訪問者
「な、何でアンタが……」
俺は絶賛困惑中だった、それも楽しみにしていた新刊の事を一瞬忘れる位、それぐらい今起こっていることは衝撃的な事なのだ。
「おいおい、父親に向かってアンタってのはどうなんだ?」
そう言って目の前の男、米田 元気は掛けていたサングラスをグイッと頭の上に上げる。
ちなみにこの男の容姿は、金髪碧眼、中肉中背の体格に何故かアロハシャツを着ていて下は白のハーフパンツだ。
「……アンタを父親と思ったことは無い」
俺はそう言い冷たく突き放す。
「まーだ、あん時の事怒ってんのか? おーいシャル、篝の躾どうなってんだ?」
「す、すいません父様」
「んま、とりあえず外で立ち話もなんだし、詳しい話は中に入って話そうぜ?」
「……何でアンタが仕切ってんだ」
しかし、実際俺もそう思っていたので特にそれ以上言い返す事はしなかった、それに、エリーは俺の影に隠れ怯えていたから。
×××××××××
米田 元気は昔とても優しい人だった。それこそ理想のお父さんと呼んでも差し支えないぐらいに。
しかし、ある日を境にまるで人が変わったかのように父さんは変わった、例えば機嫌が悪ければ物に当たったり、昼間から酒を飲んだり。気づけば父さんは仕事もせずに一日中家にいるようになった。
でも、それぐらいならまだ良かった、ある日父さんは姉さんにおかしな事を言いながら襲おうとしたんだ、これが俺が米田 元気を嫌いな一番の理由だ。
現在米田家のリビングは静寂に包まれている。その原因は、リビングで一番立派なソファーにどかりと座り込んでいる米田 元気が理由だ。ちなみに怯えていたエリーは自室にこもっている。
「おーいシャル、喉が乾いたー」
「は、はい、麦茶でいいですか?」
「んー」
何様なのだろう、そう思ったが俺はまず目の前の男にこう尋ねるのが先だと思った。
「……何しに来たんだ」
この男が何の理由も無しに帰ってくるはずが無い。この男が前触れも無しに帰ってきたということは、何かとんでもない理由があるに違いない。
父さんはシャルが持ってきた麦茶をグイッと一気飲みしてから俺に向き直る。
「父親らしくお前らの顔を拝みに来た、って理由じゃダメか?」
「どの口がいってるんだ」
俺は怒気を込めて父さんを睨む。
「あー怖い怖い、……んま、当然そんな理由じゃないけどな」
「それじゃあ!」
ダン! と俺は勢いよく立ち上がり目の前の男をなぐってやろうと気合を入れるも、
「そーかっかすんなって」
父さんは人差し指を俺の顔の前に突き出して呑気な声で静止する。
「とりあえず俺は腹が減った、何か食い物をくれー」
「……了解です、父様」
シャルは父さんの言う通り恐らく今日の夕食であろう肉じゃがを火にかける。
それと同時に玄関の扉が開く音が聞こえる。多分姉さんが帰ってきたのだろう。
「カー君ただいまー玄関に知らない靴があったけどだれ、の……」
「……おかえり、姉さん」
姉さんはソファーに腰掛ける男を視界に収めると硬直する。そんな姉さんに俺はいつも通りおかえりと声をかけることしか出来なかった。
「な、なんでアンタが……」
「おーアイリ! 久しぶりだな?」
父さんはニコッと笑を浮かべ姉さんにそう言う。
「はぁ……」
俺はその様子を見てため息を付くことしか出来なかった。
××××××××××
とりあえず姉さんに事情を説明した俺は一息付くために風呂に入ることにした。
脱衣場で服を脱ぎ中に入ると、恐らくシャルが気を利かせて貯めておいただろう湯壺のお湯が湯気を漂わせている。
俺は軽くシャワーで汗を流した後湯壺に体を入れる。
「ふわぁー、極楽極楽」
