第320話嘘のつき合い
「今度は決まりそうよ」
昨日買って来たスーツに手を通している女房です。
「14枚目の履歴書だけど、採用前提の説明会に今日出かけるの。印鑑持参よ」
「やりたかったパン屋の仕事やなあ」
昔パンを焼きたくてパン屋に勤め始めましたが、私の東京転勤で諦めることになったのです。
私は今日は担当のシニアNPOのブログを書いて、それから各講師の日誌を1か月分読みます。
そこから問題点を見つけてカラキュラムを修正していきます。
4時過ぎに不動産部長の担当弁護士から携帯です。
彼は経理課長の弁護を引き受けています。
「今法定が終わったんですが、経理課長の裁判は最初から大きくつまずいてしまったのですよ」
「不動産部長の証言を出したらしいですね?」
「どうして?」
「何を証言したのですか?」
「不動産部長が経理課長と社長室で脱税の仕事の指示を受けてたと証言したのです」
「それは不味いですね。経理課長は勤続11年で一番の古株ですよ。不動産部長はまだ入って4年です。それも最初の1年は東京です。それを証言できるのは前の専務しかありません。彼から引き継いでいるはずです」
「なぜそんな嘘を?」
「部長は経理課長から金を受けとって証言をしたのです」
「同じことを弁護士に指摘されました」
「ここは嘘のつき合いなのですよ」
私が証言を頼まないのはそれもあります。
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