プロでゲーマーな〇〇さん
『今日から梅雨入りです!!』
そんなテレビの中のお天気お姉さんが言う通りリビングの窓から見える外の天気は雨模様だ。
「うわ、結構降ってるな……」
「そうですね兄様、なら今日は相合傘をして登校しましょう」
シャルが今日の朝ご飯の一つである味噌汁を啜りながらそんなことを言う。
「いや俺傘持ってるし」
「ダメよシャル!! カー君と相合傘をするのは私だけと校則で決まってるのよ?」
「いやいくら何でも無理あるだろ」
いくら学校の生徒会長さんでも校則に私的な要素を含ませるのは不可能だと断言する。
もしそんな事ができるのであれば今すぐ俺は姉さんから生徒会長の座を奪って毎日参観日にしてもらうっての。
「何いってんのよ!! アイリと相合傘なんてしたらアイリの胸肉で篝が入らないじゃない!」
「あら、自分よりデカイ胸の人を嫉妬するのは辞めたらどうなのエリー?」
「……お二人共、今は朝食中ですよ?」
二人の言い争いを、三姉妹の中で最も胸が小さいシャルが微笑んで仲裁する、尚シャルの目は一切微笑んでいない。
そんな朝の一幕を終えてようやく家を出る頃には学校に間に合うか間に合わないかのギリギリの時刻となっていた。
×××××××××
そんなこんなで時は過ぎてその日の昼休み、俺は相も変わらず桐生君とご飯を食べている。
「篝君、そう言えば体育祭は何に出るか決まったんすか?」
「……いや、何も」
体育祭そう言えばあったよな……
とは言っても実はまだ一ヶ月ほど先の話である。うちの学校は何でか行事ごとを早めに潰して起きたいスーパーせっかちな学校なので夏休みに入る前に体育祭が開かれるのだ。
ちなみにその次の日に修了式。
「自分のクラスではもう出る種目とか決めちゃってますよ?」
「随分と活発的なクラスだな……」
俺のクラスではまだ何もしてないってのに。
それにしても先日の誕生日パーティーで桐生君は俺がマザコンだということを知ったというのにそれからもまるで何も無かったかのように接してくれている、もしや、世間的にマザコンが認められている、のか?
「桐生君、俺ってマザコン、じゃん?」
「はい、そうっすね?」
「きもちわるく、ないか? だってもう高校生な訳だし……」
前にも言った通り俺は学校でマザコンを隠している。もしもバレたら絶対に気持ち悪がられると思うからだ。
しかし桐生君は、何言ってるんすか、と言ったあと、続いて
「別に自分は篝君がマザコンでも気持ち悪がったりしないっすよ、むしろ好感がもてるっす」
「好感がもてる?」
桐生君は何を言ってるんだろう、まさかやっぱりマザコンが世間に認められて……
「あ、でも周りに公表するのはやめといた方がいいと思うっすよ」
……は、いないらしい。
「はぁ、やっぱりそうだよな……」
「どうしたんすか篝君、今日はやけに元気無いっすね?」
「……色々あるんだよ」
別に色々ある訳でも無いのだが、とりあえずそう言っておく。もはや口癖になりつつある。
その後俺は先日貰った小説を思い出して、桐生君にその話題を降った。
「そう言えば桐生君がくれた本、すごい面白かったよ」
特に三姉妹とただ一人の長男がイチャイチャする所とか。
いや、別に俺がそうして欲しい訳じゃないんだからね? 勘違いしないでよね?
「まじすか!? いやぁー、やっぱりあの本にしてよかったっす!」
「何か俺と家族構成が似てて、主人公である長男の苦悩に共感出来たし、それでいて主人公が本当は三姉妹を好きな気持ちがすげぇー分かる!」
いやぁー、あの本は傑作だ! 貰った全巻読んでから四回位読み直してしまったぜ!
「篝君……、マザコンとシスコンのハイブリットは、パネェっす」
「は!? な、なにいっちゃってんの? 俺はマザコンではあるけどシスコンでは無いし? 断言する!!」
「でもさっき主人公が三姉妹を好きな気持ちに共感出来るって言ったっすよね?」
「……何かの間違いだろう」
あんな三姉妹を俺が好きなんて、絶対ない!?
「あ、そう言えばあげた本に梅雨時期の話が一つあったんすよね」
「あ、あそこだろ! 三姉妹と長男のドキドキゲーム大会!」
あそこはすごい面白かった、なんかこう、既視感があると言うか……
「話は聞きました兄様!!」
「むむ、何奴!!」
「篝くんノリいいっすね……」
そんなこんなで、小説のワンシーンにある、三姉妹と長男のドキドキゲーム大会を実際に家でやる事になりました。
べ、別に本当にやりたいとか思った訳じゃないんだからね!?
××××××××
学校が終わってもまだ雨は降り続いており、まるで止む気配がない。
なので俺はよくあるビニール傘を指しながら家路へと急ぐ、俺の隣には姉さん、エリー、シャル、そして朱鷺、ってんん?