突然の父さんの襲来で疲れきった心と体が一気に安らぐ気がする。やはりお風呂は世界を救うだろう、と、流石に言い過ぎな気がしなくもないが、ともかく俺は溜まって疲れが取れるのを感じていた……ここまでは。
「おーっす篝、親子水入らずで風呂に入ろう!」
「俺の疲れがぁぁぁあああ!!」
ガラリと言う音とともに入って来たのは、真っ裸の米田 元気だった。
「なんだ、騒がしいぞ?」
「アンタが原因だ……」
俺は湯壺に入ったまま嘆息する。そんな俺を気にする様子もなく父さんはシャワーの前に置かれているイスに腰掛ける。
「はぁー、極楽極楽」
「俺の真似をするな!」
「あぁ? 何の事だ?」
「いや、何でも……」
こうして普通に話している分には父さんは割といい人なのだ。しかし、姉さんにした事を思い出すとそんな風に思ったこともすぐに吹き飛ぶ。
「なぁ、」
「んー?」
だから、俺は父さんに尋ねることにした。
「……何で姉さんに酷いことしたんだ?」
だいぶ前の話、父さんは姉さんに酷いことをした。詳しく言うと、父さんは姉さんに、『取材だァァァ!』と言いながら姉さんを犯そうとしたんだ。
「あー、あの時の話か」
「あぁ、そうだ」
そして父さんは間を開けて、俺に身体を向ける。そして真面目な顔になり口を開く。
「それじゃ、まず俺の今やってる仕事から話そうか?」
「どうぞー」
俺は興味が無さそうに湯壺に入ったまま父さんの話に耳を傾ける。
「俺が今アメリカで母さんと一緒に仕事しているのはお前も知っていると思う」
「いや、知らんけど?」
俺はママから出張先がどこなのか聞いていない、何でも俺が無闇に来れないようにするとか何とか、てかアメリカまで行けるはずがない。
「あ、まぁいいわ、それでやってる仕事何だが、俺と母さんは、アメリカでゲームを作っているんだ」
「ゲーム?」
「そうだ、主に姉妹系のな」
成程、しかしそれと姉さんを犯そうとする理由とどう繋がるんだ?
……やべ、のぼせて来た。
「んで、それと同時に俺がやってる仕事が、ラノベ作家だ」
「んー」
「なんだ? 驚かないのか?」
「んー」
「まぁいい、んで書いてる小説は姉妹日常系で、『姉と妹と俺と……』って奴」
「う、んー」
何だが意識が朦朧としてきた。目の前の父さんが歪んで見える。
「おーい、大丈夫かー?」
「だいじょ、ぶ……」
「いやいや、見るからに大丈夫じゃないぞ? のぼせてるんじゃないか?」
「ん、んー……」
そこで意識が完全にシャットダウンした。何だが父さんが重大発表をした気がするが、意識の遠いた俺がそれを耳にするはずが無かった。
「ったく、シャーねー息子だな」
××××××××××
目が覚めるとそこは見慣れた自室の天井だった。多分父さんが俺を運んでくれたのだろう。
俺は時刻を確認するとまだ十時ほどだったので、寝るには早いと思い起き上がって今日買ったラノベの新作に手をつける。
「ようやく読める、楽しみだな」
俺はラノベを手に取り表紙を愛おしそうに見つめる。表紙はヒロインの姉と、妹二人が仲良さそうに肩を組んでいるイラストだった。
ちなみにタイトルは『姉と妹と俺と……』あまりにどストライクなタイトルに最初は唖然としたが、内容はとても面白い。
「はぁ、この話を書いた人と会ってみたい……」
俺は作者の名前を見つめ記憶にインプットする。
筆者 朝倉 太一
『姉と妹と俺と……』
イラスト 朝倉 那月
そう言えば、この本の二巻にヒロインの姉が突然襲来した父に襲われる展開があった気がし、何だがもやっとする俺だった。
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