第3話 俺のダーリン?

慎之介さまの「彼氏できちゃったんだ」作戦は、いよいよ、明日本当に決行されてしまうらしい。



なんでも、俺に彼氏ができた、ということを樹兄ちゃんに報告することで、俺を意識させよう、あわよくば嫉妬させよう、という作戦らしい。


なんとも無理があるような気がしてならないのだが…

そんな抗議をしようものなら、間違いなく慎に殺される。

でも…慎は意味もなく提案なんかしない。

本当に俺を思って、やってくれるんだと思う。

しかも、普段自分が労力を使うのを極力避けたがる慎が、自らやってくれるなんて。



ちょっと感動して慎に抱きつこうとしたら、全力で拒否された。

本物の恋人にはならん、って。それは俺もそうだよ!




でも…


そもそも、彼氏を紹介とか…

本来彼女とか、だろうが!

と思ったけれど…


「男ならお前の恋愛対象は男というカミングアウトもできんだろ」


と慎が一蹴。


た、確かに…

さすが慎さま。頭の回転がよろしいようで…


そもそも、兄ちゃんはノーマルだろうから、そこからが俺は難関なんだよな…



あ~…頭痛くなってきた。



今夜はなんだか寝れそうにないな…




そしてほぼほぼ寝ないまま、夜が明けてしまったのである。

最悪。徹夜なんてテスト前以来だ。オールなんてしない俺が久々に悩み過ぎて寝不足だなんて。あー、自分のチキンさに嫌気がさす。




「ふぅ…」


緊張せずにはいられないのだ。


なんてたって、今から樹兄ちゃんに慎之介と会いに行くのだから。


「ちゃんと連絡したのかよ」

「ああ、メールしたら、いつでもいいよってさ」


今回の作戦の発案者である慎が、俺に確認する。

緊張しまくりな俺とは対照的に、俺の彼はいつもと違ってどこかワクワクしているように感じた。


そう、俺は昨日悶々としながら、樹兄ちゃんにメールした。

もちろん、彼氏を紹介するということは伏せて…

樹兄ちゃんは快く遊びに行くことを承諾してくれた。ほんと優しいよなぁ。そんな樹兄ちゃんに会いに行けるだけで、顔がにやける。


「のぶ、キモい」

「は!?なんで」

「めんどくさ」

「はぁ?」

「あ~落ち着けよハニー」

「は、ハニー?!」


俺があまりに大きな声をあげるもんだから、道を通る人の視線が集まる。


「お前は俺のハニーなんだから、そう呼んだっていいだろ」

「お、まえ」

「あ、それともダーリンて呼んで欲しかった?」


オススメは俺がハニーって呼ぶ方なんだが、とか言いやがる。

もうどこから突っ込めばいいんだ?


考えながら歩いていると、俺のダーリン(仮)が隣にいないことに気づいた。


あれ、どこに行ったんだ?



後ろを振り返ると、慎之介はシュークリームを買っていた。

俺の大好きな店の大好きなシュークリームを。


「おい、それ」

「手土産。仮にも家上げてもらうんだし」


で、できた彼氏すぎんだろ。

そして決定的な一言。



「お前、ここの好きだろ」

「…ありがとう、ハニー」


大層イケメンなセリフを吐くイケメンがここに。

な、なんじゃこれ!

恥ずかしい、恥ずかしすぎる。


「ばか、そこはダーリンだろ」



俺にこんな恥ずかしい思いをさせた罰だ。意地でもダーリンとは呼ばん。



そんな俺を見て慎は爆笑していた。


そんな慎の姿に、早くも帰りたくなったのは言うまでもない。

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