第321話藁をもすがる

リンの薬のせいで便秘が続いています。

女房はスーパーの新店のパン屋が決まり、明日から1か月研修センターに通います。

何とか裁判のけりをつけて、透析をしながら働く道を作らなければと思います。

「どちらですか?」

非表示の携帯です。

「経理課長です」

「誰に番号を?」

「不動産部長です。昨日弁護士から電話があって裁判官の心証がかなり悪くなったと嘆かれました」

「なぜ彼などに頼んだのです。彼は裁判所では嘘つきで有名ですよ。もう何度証言を変えたことか。あなたはこの事件を対岸の火事のように見ていたでしょう?」

「妻からもぼろ糞です。娘も孫を連れて来なくなりました。負ければ家を失うと先生は言っていますが本当ですか?」

「家だけじゃなく預金も差し押さえられます。でも社長の本音は取れなくてもいいのです」

「それはどういうこと?」

「脱税対策ですよ。課長がずっとやってきたそのものです」

「私は社長の指示通りやってきたにすぎません」

「あなたも経理ならそれがどんな作業か知るべきでした。私の忠告をあなたは経理の知識がないと言いふらしたのではありませんか?いくら社長の指示でも殺人はしないでしょう?それと同じですよ」

「何かできることは?」

「私なら国税に告発しますが社長に渡した記録は?」

「書き留めるなと言われていたので」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る