俺の答えと水着回?

 俺の目の前には黒服姿の夏目さん、その顔は無表情で、まるでこちらの心を見透かすかのような視線を向けられている。


「え、と、……もう一度言ってもらっても?」


 ふと思考が停止し、夏目さんの言葉を理解するのに数秒を要した。

 夏目さんが俺に言ったセリフはやけに重く俺にのしかかる。そして、無表情を貫く目の前の夏目さんは再び口を開く。


「明日から、金輪際お嬢様に関わらないで貰いたい」


 夏目さんは俺が言った通りもう一度セリフを復唱する。

と言うかさっきより言い方がきつくなってる気が……。

 まぁ、何はともあれこの言葉に対する答えは一つだけである。わざわざ悩む必要も無い。

だから俺は笑顔を作って無表情を貫く夏目さんにキッパリとこう言った。


「お断りします」


 と。

 それを聞いた夏目さんは、無表情のまま、「理由を聞いても?」とすかさず問いを投げかけて来たので、俺も負けじと理由を話す。


「彼女と関われなくなると色々と困るんですよ」


 俺の風評被害の改善とかも色々あるし、でも肝心な理由はそれじゃない。


「それに、……朱鷺さんとこれから関われなくなるなんて、寂しすぎて死んじゃいます」


 これが俺の本心だ、別に朱鷺を異性として見ている訳じゃない、言うなれば朱鷺は、桐生君に続く親しい友達である。

その関係がぷっつりと無くなるなんて、俺はいやだ。


「フッ、……どうやら篝様はお嬢様の言う通りの人のようですね、いいでしょう合格とします」


 そう言うと最初から無表情を貫いていた夏目さんの表情が柔らかくなる。

心做しか嬉しそうな顔をしている気がした。


「……はい?」


 と、俺が疑問に思うも、夏目さんは最後に謎の言葉を発し、逃げるように車の運転席へと乗り込んでいった。

 それから颯爽と夜の闇に消えていく黒塗りの車を、俺は困惑しながら見送るしか出来なかった。


「……一体何だってんだ?」


「それはこちらのセリフですよ兄様」

「うわぁ!!」


 突如後ろから話しかけられて変な声が出てしまう。

俺は声の主の方へ振り返ると、そこには見慣れたセミロングで銀色の髪を持つシャルがいた。

……何か前にもこれに近いことがあった気が……。


「いつの間に朱鷺さんとのフラグを立てていたのですか?」


 シャルは驚かせたことを反省する様子も無く、そんな爆弾を投下する。


「フラグと言うなフラグと!」


 俺は別に朱鷺 望ルートを攻略してる訳じゃない!!


「……まぁいいです、それよりお風呂が湧きましたよ、先にどうぞ」

「そこは無視かよ! まぁ、入るけどさ」


 俺はシャルに言われた通り風呂に入るべく玄関の扉を開け、中へとはいる。


……だから


「…………本当の事を知った時、兄様はどうするんでしょう」


 ……シャルの放った意味深の言葉を聞くことは無かった。



 ×××××××××



 そんなこんなで時は過ぎてその週の週末、俺は先日行われた誕生日にシャルから渡された母親からのプレゼントである、アルバムに目を通しながら自室でダラダラとしていた。


「にしてもこの隣の金髪の赤ちゃんは一体誰なんだ?」


 アルバムの一番最初のページに貼られている二人の赤ちゃんの写真を眺めながらそんな事をボヤく。

 片方は俺で間違いないだろう、しかしもう片方には全く見覚えがない、まぁ、赤ちゃんの区別なんて生んだ本人にしかつかないと思うんだが、だからたまに赤ちゃんの取り違えなんて起きるのである。


