藍よりも青い

 次の日、僕は充電を忘れたサツキを家において大学へ来ていた。一か月と少しぶりに一人で歩く僕は自分の頭で物事を考えるということを久しぶりにしていた。行く必要のなかった図書館になんとなく寄ってたり。普段は食べない定食を食べてみたり。ボーっとベンチに座り紫陽花を眺めたり。いつもと違うことをしていたかった。紫陽花は土壌によって色が変わることは知っていた。ここの紫陽花はバラがどう苦心しても自分で出せなかった青を気持ちいいくらいに出している。何のためにそこまで色を変えるのだろう。紫陽花を変えたであろうその土はどこにでもあるただの土にしか見えなかった。

 そしてトモヒロのとなりにも前とは違う彼女がいた。

「おう、昨日おまえいなかったけど、またサツキちゃんと家でいちゃついていたのか?」

 僕は答えずに答えた。

「それより先にいうことあるだろ」

 と目で横の女性を指す。

「そうだな。こちらはミホ、わたしの新しい彼女です。そしてこいつが祐二。肩書は友人だ」

 とってつけた言い回しをするトモヒロに少しいらっとした。

 どうも、ミホって呼んで。とミホは会釈をしてきた。よろしく、と目で返事をする。

 常識人めいた対応に僕は少しの心配をし、忠告をした。

「トモヒロはありていに言えば女ったらしのクズだとおもうけど、気を付けてね」

 ざっくばらんに言う僕にミホは笑った。

「いいのいいの、逆にそういう風聞を聞いたから私から近づいたわけだし」

 僕は考え直したこの人は常識を知ったうえで我が道を歩む人だ。

「それにね、トモヒロ君は女ったらしだけど、クズじゃないのよ。彼女になった人はトモヒロ君のことを恨んでないし逆に感謝しているの」

 そういわれて思い出した。トモヒロが彼女にしていた子は最初は陰が多い子だけど最後にはいい笑顔を見せていたことを。もしかしてトモヒロは恋愛マスターではなく人間ブリーダーなのでは。

「トモヒロ君の前の彼女は二人とも私の友人なの、別れるというより巣立ちをする感じなのかな、もともと恋愛感情なんてなかったらしいし、いまでは普通に別の彼氏つくってたり、突然海外に留学したりしてるよ」

 あっけらかんという言葉に僕の悩みはなんなのかと思う。

「そんなものなのかな」と僕は言う。

「そんなものよ」とミホも言う。

「そんなものさ」とトモヒロには言わせなかった。

「それじゃあミホはトモヒロとはどういう感情で付き合ってるのさ」

 これは僕自身も今後考えなければならない命題な気がした。僕自身も雛鳥かもしれないからだ。

「私は純粋に好きだから、私からお願いしたのよ」

 ―――彼氏になってくださいって。すこしはにかみながらミホは答えた。

「なんていうかな。友達を元気にしてくれる彼をみていていいなぁと思っていて。フリーになったから申し込んだの」

 トモヒロは臆面もなく腕を組んでそれを聞いていた。

「そういうことだ、色恋は気負う必要はない」

 僕の手元にサツキがいないことに気付いたからか、前回の発言を気にしてか珍しく寄り添った恋愛観を語ってきた。「そして安心しろトモヒロ。おれはお前に関しては友人として接している。別にホモじゃないしな」というありがたい言葉もそえて。


 何とも言えない励ましを背に帰路へとついた。


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