第4話 作戦決行

しばらく歩いていると、ようやく樹兄ちゃんのアパートの前までたどり着いた。

ここまでの道は距離的にはそこまで遠くなかったのだが、俺にはとても長く感じた。


そして今、ここまで来ておいて、樹兄ちゃんの家のインターホンを押せずにいる。

つまりは、ビビっているのだ。



「…なにしてんの」

「えっと…」



一向に動こうとしない俺に、痺れを切らした慎が呆れているようだった。

それもそうだよな。

ここまできて、やっぱりビビった、やめます、じゃあ話にならない。



「お前いい加減覚悟決めろって」

「う…ん」

「お兄ちゃんに対して、お前が行動起こさなきゃ、だろ?」

「そう、だな」



こいつの言うとおりだ。

ここで行かないと、俺はいつまでも樹兄ちゃんとの関係に悶々とするだけだ。

よし、と。俺が覚悟を決めた時だった。



「じゃあ、決まりだな。ほいっ」

「え」



ピンポーン



えええええええ!!!

なんだよ、「ほいっ」て!

切り替え早すぎだろまじで!

思わず隣の慎を睨み付けると、丸っきり無視された。

…まあ、早く押さなかった俺が悪いんだけどな。



『はい』



インターホンから聴こえた綺麗な心地よい声は、間違いなく樹兄ちゃんのものだった。


緊張しながらも、俺は言葉を紡ぐ。


「こんにちは、伸輝です」

『ああ、今開けるね』


良かった。ちゃんと言えたぞ。

ちょーっとばかし、声が上擦ったかもだけど、そんなことは、今はどうでもいい。



「やあ、のぶ、いらっしゃ……、誰?」



樹兄ちゃんは、笑顔で俺を見て、それからすぐに隣にいる男に目をやった。

すると、その表情はどこか怪訝そうで、窺うようなものに一瞬で変わった。


俺はそんな樹兄ちゃんに少し驚いた。


まぁ、でもそりゃそうだよな、初対面なんだし。


でも樹兄ちゃんのこんな機嫌の悪そうな顔、初めて見たかも。



「あ、こいつは俺の「初めまして、お話はのぶから伺ってます」


慎は俺の台詞を遮り、話始めた。

てかそんな顔もできるのか!

他人行儀丸出しじゃん…


「おい、慎」


勝手に話を進めるなよ!

そう耳打ちしたのだが、俺のその行動が樹兄ちゃんの機嫌を一層悪くさせただなんて、俺は知る由もなかった。


「僕、伸輝くんと、お付き合いさせていただいてます、田中慎之介といいます」


うおおい!どストレートだな!

まあ、そういう予定だったけど。

樹兄ちゃん、どんな反応してるんだろ。

怖いけど、ちらりとその様子を盗み見た。


「…は?」



え…今の声、樹兄ちゃんの?

今の地を這うような低い声が、樹兄ちゃんの声なはず、ないよね!うん、きっとそう!


だが、そこには見たこともないくらい怖い、氷点下絶対零度の顔で慎を見る樹兄ちゃんがいて、今度こそ俺の思考は止まったのだった。


「以後、よろしくお願いいたします」


よろしくなんか絶対にできない雰囲気なのに、そう言える慎を改めて尊敬した。

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