「はぁ、もう考えるのはやめよう」


 俺はアルバムを閉じてしまった後、飲み物を取りに行くため下のリビングへと向かう。

 そしてリビングの扉の前に着くと、何やらリビングが騒がしい、原因は、声から察するに三姉妹の仕業だろうと容易に想像できた。


「あっつ、今日はなにやってん……だ?」


 扉を開け、リビングの熱気とともに視界に入って来たのは……水着を装着していた三姉妹の姿だった。


「……失礼しましたー」


 俺はすかさず部屋を退出しようと扉を閉めようとすると、いつまにか近づいていたエリーがそれを止める。


「やめろ! 俺は姉妹水入らずの場面を邪魔する気はないんだ!」

「う、うるさい! せめて水着の感想を言ってからでていってよ!」

「今は色々あるから後にしてくれ!」

「嘘! 篝が色々あるって言った時は大体色々ない時だから!」

「な、何故それを!」


 俺の必殺技の裏側をコイツいつの間にきづきやがった!


「兄様、エリー、静かにして下さい」

「そうよ、カー君はまだいいとしてエリーはうるさすぎるんじゃない?」

「な、何であたしだけなの!」


 それから三姉妹の言い争いは続く、水着姿で。


「とりあえず何でみんな水着なのか教えてくれないか? それと何でリビングがこんなに暑いのかも含めて」


 と、俺の発した言葉で、三姉妹の言い争いはピタリと止まった。……水着姿のまま。



 ×××××××××



 事の発端はこうだ。朝起きてリビングに行くとエアコンが壊れていて暑かったので水着になった。以上がシャルの言い分である。

 簡潔すぎるだろ……。


「普通にエアコンがある自分の部屋に行けば良かったんじゃないか?」

「!?」


 シャルは何か気づいた様子で冷や汗を掻き始める。

あ、さては、ド忘れしてたな?


「全く、篝ってばロマンがないわね?」

「……どういう事だ?」

「暑いからクーラをかけるのではなく、暑いから水着を着るのがロマンってもんでしょ!!」

「いや、全く意味が分からん」

「んな!?」


 暑いならクーラーがある部屋に退避するのが常識ってもんだろ。わざわざ水着になる必要性がわからん。


「そんなことよりカー君? どう?」


 そう言うと姉さんは右手を頭の後にあて、片目をウィンクするという典型的なセクシーポーズ (笑) を決めながら俺にそう問いかける。

 姉さんの水着はいわゆる三角ビキニで、白地に花柄の模様が姉さんにとても似合っている。後はどこがとは言わないが、凄い。

 後ろの紐をシュッと解くとたわわの果実がこぼれ落ちそうだ。いやしないけどね?


「に、似合ってるんじゃないかな?」

「そ、そう? あ、ありがと……」


 俺が素直に褒めると姉さんは頬を赤く染めて視線を逸らす。

これで俺がマザコンではなくシスコンだったなら、一撃でキルされていただろう。


「あ、あたしはどうなの!!」


 特徴であるツインテールをピコピコと揺らしながらエリーは俺に近づいて問いかける。


「ち、近い! 離れろ!」

「あたしの水着の感想をいってよ!!」


 ちなみエリーの水着は南国風の柄で腰に布を巻くパレオ的な感じの水着である。姉さん程ではないがエリーも大きいので、ついつい目がいってしまう、どこにとは言わないが。


「い、いいと思うぞ……」

「えへへ、照れる……」


 エリーも俺が素直に褒めると照れた様子で視線を逸らす、大分機嫌がいいようで証拠にツインテールがピコピコと揺れている。


「そ、それじゃ俺は部屋に戻るから!」


 俺はあえてシャルの方を見ずにリビングの扉に手をかけ逃げるように出ようとする。


「兄様、私の水着の感想を忘れてますよ?」


 が、三姉妹の中で一番曲者のシャルがそう簡単に逃がしてくれるはずが無かった。


「……絶対に言わないと行けないのか?」

「はい」


 なぜ俺がこんなにもシャルの水着の感想を言うのをためらうのかと言うと、それは……


「す、スクール水着も可愛いよな!!」

「……これしか無かったんですよ」


 シャルは顔を暗くして姉さんとエリーの胸を睨む。


「……それに、あの二人は反則です」

「お、大きいからっていいとは限らないだろ?」

「では兄様は二人のように大きい胸より、私の様な慎ましやかな胸の方がお好きなんですか?」

「そ、それは……」


 これは究極の選択だ、巨乳か貧乳、どっちかを選ばなくてはならないとは。

 しかし、俺だってマザコンである前に一人の男だ。そりゃ大きい胸は好きだけども……


「「「……ジー」」」


 三姉妹は俺を無言で見つめている。早く言えと言う事だろうか?

