第5話 この空気マジでどうしてくれるんだ
昨日慎の提案を呑んだ俺を殺してやりたくなった。
こんな状況になっちゃうよ?ってことを教えてやりたいよ。
あの後から、無表情でだんまりな樹兄ちゃんに誘導され、俺たちは樹兄ちゃんのアパートのリビングにいます。
「紅茶でいい?」
俺にそれだけを尋ね、おいしそうな紅茶を淹れてくれた。
俺にはいつも通り、砂糖とミルク多めのミルクティーを、そして慎にはノーマルの紅茶にミルクを出してくれた。
お好みでどうぞ、って感じなんだろうか。聞く気はないらしい。
あ、この香り、ダージリンだぁ。
そんなこの場に似合わない思想を描かなければ、この場は乗り越えられない。
…。
沈黙が、痛い。
そして何より、樹兄ちゃんの視線が刺さるように痛い。
それはもう、ぐりぐりとナイフでえぐられてるんじゃないのってくらい、痛い視線だった。
そんな空気を破ったのは、やはりこの人だった。
「おいしそうな紅茶ですね、ありがたくいただきます」
「あ、そうだな。い、いただきます」
さすが田中様…!よくできた彼氏だ!
そう感心すると、俺はそれに乗じて紅茶に口をつけた。
のが、いけなかった。
「あ、っち!」
そうだ、俺は猫舌だった。
紅茶を口にして乗り切るつもりが、とんだ失敗だ。
「おい、大丈夫かよ」
「あ、うん、だいじょ、…ぶ」
慎が気遣ってくれたのも、今は全く嬉しくない。だって樹兄ちゃんの表情がちょっとこわばったようなそんな気がするんですもの!
何が樹兄ちゃんの反応を見る、だよ!
全く予想してなかった最悪の展開が今ここに…
「あのね、さっき玄関で言ってたことって、本当なの?」
「え」
樹兄ちゃんはゆっくりと口を開いたのだが。
もうそこにさっきの無表情はなくて、少し安心した。
あれ、もう笑顔になってるけど…
俺の取り越し苦労だったのかな。
side:慎之介
俺の悪友は本当にかわいい。
誤解しないでいただきたいが、俺にはあいつが樹お兄ちゃんとやらに抱いているような感情を、あいつには抱いていない。
抱いてないからこそ、今回の提案ができるんだ。
かわいい、というのは本当に馬鹿だな、という意味だ。
だからこそ、俺はからかいがいがあるから楽しいんだけど。
いつも樹兄ちゃんへの思いをポツポツと吐露するのぶは、丸っきり恋する乙女だ。いや、乙男≪オトメン≫か。
でもそんな親友を応援してやりたいのも、直接はあまり言いたくはないが、本音である。
そして、その作戦決行の日がやってきた。
相変わらずビビりなのぶは、緊張が隠せない様子で、やっぱりやめたいといつ言い出してもいい雰囲気だった。
だが、そうは問屋が卸さないってもんだぞ。
ここまできてこんな面白そうなこと、誰がやめるってんだよ。
「樹兄ちゃん」には俺は会ったことも、見たこともないのだが。
こいつの話を聞いている限りは、なーんだかどういう人か、想像できちゃうんだよな。
そして、今回の作戦をすることで、のぶよりは樹兄ちゃんの方に大きな影響を与える気がしているんですよ、俺は。
影響を受けざるを得ないと、俺は思ってたりする。
俺が彼氏です宣言をした時の、樹兄ちゃんの反応はおそらくああだろう。
どういう反応であるかは、のぶに言うと面白さが半減するから言うのはやめておく。
さて、悪友のために一肌脱いでやろうかな。
(まさか宣言する前に、予想以上の反応を見せてくれた樹兄ちゃんは、さすがに予想はできなかったけど)
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