p11

救護室に入ると、まさに治療中の青山がベッドに座っていた。


「おい、青山!大丈夫、、、な訳ないよな。」

青山の足にはアイシングバッグが痛々しく固定されていた。


「あ、葉山くん。肉離れ、みたい。今シーズンはもう走れないかもって。」


今シーズンって、、、じゃあもう青山の中学の陸上は終わりってことかよ。

予選であれだけの走りして、準決でも肉離れしながら自己ベスト更新するようなやつが。

そいつとはもう、走れないってことか。


自分が怪我をした訳ではないのに、俺はやたらと悔しく、行き場のない怒りを感じた。


「そ、そうか。明日は来るのか?」

青山は申し訳なさそうに首を横に振った。

「わからない。明日病院でしっかり調べてもらわないと。後輩の稜も決勝にいけなかったし。」


絶対負けないと決めた相手と本気で勝負することはできない。

それがこんなに悔しいなんて。

青山が戻ってきた時、俺はチャンピオンとしてこいつに勝ってやる。




翌日、100mの決勝を迎えた俺は、いつになく冷静だった。

普段とは違い、誰とも話さず自分のレーンだけを見つめていた。


地区チャンピオンとして、俺はお前を迎え撃つ。青山。高校で勝負だ。


そこから先はあまり覚えていない。

歓声も、風の音も何も聞こえなかった。

フィニッシュラインを駆け抜けたあと、怒涛のような歓声、心臓の音、肉体の疲労。全てがのしかかってきた。



11"36



中学時代のベストタイムを叩き出した瞬間だった。



中学編 完


🏃🏃‍♀️🐦

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る