他界と死者 生者の幻想と古代日本

@miminohi-2017

第1話世間の話題と口伝え

一般的に言えば、神話・都市伝説・民話などの類いは、近代や現代に、ある個人の作者によって書かれた小説や詩などに比べて広域に伝わっている。その分多くの人が同じように話の意義、主題を理解しているように思われる。なぜ神話や都市伝説などの方が、これほどまでに多くの人々の心の中に浸透しているのか。

神話・都市伝説・民話などが広く一般的に語られている理由として、これらの話の伝達手段が主として口承、いわゆる口伝えだったことがあげられる。現代はネットやSNSの時代。賛美や批判が、電子的に掲載されてはいるが、隔離されている状態では無い限り、会話や会議など、伝達手段のなかで口伝えが大半を占める。古代から現代にかけての文字が生まれる以前は、口伝えによって「話」が語り継がれていた。近現代の小説は新聞や雑誌に掲載、ネットで公開されたり、後に一冊の本として書籍化されたりする。つまり商品的価値も付加されて売られたり、公開されることを希望する人の電子的手段により、興味のある人にとっては、「話」に触れる。ところが、本を例に取れば、一年に数冊は「ベストセラー」と証されて世間の話題となり、商品化されて売り上げをのばすものが出てくる。これらがテレビやネット、SNSなどで大々的に宣伝されたためについ買ってしまうこともある。ただしいくら広い範囲、より多くのメデイアで宣伝されたからといって、必ずしも世間で高い評価を得られる訳ではないし、本の出版数が莫大に増えるというわけでもない。

口伝えの話題に戻そう。僕は、「話」が口伝えされることによって広く一般に語られることになると考えている。さて、情報網が発達、過渡期である現代においても同様のことが言えるのであろうか。

例えば、本州北限の青森あたりで起きた事件を、本州からは離れた南島で、個人・多数に限らないで確認し、その島内で話題になったとする。情報源としてはテレビ・新聞・ネット、SNSといったところであろう。ただし、その情報が、離れた島内で理解・認識できる範囲でないと、話題にはならないのが特徴である。逆の場合、南島で起きた事件を青森で情報を得たとしても同じことが言える。口伝えについても同じだろう。伝える人と伝えられる人たちの心理や状況によって、「伝えたい」「伝えられたい」気持ちが重なり合った時点で口伝え、話題が成立する。いいかえると、両者が共通に考えたり経験した場合にのみ口伝えや話題が発生する仕組みである。

しかし、小説や事件、ネットの情報や都市伝説にしても、口伝えの関係は二者間同意の関係とイコールになるわけではない。現代はともかくとして、古代から、少なくとも数十万、数百万、それ以上の人々の間に口伝えが完了、話題が成立している。昔話や神話の類いである。この理論によると、昔話や神話についても、すべての人々がまったく同質の意識、経験をもっていなければならなくなる。けれども、たとえ2人の間でも、たとえ双子であってもまったく同一の意識、経験はあり得ない。ましてや数万、数十万といわずとも、数百、数千では心理学的にも無理な話であろう。すると、口伝えは「伝える人」「伝えられる人」の共通の実体験に基づくものではないことがわかる。

僕は、この無理な話、非合理的現象を説明するに当たり、「普遍的」という言葉を使う。普遍的観念や、普遍的無意識という言葉を使って説明させてもらうことになるだろう。多くの人々に対して、共通の意識や経験を捉えることができないのであれば、普段の意識よりももっと深い場所、脳内のどこかで起こっているということを強調したい。先ほどの青森と南島の例でいえば、歴史も生活様式も気候も異なる、ましてや2間の往来もないのに、相互で話題を取り上げられるのは、意識下で、普遍的観念があるからだろうと思っているのである。歴史を経る事象(通時的)、世界中のあらゆる場所(共時的)同じように古い時代からの口伝えや文学がある。つまり情報源の乏しい時代に、違う場所で、類似した構造が見受けられる口承的な分野が登場する。類似した構造とは、内容が一致あるい話の流れや筋書き、顛末がどこか似ているといった構造のことである。そこを追求したい。まず、次回は、特に資料の豊富な作品である「浦島伝説」をとりあげたい。僕が今後展開する「他界論」にとって好都合の題材である。通時的にも共時的にもこれほどまでに多くの書物、文献が残されているものは無いのではあろうか。

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