第2話 俺の悪友
「はあぁぁ…」
「またため息かよ」
「悪いかっ、俺だって悩みはあるんだよ」
抗議をしたものの、会話の相手はすぐにまた本に目を落とした。
こいつは高校の時からの同級生で、腐れ縁の悪友、田村慎之介。
イケメンなくせに着飾ろうとせず、大学にはいつもスウェットで来る。でもそんな格好も様になるからイケメンは嫌いだ。あ、樹兄ちゃんは別だけどね。
ここはとある講義室。大学の昼休みは人がまばらでなんだか好きだ。
いつもの様に慎之介と昼飯を食べていた。
「はぁ…」
「溜息、うっとうしい」
「うっるさいなーもう」
確かにため息ばかりつく俺自身にも嫌気がさすよ。
けどなー…
「また例のお兄ちゃん絡みかよ」
ブッ!
慎之介くん…不意打ちはよくないぜ不意打ちは。
俺としたことが柄にもなく動揺してしまって、口の中のものをぶちまけてしまうという下品なことをしてしまったではないか。
そんな俺を心底軽蔑してます、みたいな顔でみてくる悪友に、一言文句でも言ってやろうかと思ったけれど、いまいち彼をぎゃふんと言わせるような反論もおもいつかなかったので、俺はおとなしく机を拭くことに徹した。
「あのな…おまえ…ちょっと…」
もうちょっとこう、俺の気持ちとかそういうのを察して言葉を発してほしい。そしてそのあとの対応も。言い方ももう少しありますよね。柄にもなく動揺、とか言ったけど、嘘です。俺はメンタルそんなに強くないから。
「バレバレなんだよ、もう」
慎之介は読みかけの小説をぱたんと閉じると、俺に向き直った。
本の虫である彼は、今芥川にはまっているらしい。
「目が泳いでる。ノブは嘘つくとそうなるんだからすぐわかる」
「う…」
さすが腐れ縁。俺の癖までオミトオシってわけか。
それにはこの青山伸輝(のぶてる)もかなわないってものなのだ。
「俺はノブを応援してーなーって思ってる」
「…おう」
抑揚のない声で言われてもなんか実感わかないけど…俺はちょっと感動した。
「で、単刀直入に聞こう」
「おう!」
「樹お兄ちゃんとヤりたいとかまで考えてるの?」
ブッ!!
俺はこいつに樹お兄ちゃんを想っていることを話したことと、こいつと悪友であることをちょっぴり後悔しながら本日2度目のコーヒー牛乳噴出を決めたのだった。
シンにすごく嫌な顔をされたのは無視した。
単刀直入に言う、と宣言したとしても、あまりに直球すぎる親友に軽く睨みをきかせた。
彼はそんな俺をものともせずに、ティッシュで後始末をする。
「心外だよ。神様みたいに優しい俺様がわざわざ相談に乗ってやってるのに…なんで睨まれなくちゃいけないわけ」
しかも牛乳噴き出すとか有り得ない、とこぼしている。
まあ…その点では俺が全面的に悪い。それは認めよう。
「…悪かった。ごめんって」
「まあ、詳しく話せよ」
話し方はぶっきらぼうでも、何気に面倒見のよい慎だからこそ、俺はこいつが好きなんだろう。
「まあ…どうしたら樹兄ちゃんに意識してもらえるのかなってことなんだけどさ…」
「んなもん、押し倒してそんで「わー!!ちょっ、おま、何言っちゃってんだよ!」
真面目な顔して何言ってんだこいつは…!
誰にも聞かれていないことを確認して、再び悪友に向き直った。
まあ…こういう奴だもんな、慎って。
「まどろっこしいことしてるからさ、だめなんじゃん」
「んー…でもなぁ」
「あ」
いいこと思いついた、と慎がしたり顔をしてみせる。
やばい、こういう顔の時は大抵突拍子もないことを言う時なんだ。
「俺を彼氏だって紹介すればいいんだ」
「はぁ!?」
ほらきた。
発想が斜め上だっつの!
俺が素っ頓狂な声を上げてしまったおかげで、今度こそ講義室のまばらな学生の注目を集める羽目になった。
さすがに少し恥ずかしくなって、俺は声のトーンを落として、慎に話した。
「…どういうことだよ」
「まんまの意味だよ。愛しの樹兄ちゃんに俺を紹介すんだよ」
慎は俺に、1足す1は2、と説明するように、淡々と話した。
いやいやいや、分かりませんよ?
「馬鹿だな、そうやって、樹兄ちゃんの反応を見んだろが。俺が協力してやるってんだよ」
「あ、ああ!」
なるほど~…って、それでも納得できるわけでもないから。なんでそうなる。
「樹さんには俺も会ってみたかったしな~、俺の親友を虜にした色男には興味がある」
「お、おい!茶化すなよ!」
そうは言うものの、俺の顔はきっと赤いので、慎を煽るだけだろう。
「そうと決まれば、即決行だな」
「え」
「樹さん家ってすぐ行けるんだよな」
「あ…ああ、俺の家からすぐ」
「樹さんていつ休みとか分かる?」
「んー…確か明日休み」
「じゃ、明日な」
「は!?」
トントン拍子に話が進むもんだから、すっかり慎のペースだ。
「ちょっと待てよ…急すぎんだろ」
「お前がウジウジしてるのがウザイから早くすんだよ」
う…さすがストレートどストライク攻めてくるなぁ…
俺には最早、選択肢はなかった。
「じゃあ…よろしくお願いします…」
「おう、任せろ」
イケメンなその笑顔が怖いと、心の底から思った。
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