第364話それが世の中

今日は朝からフリーペーパーの発送作業を手分けして半日かけてします。

「こんなに送るところがあるんですね?」

編集長の女弟子がテーブルに積み上げた束をチェックしています。

「これを印刷所に頼むと凄い料金を取られるのです」

編集長はこの辺りはお母さんになっています。

「でも部数がこれ以上増えるとそうもいかんなあ」

すでに私は印刷会社と交渉を始めています。

私は5年ほどフリーペーパーの配布事業をしていたので常に相みつを繰り返します。

部数が増えてくると印刷代は下がりますが、発送費は相当の交渉がないと下がりません。

何とか宅配業者の時間に間に合ったようです。

「今いいですか?」

労働裁判の弁護士からです。

「争点整理案段階でもまだ被告から証拠書類が提出されました。前の会社の公認会計士から新会社設立の相談を受けていないという証言です」

私はおぼろげながら先生の顔を思い出しました。

親切な先生で新会社設立の指導をしてもらったのです。

「そういう相談を受けたことがないと。裁判官は士族を高く信用しますから困ったものです」

「少し時間をください」

私はいつも持ち歩いているUSBをパソコンに差し込んでいます。

私も過去のスケジュール表を見ると、この公認会計士との面会が5回あり、相談記録が残されています。

さっそく弁護士にメールで送ります。

「凄いですね!これほどの記録があれば問題なしです。でもどうしてこんな証言をしたのでしょう?」

「彼は今も被告の会社の税務を引き受けていますからやも得ず受けたのでしょう」

それが世の中です。

やり取りが終わるまでみんなコーヒーを前に待っていてくれていました。

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