家族会議

 小鳥の囀りが自室の窓から聞こえる。現時刻は朝の五時丁度、田舎のおじいちゃんおばあちゃんなら既に起床している時刻である。いや、ただの俺の偏見だけど。

 ちなみに俺は昨日の夜十時から今までずっと新刊を読んでオールナイトして、読み終わった後の興奮状態のまま二週目突入でただいま二週目も読み終わった所だ。ちなみに今日も普通に学校です。


「やっちまった……」


 しかしだ、原因はこの作者にもある、何とかキリのいいところで終わろうとしてもそのパート最後にどデカイ爆弾を仕掛け、絶対に途中で読み終わらせないと言う鬼畜スタンスの作者が悪い。まぁしかし、結局寝ずに読み進めてしまったのは俺であり問題は殆ど俺にある。


「よし、起きるか!」


 両手で両頬をバチンと叩き、意識を無理やり覚醒させる。ベットから起き上がり制服に着替え、リビングへと向かう。と、そこで、


「おー篝おっはー!」

「げっ……」


 俺がリビングに入ろうとした直前、歯ブラシを片手に装備した父さんと遭遇する。


「父親の息子への朝の挨拶に対する反応が、げっ、ってのは最悪じゃねーか?」

「俺にとっては朝一番に家で遭遇するのがアンタな事が最悪だよ」


 俺は心底嫌そうな顔で父さんをギロりと睨む。すると父さんは途端真面目な顔になる。


「そう言えば昨日風呂場で俺が言ってた事、覚えてるか?」

「んー、あんまり覚えてはいないかな?」

「そりゃそうか、お前気を失ってたもんな」


 そう言えば気を失った俺を部屋まで運んでくれたのは父さんだった。確認はしていないけど、いくらあのブラコン三姉妹でも長男の全裸を断りもなく目視する訳ない、と信じたい。


「にヒヒ、……お前、暫く見ないうちにでかくなったな……」

「何だその意味深な発言は!」

「下手すれば俺よりデカイぞ、お前」

「息子の息子がアンタよりデカイなんて発言は朝からやめてくれないか……」


 俺は嘆息してリビングの扉を開ける。「おはよう」といつも通り告げ、リビングの中を見回すがそこにいたのはシャルだけだった。


「……姉さんとエリーはまだ寝てるのか?」


 俺はキッチンで一人朝食の準備をするシャルに話しかける。


「いえ、姉様とエリーは先に登校しましたよ」

「早いな、今まだ五時半だぞ……」


 そんな早くに行っても学校が開いてる筈がないだろう。


「あちゃー、こりゃ酷く嫌われてるもんだ」

「今更だな?(ですね?)」


 俺とシャルのコンボ罵倒を喰らって大袈裟にリアクションした後何事もなく父さんはドカッとソファーに座り込む。


「シャル、今日の飯は何だ?」

「今日は無難にスクランブルエッグとトーストです、父様」

「……偉そうだな、アンタ」


 そんないつもと違う一幕を終えて朝食を済ませて俺とシャルもいつもより早く家を出る。正直姉さん達が心配ってのもあるけど、何より父さんと一緒にいるとい心地が悪いのだ。時より見せる、観察するかのような視線が気に食わない。


「……兄様、実は兄様に話して置かなければならない事が」


 シャルと並んで歩いていると何やらシャルが暗い顔で俺に話しかけてくる。

 俺はシャルを無言で見つめると、その様子をOKサインと思ったのか話し始める。


「父様の仕事についてなのですが……」

「あー、その話ね」


 昨日風呂場で父さんが言ってたヤツ、まぁ肝心なところはきいてないけど。


「知ってたんですか!?」

「ん? あ、まぁな?」


 注、何だが流れ的に頷いてしまったけど、実際知りません。


「なんと! ではお母様の仕事のことも?」

「まぁどこにいるとか何してるとかは」


 注、詳しくは全く知りません。


「はぁ、私悩んで損しました……」

「何か大袈裟だな……」


 シャルは何故かスッキリした顔で俺を見つめる。何故だろう、罪悪感が募る。

 そして後々俺は思い知る、何をかは知らないが。


 そんなこんなでシャルと俺は朝の通学路をダラダラと歩く、片方はモヤモヤしながら、もう片方はスッキリしながら。

 すると突然制服のポケットの中で携帯が震える。


「ん、米田家のグループトークだ」


 ちなみに俺がグループトークと言う言葉を覚えたのはつい最近である。某アプリの機能はまだそんなに把握してない。

 そんな俺にとって未知の世界であるグループトークに送られていたメッセージは、


『昼休み、生徒会室で家族会議をするわ!』


 と言う姉さんのメッセージだった。


「家族会議ねぇ……」

「姉さんらしいですね」


 そう言って二人して微笑み合う。そう言えばシャルのこういう笑顔を見たのは久しぶりな気がする。


「なぁシャル?」

「はい? 何でしょうか?」


 シャルは時より寂しげな顔をする、何故なのかその真相は分からない。まるで俺の読んでいるラノベの真ん中の妹のように色々と不思議ちゃんだ。


「……いや、何でもない」


 しかし、何から聞けば良いのか分からず俺はシャルに何も言えなかった。いや、聞く度胸が無かったのだ、結局俺はあのラノベの主人公のような思い切りなんて無いのだ、例えるならば俺はモブ、登場人物欄に名前が乗るか乗らないか曖昧なポジションのキャラなのだ。


