唐突な遭遇
駅の方から見えたのは確かに樹兄ちゃんのように感じた。
樹兄ちゃんはダークグレーのスーツをかっこよく着こなしていた。でも、どこか疲れた様子だ。
ああ、そういえば母さんも言ってたな、樹兄ちゃん仕事が忙しいって。
ぼーっと見つめていると、バチっと目が合ってしまった。
うわ、うわうわ…久々だからどうしようもなくドキドキする。けれど、樹兄ちゃんは俺と目が合うや否や、すぐに目を逸らして踵を返してしまった。
その態度があまりに露骨すぎて、避けられていることが現実のものとなって俺に突き刺さる。
…やっぱ、口ではああやって祝福してるって言っても…男と付き合っているって言った俺を軽蔑してるんだろうか。
「慎、俺やっぱ家帰るわ」
「おい、のぶ」
母さんに文句言われようと、やっぱり家にいよう。
今日は家にいた方がよかったんだ。
慎にそう告げて帰ろうとした。だが慎は、駅の方に駆けだしていた。そう、駅の方の…樹兄ちゃんの方へ。
「ちょ、慎!」
俺が慌てて呼び戻そうとするも、慎は意外に足が速かった。
驚いた俺はちょっと反応が遅れてしまい、到底慎に追いつけるはずもなく…
「は…っ、はぁ…っ」
俺がようやく追いついたのは、慎が樹兄ちゃんに追いついた後で…
まあ、時すでに遅し。
慎はなんと、かなり不機嫌そうな樹兄ちゃんの腕をがっしりと掴んでいたのだった。
side:樹
今日は日曜日。
昨夜は本来なら仕事を終えて、そのままのぶの家に行って夕飯をごちそうになるはずだったが…
おばさんには悪いが、しばらくは仕事が忙しくて夕飯には行けないと嘘をついた。
それはのぶに会いたくなかったからだ。
あの日からのぶに会うことで、かっこ悪い俺を見せてしまうことになるのが嫌で、避けていたのだ。できたらのぶにはかっこいい従兄弟のお兄ちゃんでいたいのだ。
今まではこんなことなかったから、のぶももしかしたら気づいているかもしれない。
これは自分のエゴだ。自分勝手な俺のエゴ。
のぶはきっと俺に避けられていることに気付くと、自分を責めるだろう。
のぶは優しい子だから、きっとそんな見当違いなことを考えるだろう。
そうだと分かっていても、今は無理だ。もうちょっと時間をおいたら…たぶん、たぶん…普通の顔であの二人を祝福できるだろう。
2週間おいたし…そろそろ頃合いだろうか。
昨日も友人の家に無理言って泊めてもらい、朝帰りして、地元の駅に着いた。
するとどうだ。
今会いたくない人。しかも二人セットで会ってしまった。
俺がのぶの姿を見間違えるはずがない。
親しげに話しているのは…のぶの大切な人。
ダメだ、と思うが、黒いものが自分の胸に渦巻くのが分かってしまう。
くそ。やっぱりだめか。
でもやっぱりのぶが視界から消えなくて、何気に見つめていると、バッチリ目が合ってしまった。
気まずさに目を逸らすと、どうやらもう一人の方も気づいたようで…
これ以上見てられなくて、駅の方に引き返そうとした。
駅の方に少し歩き出すと…
「樹さん!」
「え」
右腕をがっしりと何かに掴まれて、驚いて振り返ると…自分の表情が歪むのがわかった。
俺の不機嫌の原因である、のぶの彼氏がそこにいたからだ。
そいつはまっすぐな目で俺を捉えていた。
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