 そうして俺が出した答えは……


「ほ、ほら! 大は小を兼ねるっていうじゃん! やっぱり胸っていうのは大きいのと小さいの、二つがあってこそ、その魅力が完成するとおもうんだ!」


 ひたすらに誤魔化すことだった。

 しかしそんな必死な誤魔化しにたいし、三姉妹の反応は……


「「「……だから?」」」

「え、と、そのぉー……すいません」

「別に私は兄様に謝れとはいってませんよ? 大きいのと小さいの、どちらが好きだと聞いただけです」

「…………」


 俺はシャルの剣幕に押され何も言い返せなくなる。

 ふっ、ようやく奥義を使う時が来たか……。

 俺は奥義を使うべく、利き足に力をこめる。


「……さらば!!」


 米田流最終奥義、戦略的撤退。ママは言っていた。『面倒くさくなったら逃げれば大体どうにかなる』と。


「か、篝! 逃げるのは卑怯よ!」

「そうよカー君! どっちが好きなのかハッキリしなさい!」

「……」


 俺は即座にリビングの扉に手をかけて逃げようとする。それを阻止するべく追いかける三姉妹 (水着姿) 尚シャルの目は一切笑っていない。

 しかし、スタートダッシュに成功した俺は誰よりも早くリビングの外に出て玄関へと向かうことに成功する。篝、奴らは水着だ、外に出てしまえば恥ずかしさで追いかけてこれまい!

 そうして玄関の扉に手をかけドアノブを下に下ろそうと力を入れるも、俺がドアノブを下ろす前に先にドアノブが下に下ろされる、そして扉は開かれドアの隙間からは今ではすっかり見慣れた灰色の髪の毛が見えた。


「篝君?……っ!!」


「こらー! カー君まちな、さ……」

「篝逃げるなー!」

「……兄様、逃がさない」


「「「「「あっ!」」」」」


 突然の訪問者、桐生君の乱入により、騒がしかった家の中に静寂がやってくる。

 そしてその静寂を最初に破ったのは、何が何だか理解出来ていない桐生君だった。


「えーと、……三人とも、水着似合ってるすね……さよなら!!」


 ガッ! と、俺は逃げようとする桐生君の腕をすかさず掴みホールドする。

 悪いが桐生君には犠牲になってもらうとしよう。


「か、篝君放してくださいっす!」

「嫌だ! ……桐生君、俺たち友達だろ?」

「そんな腐りきった友情は嫌っす!」


 そんな事をしているうちに仁王立ちの姉さんが拳の骨を鳴らしながら近づいてくる。


「……さあ桐生、乙女の柔肌を覗いたからには……覚悟は決まってるんでしょうね?」

「あ、アハハ、か、会長、これは事故って言うか……」

「言い訳は聞きたくないわ」


 多分桐生君はこれから姉さんにボコボコにされるだろう、俺は桐生君のホールドをとき、姉さんに差し出す。

 さて、その間に俺は昼飯でも食べるとするか。そんな事を考え、俺は姉さんと桐生君の横を忍び足で通り過ぎると急に目の前が暗くなる。あれ? 何が起きたんだ?


「……あら、兄様どこに行くつもりで?」

「しゃ、シャルさん? ちょっとそこをどけて貰えると……」

「篝には、ちょっとお仕置きが必要だね?」

「え、エリーまで!」


 その後米田家の玄関には二人の男の悲鳴が響き渡ったという。

 と言うか一番の被害者は巻き込まれた桐生君な訳ですけども、そのへんを気にしたら拉致が開かないのであえてスルーすることにした。


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