「変ですね?」


 そう言ってシャルは可憐に微笑む。

 俺はそれに苦笑いで返すことしか出来なかった。



 ×××××××××××



 早くも時は過ぎて昼休み、俺はチャイムがなると同時に今朝シャルが作ってくれた弁当を持ち生徒会室に急ぐ。

 生徒会室の扉の前に着き中の様子を伺おうと扉に耳を付ける俺、中は不自然な程に静かだ。まるで、という感じだ。俺はゴクリと生唾を飲み込みドアノブに手をかける。そして扉が……


「あれ、開かない?」


 何度回してもドアノブは回らない、すると背後に人影が。


「何してるのカー君?」

「おひゃ!!」


 俺は変な声を上げながら俺を驚かせた犯人の顔を覗く。


「ねぇ、さん?」

「え、あ、うんそうだけど?」

「中にいたんじゃないの!」

「あのね、さっきチャイムが鳴ったばかりじゃない、ドアが開いてるわけないでしょ?」


 冷静に考えるとそうだった。


「無駄にシリアス展開を作った俺が恥ずかしい……」

「それはカー君の自己責任よ」

「ごもっとも……」


 俺が意味も無く肩を落としていると姉さんの背後から見慣れたツインテールが参上する。言わずもがな、エリーである。


「はぁ、何だか久しぶり篝……」

「んま、確かに約半日位会ってないけど久しぶり、という程の物じゃないとおもうけど」

「全く、エリーは大袈裟ね、でも……」


 すると姉さんはエリーの頭に手を乗せて優しく撫でる。


「……ありがと」

「な、何がよ!」


 ちなみに説明すると、一番の被害者は姉さんであるが、割とエリーも被害者だったりする。詳しく言うと、父さんに迫られる姉さんをエリーがことある如く間に割って入るのだ、恐らく庇おうとしてたのだろう。

 そのセービング能力と言ったら日本代表の川島に劣らないだろう。


「アイリ!」

「エリー!」


 ガバッと抱き合う二人、グス、何だろう珍しく姉妹愛を感じる、涙が止まらないよ!


「何してるんですか二人共……」


 そしてそれをジト目で見つめるシャル、毎度毎度うまいタイミングで現れるものだ。


「まぁ、この姉妹愛を見逃してあげてくれ……」

「……はい」


 するとシャルは少し拗ねた様子でどこからか取り出した鍵で生徒会室の重厚な扉の鍵を開ける。


「……何でシャルが生徒会室の鍵持ってんだよ」

「私のポケットは異次元と繋がってるんです」

「〇ラエ〇モ〇か!」


 そんな茶番も落ち着いてみんな生徒会室に入る。そして各々が適当に席につき一瞬静寂が訪れる。


「……」

「……」

「……」

「……」


 この時何故か全員がエヴァの司令官のように手を組んでいた。

 そしてその静寂を一番に切り裂いたのは姉さんだった。


「……さぁ、私達の会議戦争を始めましょう」


 唐突にそんな事を言い出した姉さんは、恥ずかしくなったのか頬を赤く染めて言い直す。


「ゴホン! とりあえずあの腐れ外道をどうするか決めるのよ!」

「どうするもなにも、恐らくアイツは意地でも用事が終わるまで居座るつもりだぞ?」

「あたしはそんなの認めないわ!」


 そんな感じでシャルを除く三人が討論している際、シャルの顔をどことなく寂しげだった。

 そうしているうちに時間は昼休み終了の時間へと近づいていく。そして結局でた結論が、


「とりあえず現状維持で、全員アイツに必要以上に干渉しない、と?」

「そうよ、アイツと同じ屋根の下で暮らすのは気が引けるけど、仕方ない、妥協するわ」

「あたしは一切話しかけないから!」


 どう足掻いてもあの男は動じない、それは俺たちの共通認識だ。だから現状維持ってのには反対しないが……


「でもアイツが何かトラブルを起こさないわけないだろ……」


 そんか俺の呟きを三人は頬を引き攣らせながらスルーした。

 何はともあれ俺達の方針は決まった。しかし、この時俺達はあの男を侮っていた事に気がつく。


 結論から言うと、あの男、米田 元気は疫病神、という事だ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る