「何で朱鷺がここにいる……」
ふと隣を見るとそこにはまるで当然のように俺の隣で高級そうな傘を指す朱鷺がいた。尚休日の様な可憐な朱鷺スタイルではなく、学校スタイルのボサボサ髪&目の下にクマがある姿。
「……今日はゲーム大会って聞いたからね」
「いや、朱鷺を呼んだ覚えは無いけど」
「……だ、だめなの、かい?」
朱鷺は瞳をウルウルとさせ俺に上目遣いを決め込む、こんな事をされては断るにも断れないだろう、と言うか多分朱鷺も分かってやってるんだと思うが。
「わ、分かったよ! やろう、ゲーム大会をやりましょう!」
「……本当かい!?」
そう言って喜ぶ朱鷺は、おもむろに自らのカバンに手を入れて、数枚はあるだろうゲームカセットを取り出して俺に見せつける。
やる気まんまんじゃねーかこの野郎。
「……やっぱり篝は優しいな、僕のお婿さんにしてあげようか?」
「断る、現時点で俺が一番お婿に行きたい女性はママだけだ」
前は朱鷺にもマザコンの事は秘密だったので今みたいに言え無かったが、バレてしまった事は仕方ない、開き直りが大事である。
「……篝、いくら何でも近親相姦は頂けないよ」
「き、近親相姦はしてないから!?」
そんな感じで雨降る帰り道を俺と三姉妹、オマケに朱鷺の五人で歩いているのであった。
と言うか、先程から三姉妹の視線が痛いのですが、どうすれば良いのでしょうか?
そして場面は変わって俺の部屋、現在俺の部屋には合計五人のメンバーでごった返しており、もしこの時俺の部屋にエアコンが設置されていなかったら蒸し暑さで死んでいただろう。
「結局今日は何のゲームをやるつもり何ですか?」
「私も気になるわ、カー君が珍しくみんなでゲームをしようなんて言うからはしゃぎすぎて聞きそびれちゃったけど……」
「……今日僕が持ってきたソフトは合計三十六本、どれも傑作揃いだから好きな物をどうぞ」
ふざけんな、持ってきすぎだ!
「えー、でもやっぱりあたしはこれが……」
そうエリーが言うと、何処から取り出したのかあの禁断のソフトを召喚する。
「……それは僕も初めて見たなぁ」
「これ、は……」
「エリー流石に破廉恥よ!!」
そう、それはこの前に起きた、エリーパンツムシャムシャ事件 (そんな事はない、と思う) の現況となった代物、『お兄ちゃんのおパンツの匂いを嗅んで……』以下略、である。
「しまえ!! そんな汚らしい物を今すぐしまえ!!」
「え、ちょ! いくら篝でもそれは酷すぎる!!」
「うるさーい!! そんなものは、こうして、こうだ!!」
バリーン、と俺が何処からとも無く取り出したハンマーを『お兄ちゃんのおパンツの匂いを……』以下略、の真ん中に落とす。
うむ、これでいいんだ……。
「あ、ああぁぁぁぁああああ!!!!」
そんな声にならない叫び声をあげるエリーを隅に放置して、米田家 (朱鷺も含める) 初のゲーム大会はまずソフト選びから始める事となった。
そして、壮絶な話し合いの末、三十六本と言うアホみたいな数のソフトから三本に絞られた。まず一つ目は、
『大奮闘アタックシスターズ』
これは幅広い年齢から愛される俺でも知っている超人気作品だ。最高で四人まで一気に対戦でき、ゲーム大会には持ってこいな代物だ。続いて、
『大爆走マリオネットサーキット』
これは俗に言うレーシングゲームを簡略化したゲームで、これも幅広い年齢層から支持を集めている人気作品だ。そして最後に
『お兄ちゃんとの恋愛をクソアマ共が全力で阻止してくる』
……これは、うん、朱鷺の持ってきたソフトでは無くシャルが持ち込んできたぶつである。多分内容としてはギャルゲーみたいなものなんだろう。
「……この最後のゲームはなかなか面白そうだね」
「ほ、本気で言ってんのか朱鷺……?」
「……どういうゲーム何だい篝?」
「いや俺に聞かれても……まぁ、多分、お兄ちゃんとの恋愛をクソアマ共が全力で阻止してくるゲーム何じゃないか? 良くは知らんけど」
そうしていつの間にか復帰していたエリーも加えて多数決で決めることになった。
と言うか結果は見えているので今更多数決をする必要もないと思うんだが……
××××××××××
私の名前は愛上 愛どこにでもいるお兄ちゃんが大好きな女子高生だ。いや、だった。
ある日を境に私のお兄ちゃんライフに終止符が打たれた。と言うのも、とある研究所が開発したKSAMウイルスによって周りの人間達はまるで映画で見るかのようなゾンビ (クソアマ) になり見境なく人間を襲うようになったからだ。
それによって世界は終わりを告げた。
果たして私は数多いるクソアマ共を退け無事にお兄ちゃんとゴールインする事が出来るのか、それはまだ誰も知らない。
ピ!
