第2話 邂逅


后妃が倒れ、当代の神風抄国国王は他世界へと通じる通路を全て封鎖した。しかしその後神風抄国界へと一人の青年が入ってきた。通路封鎖後の二時間後の事だった。

 そのことにまず気づいたのは璃音だった。国王である異父兄から国王の仕事の一つの役目である『世界に神力を循環させる』を請け負っていった璃音は突如として現れた神力の循環を妨げる存在をすぐに感知した。

 「ノクトの予言通り本当にくるとはね」

璃音は蒼神家本邸での応接室にて集まっていた面々にむかっていった。その面々とは碓氷和人、ノクト・ヴィルセルト、アルヴィン・J・クリップ、エルンスト・クォーツ、ヴィルトゥーズ・ヴェスペリア、雪嘉 琉那、蒼刻 真、そして普段は別次元に結界を張って引きこもっている桜花 亮がいた。

「もう、なんで入ってこれたんですう!!!陛下のお力で今は通路封鎖されているはずじゃなかったんですかぁ!!」

琉那がギャーギャー騒いだ。

「どうやらあいつは俺達と同じく通路を使わずとも別世界へ行き来出来る力を持っているようだ。俺だって空間遮断の術張っていたのにもかかわらず、桜ノ宮のやつが普通に通り抜けたからな。つまり持っている力は俺より上。もしかしたら璃音と同等の力を持っているのかもしれない」

蒼刻 真が言った。時と空間を自在に操れる真は近衛の副将軍を務めている。今回は凛伽の命令で世界間を切り離すために空間を遮断していた。それなのに通ってこられたというのは

「璃音と同等ね…。なるほど、だからあの一族は追放されたってわけですか。で、璃音。神力の循環はできていますか?」

亮が璃音に対して尋ねた。

「いつもの2倍流して通常通りってやつかな。お兄さまより神力持っている私じゃないとできない芸当だわ。正直言ってきついのよね。長期化すると」

その言葉に全員が黙りこんだ。神力――それは命の力。生命力と残りの寿命を特殊なエネルギーに変え、術の使用に使うもの。神風抄国界ではその神力の循環をさせないとすぐさま世界が崩壊してしまうという致命的な弱点を抱えていた。いつ頃からはわからないけれど、それは神風抄国の国王が担うという役目を持っていた。

「じゃあ、亮、貴方はどうみていますか?桜ノ宮をこの世界を入れなくしたのは貴方の一族でしょう?」

エルンストの言葉に亮は言った。

「…第一に考えられるのは、僕らと同じ『使命』を持った人間だということ。もしくはイレギュラーで僕らの一族が代々かけてきた術がかけられていないってことが考えられます。僕の個人的な意見としては、両者が合わさってここに入ってこられたのではないのかと考えています」

淡々と亮は言った。

「…まじ?」

ヴィルトゥーズが言った。

「それ以外に考えられる理由ってあるの?」

璃音は逆にヴィルトゥーズに尋ねた。

「…ないね」

ヴィルトゥーズはしばらく考えてから言った。

「というわけで、和人。桜ノ宮のやつ、ここに連れて来てくれない?亮はあなたの結界領域に入れるようにして欲しいわ。ノクトたちは全力であいつの素性調査にあたってちょうだい。…それでははじめましょう。私達の仲間に引きずり込むことを」

その時、真のスマートフォンが着信音を鳴らした。

「俺だけど…イリア?……なんだって?桜ノ宮らしき奴が禁書の間に入ってただって?至急来てほしいって?ちょうど、和人が迎えに行くかという話をしていたところ…うん。………了解」

ピッっと通話を切ると真が言った。

「イリアからの情報。あいつ王立図書館の禁書の間に入っていったそうだ。和人、お前たしか入れるよな?」

イリアの報告を聞いたメンバーは黙り込んだ。イリアは普段は『禁書』の番人であるため、呼び出すことが不可能である。そう、『禁書』とはこの世界の歴史を記した物。

この神風抄国界のシステムを創り出した全ての始祖たる蒼天華 凛珠ですら消し去ることができなかった、神々の記録である。代々イリアの家系のレフォート家が管理してきたもの。

『禁書の間』を管理しているイリアの承諾なしに入れたということは

「…想定外にもほどがありますね」

亮が難しい顔で言った。

「なんなんだよ、全く。めんどくさいな」

ヴィルトゥーズが言った。

「そう言わずにだ。和人。とっとと行ったほうがいいんじゃないか?俺達は俺達であいつを仲間に引き入れる算段考えてるから」

真の言葉に和人は嫌そうな顔をしたが、渋々行った。

「さてと、それじゃあ和人が連れてくる間に私たちは考えていましょうか。仲間に引き入れる算段を。」

璃音が言った言葉に、残った全員が頷いた。


「さてと、まずは王立図書館に向かいますか。…厄介なところに入り込んでくれましたね」

和人は蒼神邸を出た後ぼそっとつぶやき、王立図書館に向かった。



王立図書館、『禁書の間』

そこに問題の桜ノ宮 樹がいた。

「この世界は、長らく『葉月』一族が代々柱というものを選出し、世界を支えていたがコスモス歴☓☓☓☓年、玉京国建国時にその役目は蒼天華 凛珠の家系に引き継がれた。蒼天華家は創造神コスモスの家系で…!?」

