お兄ちゃんといっしょ!

第1話

一度知ってしまうと、無かったことにはもうできないのだ。後悔先に立たず。俺は今その言葉を噛みしめている。


ことは数分前、弟の裕貴の部屋に洗濯物を持っていけと母親に頼まれたのだ。部屋をノックするが不在のようだ。俺は裕貴は高校一年であり、入部して間もないが野球部のエースになるだろうと期待されている勉強もできるイケメンだ。俺は高校二年でスポーツには縁のない帰宅部、趣味はゲームと漫画を読むことくらいでどこにでもいる平凡な男子高校生。弟が優秀であると大抵兄は普通なのだ。別にそれに関しては俺は嫉妬もしてないし屈折もしていないのだ。

どーせこの時間だから部活なんだろうなーと思い、さっさと用を済ませてしまおうと考えた。ちなみに、弟の部屋に足を踏み入れるのはだいぶと久しぶりだ。普段は絶対に入れてくれない。

というか、結構確信を持って言えるのだが、俺は嫌われてる。朝も顔を合わせるなり不機嫌になるし目も合わせてくれない。

「兄貴は貧弱だからもっと食え」だの、「兄貴は友達作れねえから部活にも入らなくていいんだよ」とか嫌味を言ってくる。俺だって友達いるし!少ないけど…

仕方ないから洗濯物だけ置いてさっさと出よう。そうしよう。部屋に入ると綺麗とは言えなかったが、まあまあ片付いてる。机の上は参考書があるし勉強もやっぱしてるんだなと感心した。

すぐにここで帰ればよかったんだ。そう、ここで俺は選択肢を間違えた。

「そいえば…あいつエロ本とか読むのかな〜〜」

弟だってもう高1。そういうお年頃だと思う。あのスポーツマンな弟がどういうエロ本を読むのかなんだか気になる。俺は母親に見つかるのが怖いから友達に少し見せてもらったことはあるけど、あいつはどうなんだろうか。ベッドの下とかに隠してるのでは…と俺は定番と言われる場所を覗き込んだ。

「お!怪しい箱発見!」

案外単純なとこに隠してるんじゃないか!俺はこの部屋に不釣り合いなお菓子の箱の蓋を開けた。その中身をみて俺は一度蓋を閉めた。いやいやいや、ナイナイ。なんだ今の。

「いや、なんだ今のは。も、もっかい」

怖いものみたさに俺はもう一度蓋を開けた。そこにはキラキラとしたパッケージにでかでかと「私立桜ヶ丘学院へようこそ!2〜ドキドキ♡えっちな学園生活〜」というタイトルが。俺の見間違いでなければR18という表記もあった気がしたのだが。いやいやいや、ナイって。全部が見間違いだろ。混迷を極めてるだろ、これ。


「あ、兄貴」

「え」

そこで背後から震えたような弟の声がした。あれ、もうそんな時間?やば、勝手に入ってしかも後生大事にしてたであろうものを見つけてしまった。これはギャルゲー?というか、エロゲー?なのだろうか。ともかく見なかったことにしてあげないと…

「おかえり。その、母さんから洗濯物を頼まれて、持ってきてさ。その、見ちゃって、ごめん。誰にも言わないからさ」

裕貴は俺が手にしている箱を凝視したまま何も言葉を発しない。気まずい。俺が悪いんだけど。


「か、返せ!バカ兄貴!!」

「ご、ごめ、裕貴っ」

顔を真っ赤にして俺からその箱を強奪すると裕貴は俺に聞いてきた。

「け、軽蔑、しただろ」

「は?なんで?」

「弟がBLゲーもってるって!そのことだよ!言わせんな!しね!」

あ、BLだったんだ。なんか最近テレビとかでその単語はたまーに聞いたことがある。そのパッケージの奴女だと思った。

「え…いや、びっくりはしたけどさ、別に軽蔑なんかしねえよ。裕貴は大事な弟だし」

素直にそう告げると裕貴は少し驚いたように目を見開いた。

「ひ、引かないのか?」こちらを伺いながらさらに聞いてくる。あれ、なんか可愛いぞ。昔に戻ったみたい。

「うーん、別に。びっくりしただけ。人の趣味嗜好は自由じゃんか」

裕貴がBLみるのはびっくりしたけど別にそれで引くのはないかな。可愛い弟には変わりないしなー。俺そんなに深く物事を考えないから。

「そ、そうか」

明らかにほっとしたような顔をした裕貴は、俺に向き直ってとんでもないことを提案してきたのだ。

「兄貴…じゃあさ、いっしょにゲームしよ」

「ん?」

「さく学、めっちゃいいから!1からやろうぜ」

「は?」


久しぶりに見た弟の笑顔は俺にBLゲームプレイを提案するものでした。なんで、こうなった?


そのゲームの内容がキラキラ系パッケージからは想像もできないようなどエロいR18ゲームだったり、濡れ場のシーンを見ることを強要されて童貞な俺が恥ずかしがってるのをみて弟が楽しむことになるとは、この時の俺は全く予想していなかったのだ。

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