葉に和人が言った。

「まあそれしかないですよね。僕が手配しておきます。全力で抑えないと…僕らがここまで苦労してきたかいがない」

その言葉に全員が頷いた。

「じゃあはじめましょうか。『あれ』のせいでこの世界が滅んだりしたら、私達やってられないわね」

璃音の言葉に全員が一致した。


璃音たちが蒼神邸にて密談をしていた頃。国王である凛樹はずっと朱雫のそばにいた。もちろん政務は宰相に任せて、である。

「…父上が揺一族の殲滅を指示し、そのことに怒ったお前が『命の輪廻』で殲滅に参加していた妹たちを不老不死にさせてからもう40年前か。そして俺がお前を見捨ててこの世界を離れたのもちょうどその頃だったな…お前にとってのその8年間はどうだったんだろうな」

ボソリと凛樹が言った。呼吸が荒く、ひどい汗をかいている朱雫に対して独白するように。

「その間のお前はどうだったんだろうと考えるよ、俺は。結果的に俺はお前を見捨てて逃げたわけだし、そのへんは申し訳なかったと思う。でも、俺は8年間を有意義に過ごさせてもらったよ。だからこそ今、この国があるんだ。…お前を犠牲にしたようで悪かった。…すまない、朱雫」

凛樹が朱雫の髪を撫でながら言った。その時、朱雫の目がパチリと開いた。

「そんなに・・・あやま・・・らなくても、いいです。私は・・・しあ・・・わせで、した。あり・・・がとう」

そう言うと朱雫は目を閉じて、最後の息を吐いた。

「…朱雫?」

呆然とした凛樹の言葉を残して。蒼 朱雫はこの世を去った。



蒼神邸にて璃音は后妃の死の一報を聞いた。

「ふーん、ついに死んだんだ。あの女。さてノクト、この状態だと『あれ』が来るの具体的な時間とかわかるんじゃない?」

璃音の執務室にて璃音はノクトに尋ねた。

「明日の午前0時ぴったりに、蒼の宮に来るね。そしてこの世界中に影の一族が発生して、暴れだすけど、どうするんだ?」

ノクトの言葉にアルヴィンが言う。

「…俺とエルンストでサルヴァリア王国に向かう。ヴィルと琉那がエネサンクチュアリ王国に向かって抑えるでいいんじゃね?」

その言葉に璃音は言った。

「それでいきましょう。イリアとノクトと真、亮で抑えるわよ。この国は。桜ノ宮に関してはお姉様に一任しましょう。お姉様は近衛の将軍だし、不測の事態になっても抑えてくれるでしょ?おそらく」

その言葉に室内にいたノクトとアルヴィンは顔を見合わせた。

「…マジでやる気なのかな」

「そうじゃね?」

コソコソとノクトとアルヴィンはいったが、璃音の耳にはいったようだ。

「ほんとにやるわよ。それにこの世界に桜ノ宮をおいておくっていうのはこの世界の寿命を縮めること。だったらとっとと黒白の一族になってもらって、私達の仲間になってもらって、この世界に影響を及ぼさないようにするのが、最善の手じゃない?」

「…」「…」

二人共メチャクチャな理論に頭を抱えた。凛樹、凛伽、璃音の三兄妹はこういう無茶苦茶な理論で最善の手を生み出すのだ。誰に似たのかはしらないが。

「…ここは従うしかないね」

「だな」

その二人の言葉を聞いて璃音は満足そうな顔をした


午前0時前、各地に散った璃音たちは警戒体制をとっていた。もちろんあの例の『あれ』対策である。璃音は各地に散らばっている異能持ちにも戦うように指示していた。

「さて今頃はお姉様が桜ノ宮を蒼の宮に連れて行っている頃かしらねえ」

璃音は王都の直上にいた。

「…あの女が蘇って、三代目の運命の女(ファム・ファタール)になって、そして私達が戦うか。…ノクトの言ってることはどこまでが真実なのかしらね」

璃音は午後10時頃に血相を変えたノクトが飛び込んできて、璃音に言ったのだ。

『運命が変わった。俺達は桜ノ宮 樹の黒白の一族の覚醒を持って、全員13代目のヴァリムフェリアーデになるっていう未来が視えた』

その一言は璃音たちを震撼させた。おかしい。神々の黄昏(ラグナロク)は12代目で終わったはずなのに。

「あれが来るってことで私達の運命は変わったのかしらね…?」

璃音はぼそっと言った。


そして日付が変わった。


その瞬間にすさまじい数の影の一族が現れた。

「団体さんのおでましか。さてと、それじゃあはじめましょうか」

璃音は羽織っていたマントから無数のナイフを出現させ、言った。

「……『魔弾の射手』」

璃音がそう言うと無数の電磁砲が現れ、その中に次々とナイフが入り、ナイフの刃先が粉々になって打ち出された。もちろん、光速で。それが影の一族を襲った。その瞬間絶叫を上げる影の一族達を見て璃音は言った。