「おい、何かゲームの内容が思ってたのとちがうんだけど?」
「黙って見てて下さい兄様」
ピ!
『お兄ちゃん! 起きて、朝だよ?』
お兄ちゃんは朝に弱い、いくら私が揺すってもちっとも起きない。だから……
『……チュ』
……寝ているお兄ちゃんにキスをしてやった。ふん、起きないお兄ちゃんが悪いんだからね?
ジリリリリリリリ!
『は、警報? まさかこんな朝はやくにクソアマが!?』
私はお兄ちゃんの寝顔を名残惜しそうに見つめた後、お兄ちゃんの部屋を出る。
そこから場面は変わって何故か画面は銃を構えた一人称視点に変わる。
「これって結局ゾンビゲーな訳?」
俺がそう問いかけるも四人は何も言わない。すっかりゲームに夢中になっているようだ。
そこからは俗に言うチュートリアルというヤツで画面には操作方法などが表示されている。ちなみに操作しているのはシャルだ。
チュートリアルが終わりクソアマ共 (注ゾンビ) をシャルが初めてとは思えないコントロール裁きで倒していく、その目には何故か炎が点っている、気がしなくもない。
「だぁー! 死ねクソアマ共が! お前らを倒して私は兄様とのイチャイチャを勝ち取る!」
『はぁー! 死ねクソアマ共! お前らを倒して私はお兄ちゃんとのイチャイチャを勝ち取る!』
シャルのセリフとゲームの中の愛上さんのセリフが被った、……感情移入し過ぎだろ。
「いけぇ! シャル!! こんなクソアマ共なんて倒してさっさとカー君とイチャイチャするのよ!!」
「篝は誰にも渡さない!! クソアマ共は全員駆逐してやるわ!!」
おいおいお前らもか。俺は一縷の希望をもって朱鷺の方に目をやると。
「……ファッ〇ュー」
多分ピー音がかかる言葉を吐きつつ中指を立てていた。
……お前が一番ヤバイ。
そこからもクソアマ共 (ゾンビ) を駆逐していく主人公、たまにお兄ちゃんとイチャイチャしたり、駆逐したり、イチャイチャしたりと意味が分からないゲームが続く。
そしてゲームを初めてから数時間程が経過した時、初めてシャルがクソアマ共 (ゾンビ) に負け、ゲームオーバーになる。
「クッ! わ、私はこんな所で死ぬわけには……」
まるでアニメの女騎士が言いそうなセリフを吐きながら顔を顰める。そして遂にコントローラーを離し、倒れそうになったシャルを支えたのはまさかの朱鷺。
「……僕に任せろ」
その言葉にはクソアマ共 (ゾンビ) に対する恨みが篭っていた気がしなくもない。
そしてゲームオーバーの画面からコンテニューを押した朱鷺、……そこから始まったのは、クソアマ共 (ゾンビ) をまるで三国無双の主人公のように蹴散らす修羅となった朱鷺のプレイだった。
「…………」
無言でコンローラーを連打してクソアマ共を駆逐する朱鷺さん。ボサボサの髪をかき揚げる度にクソアマ共がバタバタと倒れていく。
俺はその姿をただ見守ることしか出来なかった。
×××××××××
「……ふぅ」
それから数分後、画面にはエンディングムービーが流れていた。
「ぐず、まさか、兄様が既に死んでいたなんて……」
「う、うぅ、カー君がぁぁぁ!!」
「か、かがりぃぃぃ!!」
「いや俺死んでないから」
「……篝、雰囲気が崩れるから今だけ死んだ振りをして」
酷い扱いだ。まぁ言われた通り死んだフリをしていた訳だけども。
死んだフリをしている際にふと時計を見ると既に時刻は九時を迎えていた。俺は死んだフリをしながら朱鷺に話しかける。
「朱鷺、時間は大丈夫か?」
「……心配ない、外で夏目が待っている」
夏目さん大変だな、同情を禁じ得ない。
「……そう言えば夏目が篝と話したいことがあるって言ってた」
「はい?」
夏目さんが俺に? 一体何の話だろ。
その後とりあえずゲーム大会? は終了して、俺は朱鷺を見送る半分、夏目さんと話に玄関を出た。
玄関を出るとすぐに、まるで夏目さんが気づいていたと言わんばかりに玄関の前に立っていた。
「お嬢様、車へ」
「……うん、ご苦労さま夏目」
そう言うと朱鷺は黒塗りの車に乗り込んでいく。……相変わらずあの車高そうだな。
「篝様、少しお時間を頂いて宜しいでしょうか?」
「えと、はい」
そして夏目さんは少し間を置いてからこう言った。
「大変申し訳無いのですが、明日からお嬢様に近づかないで貰えないでしょうか」
俺はその言葉を聞いた瞬間、空いた口が塞がらなかった。
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