お兄ちゃんはやはり大人でした

これ以上俺の痴態を晒すわけにはいかないのだ。まして相手は樹兄ちゃん。男としてそれはイカンだろうと思うわけで。

それでも男だからこそ…その、…刺激されたら身体は反応するわけですよ。


「のぶ、身体は正直だね」


うわーーー!どこぞのエロ小説の台詞みたいなことをそんな綺麗な顔で言わないでください!

そのことに更に興奮してしまっている俺はどこか頭がおかしくなったんだろうか。


「も、やめてよ、樹、にいちゃ…っ」

「…」



とぎれとぎれになりながらも、再び懇願してみるが、訪れたのは沈黙。

一体どうしたんだよ…?さっきからなんか怖いんですけど…



「樹、兄ちゃん?」

「のぶ…そんな顔あいつにも見せてるんだな」

「そんなこと、ない…っ、まだ、みせてな…っ」



ぴくり。

俺の言葉に反応する樹兄ちゃんの顔がこわばる。



「まだ、ってことはこれからはあるんだ?」

「ち、がう! そんなんじゃ、…あっ!」



声が突き刺さるように冷たくて、とてつもない怖さが潜んでいる気がした。

ほんとにそういう意味で言ったわけではなく、ただの言葉のアヤなのに。

樹兄ちゃんが突然無遠慮に俺のモノをきゅっと握りしめたものだから、一際甲高い声を上げてしまった。



「…っ!」


信じられない。自分がこんなはしたない声を上げているなんて。女みたいに喘いでいるだなんて。

どうしようもない羞恥が全身を駆け巡った。




「や、だ…やだやだ…も、やめて…っ、なんで、こんな…こと…っ」

「のぶ…」




俺も嘘をついたりして、樹兄ちゃんを試すようなことしてしまったのは、申し訳ないと思ってる。でも、こんなことをされるだなんて、酷過ぎる。男として侮辱された。そんな気がして…いくら樹兄ちゃんでも酷過ぎる。




「俺は…樹兄ちゃんのこと、好き、なのに…こんなこと、しない…で…っ」

「…え、」

「…樹兄ちゃ…」



あ、言っちゃった。

嘘ついてましたとかいう謝罪もすっ飛ばして告白をしてしまった。


やばいやばいやばいって!


何がやばいかっていうと、この場合俺は最悪な人間になるんではないだろうかっていうこと。



樹兄ちゃんの考えではおそらく…

俺が付き合っているのは、つまり好きなのは田中慎之介である。なのに、今俺はなんて言った?


樹兄ちゃんのことが好き。



辻褄が合わない上に、俺は二股宣言をかましていることになる。


うわわわわこれはすぐに弁明しないと。

ウソでしたって言わないと。



「のぶ、」

「ごめんなさい!!俺、嘘、ついてて!本当にごめんなさい!」

「…ぶっ!」



樹兄ちゃんは涙目になった俺の精一杯の謝罪に対して、思い切り吹きだしたのだった。



「…樹兄ちゃん?」

「ごめんな、のぶ…なんか、怒ったり謝ったりで、大変だなって思ったらなんかおかしくなって…笑ってごめん。話、聞くから」

「…う、うん」



あれ?そういえばさっきまでこの人俺に対して全く理不尽なセクハラを働いてなかったっけ?

なのになんで今俺はその人に背中を撫でられて宥められてるんだ…




でも俺も少し落ち着いて、話をすることにした。

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