「私達が、必死で守っている世界に土足で踏み込んだのだからこういうことになるくらいは、予測できたんじゃないの?………デストラクション・フロムヘヴン!」

空間に巨大な剣と魔法陣が浮かび上がり、その魔法陣からは無数の刃と熱風が影の一族達を更に襲う。

「死ぬまで殺してあげるよ。何度でもね」

璃音は冷酷に言い放つと、剣を空間からだし、影の一族たちの中へとつっこんでいった。


その頃、王宮の人知れずの抜け道に凛伽と樹が走っていた。ちなみに亮の家から凛伽が連れ出してきたのである。そして王宮に入ると周りが影の一族だらけで、二人は走りながら敵を壊していった。

「私のデスグレイブの威力舐めすぎよ。影の一族が!」

凛伽が叫びながらブンッとグレイブをはらうと一瞬にして目の前にいた影の一族が消えた。

「すごい…」

樹が呆然とした様子で言った。その言葉に対して凛伽はいった。

「私はこれでも近衛の将軍だし。これぐらいできないと、一族の恥だわ」

さらにデスグレイブを振り、敵を殲滅していく。

「早くいくわよ、桜ノ宮。じゃないととんでもないことになるわよ。貴方がね」



そして蒼の宮についた時、二人の背中に怖気がはしった。

「これは…!?」

樹の言葉に凛伽が言った。

「これは禁呪を使っている感じね。…さて覚悟は良いかしら?入るわよ」

そういうと凛伽は樹の首根っこを掴んで中へとはいっていった。



蒼の宮内部

そこには凄まじい邪気が渦巻いていた。

「璃音の言うとおり、やっぱり黄泉帰らせようとしてるのね、お兄様」

凛伽がぼそっと言った。

「…それどういうことだ?」

樹が尋ねた。その言葉に凛伽はいった。

「貴方には愛してる人っていないの?愛してる人に先立たれたらなんとしてでも黄泉帰らせようとしようと思わない?私は…他世界に干渉して、私の愛する人を黄泉帰らせようとして、罰を受けて黒白の一族になった。あなたはどうなのかしら?」

その言葉に樹は言葉を失った。樹は自分でもそうするだろうと思ったからだ。

「俺…は…」

樹が言葉を紡いだ瞬間、ブワッと風が吹き凛伽、樹、凛樹はふっとばされた。

「…お出ましね」

凛伽の言葉は誰の耳にも入らなかった。




「まさかの天吹一族が、こちら側の禁呪を使って黄泉帰らせようとするのはなんという皮肉の行為だの」

突如として現れたのは黒い塊のようなものだった。それが喋っている。

「貴方が師匠の言っていた、『混沌の理』…‥!?」

凛伽の呆然とした言葉に黒い塊はいった。

「我が混沌の理。ラグナロクを生み出すもの。ちょうどいいな、この女は。『禁忌の輪廻』を持っているとは都合がいい。もらっていこう」

その言葉に凛樹はいった。

「誰が…お前なんかに!!」

凛樹がブワッと凄まじい神力を放ったが混沌の理はそれをかき消していった。

「この女は『運命の女(ファム・ファタール)』として我がもらっておこう。…しかし貴様らは邪魔だな。消えろ」

混沌の理がそういうと凄まじい闇の力が放たれて、三人を襲うはずだった、が。

「めんどくさいな。何で俺が出なければならない」

バンっと音がして恐る恐る三人が目を開けるとそこには白いマントに黒い軍服を着た青年が立っていた。

どうやら混沌の理が放った力を弾き返したらしい。

「久しぶりだな。『混沌の理』。最初のラグナロクであって以来か?」

マントを外しながら青年は言った。そのマントをひょいっとぶっ飛ばされたまま呆然としている三人にかけた。

「久しぶりだの。黒白の一族の唯一の『神』、蒼天華 凛珠よ、だが一足遅かったようだな」

その言葉に凛珠が樹の方を見ると、樹が『桜ノ宮』ではなく、黒白の一族になっていることに気がついた。

「へえ…これで役者は揃ったというわけか。この世界の連中が自分たちで最後のラグナロクになるように仕向けていたのを利用としていたわけか。自覚はなくとも。お前は最後の仕上げとばかりに『禁忌の輪廻』を持つ蒼 朱雫を手に入れ…13回目のラグナロクを始める気か。…まあ俺達が鍛えるわけだから負けるはずはない。お前たちが奪っていったものも全部取り返してやるよ」

凛珠が言うと、心底面白いというように混沌の理が言った。

「フハハハハハハハ!それは面白い。今度こそケリをつけようではないか。今回は貴様ら側の生き残っているヴァリムフェリアーデ全員の参加も認めてやる。祭りは…楽しい方が良いではないか!貴様らの絶望みせてやろうではないか!フハハハハハハハ!」

そういうと混沌の理の姿が薄れていき、完全に消えた。

「…さてと、俺は撤退するか。早く戻らなければ、千尋にお小言くらうな」

そういうと青年は消えた。

それと同時に神風抄国から影の一族が撤退した。




「ふうん、消えたってことはあれは撤退したのかしら?」

返り血で染まった璃音は言った。死体とかも全て消えた。

「しかもなにか強大な神力を持っているやつもいたけど…あれは一体…」

璃音はその正体を次の日きくことになった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る