やっぱり好きすぎるんだよなぁ

うーむ…気まずいぞ、これは。


慎が残していったこの絶妙な空気は、なんとも言えないものだった。

だって俺は確かに見たんだよ! 慎が樹兄ちゃんの腕を掴んで、何か言っているのを!

そんでそのせいでおそらく樹兄ちゃんは不機嫌になったんだろうな…

でも…その不機嫌の原因は慎にあるとも言えないかも…


だって、俺に腹を立ててなきゃ、2週間も会わないなんてこと…ないだろう。

今までにこんなこと、なかったのになぁ。

俺、嫌われちゃったんだろうか。



「のぶ、久しぶりだね?」

「…そ、だね」

「のぶ…痩せた?」

「…そんなこと、ないよ?」



樹兄ちゃんの方が疲れていて、やつれたのかな、と思うくらいなのに。

やっぱり樹兄ちゃんは優しい。

心なしか、俺を見る目が少し柔らかい気がする。



「ごめんな、のぶがこんな辛そうなのに…傍にいてやれなくて」

「ううん、ううん…っ、俺も、ごめんな、さ…っ」



樹兄ちゃんの優しい声に、胸がきゅうっと締め付けられる。

ごめんね、やっぱり俺、どんなに嫌われても樹兄ちゃんが好きみたい。



「どうしたの? なんで、のぶが泣いてるの」



そんなつもりはなかったのに、樹兄ちゃんが嫌いであろう、俺に対してもどこまでも優しく気遣ってくれるから、その優しさに泣きたくなった。


俺はどうあっても、この人が好きなんだ。止まらない涙は頬を伝って地面にしみこんでいった。



「ごめ、なさ…っ、樹兄ちゃ、嫌いに、ならないで…っ」

「…え?」

「…俺、なんか気に障ったなら、謝るから…っ」

「…何か勘違いしてるの、のぶは」



ん?

俺はとぎれとぎれ、自分の思いを伝えた。

好きになってもらわなくてもいい。

嫌いになられるのだけは、耐えられないのだ。


でも…勘違い、って?

どういうことだろう。


樹兄ちゃんは年甲斐もなく泣いた俺の涙を綺麗な指で掬ってくれた。そして子供をあやすみたいに、背中をポンポンと叩いてくれた。


その仕草が、なんだか懐かしくて…

ああ、そういえば俺が昔ガキの頃、転んで泣いたときとかよく樹兄ちゃんが泣き止ませてくれたなー、とか。そんなことを思い出した。


途端に恥ずかしくなって、俺は樹兄ちゃんから離れ、ようやく落ち着いて話せるようになった。




「のぶ、目が真っ赤だね。お洒落眼鏡でも隠せてない」

「…うるさい」

「…ふふ、やっぱりのぶはのぶだ」



樹兄ちゃんは、そう言って俺の好きな顔で笑った。

そう、その顔だ、俺が最近見たくてたまらなかった顔は。



「ねえ、これから俺の家で少し話さない?」

「…ん」



良かった、と笑う兄ちゃんの顔は、とてもきれいだった。

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