すっと手が伸び、樹の手から本を取り上げた。

「勝手に『禁書の間』に入りこんだ挙句に、禁書を読むとはね。貴方、何考えているんですか?」

樹を和人は睨みつけた。

「お前、誰だよ」

樹も負けず劣らず和人を睨みつけた。

「僕は碓氷和人。ここの王家の一つである、蒼神家の当主補佐を務めています。で?貴方はどうやってここに入りこんだんです?返答次第では殺しますよ」

和人が冷たい声音で言った。

「この鍵、なんか蒼の世界の『陛下』に呼び出されてこの鍵つかってここに入ったのさ。『お前は一度、神風抄国界のことを知っておいたほうがいい』と言われてな」

チャリンっと鍵を手で弄びながら樹が言った。

「『陛下』ってあの人か…。あの人が直々に桜ノ宮をこちらによこした…なにか裏がありそうですが、とりあえず僕についてきてもらえます?2つの王家の片方である蒼神家の当主が貴方を呼んでいます」

和人が相変わらずの冷たい声音で言った。

「蒼神の当主が、俺になんの用?俺は別にただ『陛下』に言われてきただけなんだけど」

樹の言葉に和人はイラッとした様子で言った。

「…当主が呼んでいるんだから、おとなしくついてきてもらえます?」

殺意が凄まじい勢いで出している和人に、樹は恐怖を覚え、承諾した。



蒼神邸に到着した和人と樹は璃音の執務室へと向かった。女官たちが璃音は執務室にいると伝えてきたからだ。

和人が執務室と書かれた扉をノックすると、全身紅の服をまとった青年が出てきた。

「和人、こいつが桜ノ宮 樹?」

アルヴィンが和人に対して尋ねた。

「この人の下の名前までどうやって調べたんです?」

和人がアルヴィンに対して訊いた。

「さっき師匠が来て、こちらによこしたのは『陛下』のしわざで、名前は桜ノ宮 樹って言っていたんだよ。もう師匠帰っちまったけどな」

アルヴィンが肩をすくめていった。

「なるほど…あの方々も気づいていたみたいですね。ところでアルヴィン。そこ、通してもらえます?」

和人がイライラした様子で言った。

「はいはい。………璃音、来たぞ」

アルヴィンが部屋の奥にむかっていった。

「あら、もう来たの。いいわよ、入って」

そして和人たちは璃音の執務室内へと入っていった。



 樹はひと目みて璃音に恋した。自分で自覚するのは後々のこと。蒼い髪に蒼い瞳、黒いリボンで髪を結い、黒いドレスを着ていた。

「はじめまして、桜ノ宮 樹。私は蒼神 璃音。呼び方は璃音で結構よ。よろしくね」

さらりと外見年齢が17歳くらいの少女はいった。

「俺は桜ノ宮 樹。…で?王家の片方の当主が俺になんの用?」

樹の言葉に璃音は冷たく言う。

「『陛下』直々の命で何をしに来たの?この世界のシステムに重大な危機をもたらしている貴方が、なんのために来たのかしら?今『天吹』のほうの当主兼王様のお兄さまの后妃がぶっ倒れて全通路封鎖及び蒼刻 真の空間遮断の術をしているというのに全て破って入って来たというのは一体どういうことなの?」

璃音の問に樹は言う。

「『陛下』に言われたんだよ。この世界にはお前の求めている者たちがいると。仲間がいるって。それで通路封鎖と空間遮断の術は無効化してやるから、行けと」

その言葉に、璃音、和人、アルヴィンは絶句した。璃音たちは直接『陛下』と呼ばれる人物にはあったことはないが、師匠である朱稀乃 諒祈から聞いたことはあった。蒼天華 凛珠、全ての黒白の一族の始祖たる『陛下』は蒼の世界で神風抄国界以外の世界にその強大な神力を循環させ、存続させている一族唯一『神』であることを。そして天吹一族と蒼神一族の始祖であることも。

「…ふうん。なるほどね。和人、桜ノ宮を亮の結界領域まで連れて行ってちょうだい。流石に相対していると、こっちがキツイわ」

璃音は顔の汗をタオルで拭きながら言った。

「了解。、それじゃいくぞ。全属性魔術師、師匠曰く歴代最強を誇る魔術師にして、神術師の桜花 亮の結界領域へ」


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