Last Name 桜色の探求者と蒼の姫君

精霊玉

第1話 『彼』が訪れる前日

来るよ♪来るよ♪…私達の仲間が来るよ♪」

一人の少女が舞っていた。薄暗い空間で深い水をたたえた場所の上で。

「さあ、最後は誰かなぁ?うふふ、楽しみ♪」

柔らかく洗練された舞い方。彼女が芸に秀でていることがわかる。

「どうやら彼と同郷みたいだし、ふふふ、楽しみだわ」

彼女は舞うのをやめていった。

「さあ、はじめましょう…私達の仲間に引きずり込む話を!」



神風抄国界、その中心にある国の名は世界と同じ名である神風抄国。王宮にて二人の女性が話をしていた。片方は青いリボンでツインテールに結った銀髪に蒼い瞳をしていてまとっているのは黒い軍服、もう片方は青い髪に青い目、后妃装束をまとった女性だった。

「朱雫后妃、私に何のようですか?」

銀髪の髪の女性が言った。

「あらあら、わたくしとお茶を楽しんですらくれないのかしら?さすがは先代の后妃の娘、天吹凛伽ね」

朱雫と呼ばれた后妃装束をまとった女性は言った。

「……人の兄弟の寿命をいじっておいて何様のつもりなのかしら?貴女は禁忌を犯したのよ。その報いはかならず来るわ。私のようにね」

凛伽は剣呑な目で朱雫を見た。

「あら、あなた方がわたくしの母方の一族皆殺しにしたのがいけないんですわ。わたくしのやったことはただの報復措置にしか過ぎないんですの。あなたの妹だって…母親の不貞で生まれた最強なる純血種ではないのですの?そう、神々の思惑に則ったね…」

朱雫の言葉に凛伽は言った。

「人の妹の事なんて、あなたの口から聞きたくもないわ。あの子自身には罪なんて何もない」

バンっとテーブルを叩き、椅子から立ち上がると凛伽は部屋の出入り口へと向かった。

「それに、近衛の将軍の私をこの程度のことで呼び出さないでいただける?私だって忙しいのよ、暇なあなたと違ってね」

バサリと軍服を翻し凛伽は部屋から出て行った。

「報いなんてもう受けておりますわ…最後に会いたかっただけですの。わたくしの異能『禁忌の輪廻』の影響を受けたもの全てのね…」


凛伽はコツコツと回廊を歩いていると、背後に気配を感じた。

「エルンスト、璃音から連絡でも何かあったのかしら?」

振り返るとそこには青い髪に黒い目をした少年がいた。

「ええ、将軍。亮と同郷の者、『蒼の世界』からの来訪者が来ると。我々の平穏な日々が崩れると、ノクトが言っていたとの報告が上がったと」

エルンストがすっとお辞儀をしていった。

「…璃音に伝えてちょうだい。この件全てあなた方に任せるわ、と。仲間が増えるのはいいことだけれども、王族に連なるものに危害を加える可能性が万が一にあるならば、来訪者は私、近衛の将軍だから、殺すしかないとね」

「かしこまりました、では僕は伝えに行ってきますね、将軍。他に何かありますか?」

エルンストの言葉に凛伽は少し考えたあと言った。

「何をしてでもいいけれど、何が何でも、その来訪者は我々の仲間にすることという条件を伝えてちょうだい」

「ではそのように」

そういうとエルンストはふっと姿を消した。

「…世界が、荒れるわね」

凛伽はぼそっというと、すっと消えた。



王宮より数百キロ離れた場所にある、もう一つの王家、蒼神邸はあった。

きらびやかな王宮とは違い、こちらは静寂に包まれた森のような屋敷である。そこの一室には蒼い髪を黒いリボンで止め、背中に流した女性がいた。

「ありがとうエルンスト。それが姉様の命令なのね?こちらとしては異論はないわ」

その言葉にエルンストはお辞儀をしていった。

「話が早くて僕としてはいいですよ、璃音当主。それにしても、亮はひきこもったままなんですかね?」

エルンストの問いに璃音は言った。

「あいつが表舞台に出てくるとでも?あいつはこの世界の生まれではないし、他世界からの政治介入は禁じられているわ。忘れたわけではないでしょう?貴方が生まれた国にもあったのだし」

その言葉にエルンストは肩をすくめていった。

「…まあそうですね。サルヴァリア王国でも他世界からの介入は禁じられていますし、けれど、貴女の異父姉の凛伽将軍はたしか10代の頃に他世界への干渉をして罰として死ねなくなった。貴女の姉君以外の5人は后妃のあの異能『命の輪廻』によって死ねなくなった。そして僕やアルでさえ貴方がたによって死ねなくされた」

エルンストの言葉に璃音は冷たい顔をしていった。

「私達にはまだ見つかっていないけれど、『使命』があるのは重々承知のはずじゃなかったかしら?だから貴方がたは私達が仕組んだ罠にハマってくれたんじゃないの?違う?」

璃音の言葉にエルンストは黙りこんだ。まさにそのとおりだったからだ。生まれて物心がつく頃には既に何らかの『使命』があるとエルンストは認識していたからだ。

「『13人の使命持った者が集まる時、何かが起こる』…僕らの魂に刻まれていますが、集める必要性ってあるのですかね。うさんくさいですし」

エルンストの言葉に璃音は言った。

「…今は集めることに集中して、そのことは考えないようにしましょう。それに『アレ』が関わっているのかもしれないわ。というわけで…あら?」

璃音の言葉を遮るように扉がノックされて、二人の男が入ってきた。外見が20代そこそこの真紅の服をまとった男と、茶髪に黒い目の20代なかばの男だった。

「歓談中失礼します。王宮から至急の連絡です。后妃が倒れ、それを受けて国王陛下は全通路の遮断を決定。蒼神の当主におかれましては、世界を支える神気の循環を任せたいとのことです」

茶髪の男が言った。その言葉を継ぐように真紅の服をまとった男は言った。

「あと、今現在存在している『使命』持ちを集め、今後の対応について協議して欲しいとのことだそうだ。あとノクトから連絡がきて、どうやらこれから『蒼の世界』から来るのは、桜ノ宮だそうだと」

その言葉に璃音は机をバンッっと叩いて立ち上がった。

「『桜ノ宮』ですって…!?バカな。あの一族にはこの世界に入れないように術が体に刻み込まれているはずよ!?それが来る!?しかもこのタイミングで?…これは困ったわね。アルヴィン、和人、至急全員集めてちょうだい。…もしかしたら、私達と同じかもしれないからね。嵌めて、仲間にする必要性が出てきたわ。和人はその桜ノ宮のところに行ってちょうだい。アルヴィンは他のみんなを集めて。琉那もよ」

和人と呼ばれた茶髪の青年は言われるやいやなすぐさま部屋を出ていき、真紅の服の青年、アルヴィンはそれを横目にちらりと璃音を見ていった。

「正気ですかね。あんた、亮も呼ぶんでしょ?あのひきこもりが出てくるとは限らないぞ」

その言葉に璃音は口元を笑みの形にしていった。

「あいつは来るわ。元々この世界に桜ノ宮を入れないようにしたのは、あいつの一族なんだから事情を説明してもらわないとね」


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