末っ子の苦難
なんて事無い週末の、午前中の自室にて。
珍しく家には姉さんとシャルがおらず、現在家にいるのは俺とエリーの二人だけである。ちなみに、姉さんは生徒会の仕事で、シャルは用事があるとか。
そんな訳で現在俺は朝からずっと布団と少しの罪悪感にくるまったままでダラダラしていた。
「今日は、エリーと二人だけか……」
そう言えば家でエリーと二人きりになることなどなかった気がする。
と言うか週末になるとあの三姉妹は必ず家にいるのだ、暇なのだろうか?
「はぁ、今頃ママは何をしているのやら……」
出張と言っていたが、出張先を俺は知らない。
と言うか俺は両親の仕事すら知らないし、どこにいるのかも検討がつかない、いやお前両親の仕事くらい把握しておけよ! 何て言われるかもしれないが、結局俺が興味のある事はママの仕事ではなくママ自身なのだ、父? そんなものは知らない。
「……会いたい」
ガシャン! ←エリーが勢いよくドアを開けた音。
「呼んだ!?」
「お引取り願う」
ガシャン! ←勢いよくベットから出動し、勢いよくドアを閉めた音。
ふぅ、あれ? 誰か来たっけ?
「ちょっと篝! 開けてよ!」
ドンドン! と勢いよくドアを叩く何者か、俺はそれを扉の前で仁王立ちしながら険しい顔で睨む。
「だれだ、名を名乗れ」
「ちょ、あたしだって! えりー! 篝の1番大好きな米田エリー!」
ふむ、米田エリー? それは米田家三姉妹の末っ子、米田エリーの事か?
「嘘つけ! 米田エリーは最近影が薄くてろくに話に出てきて無いはずだ!」
「ちょ! 今日はあたしだけの話なんだけど!?」
やれやれ、何を言ってるのだろうコイツは。
「ほらよ、冗談だって入れよ」
俺は先程までの態度とは違い、すんなりとエリーを中へ招く。
「さ、最初から開けてよ!」
「まぁ、色々あってな」
別に色々などないのだが、適当に言い訳を並べてエリーの機嫌を取る。
「んで、何のようだ?」
俺がそう問うと、エリーは手のひらを顔の前に合わせてお願いしますのポーズをとる。
「ちょっと付き合って!」
そのエリーの一言から、これから大変な目に会うなんて、全く思ってもいなかった。
……本当に思ってもいなかった。
××××××××××
現在地は前に朱鷺と行ったショッピングモールの二階に位置するゲーム屋。
と、なんでこんな所にいるかと言うと、エリーのお願い事と言うのが一緒にゲームを買いに行ってほしいとの事だからだ。
「お前な……ゲームぐらい一人で買いに行けよ」
一人でゲーム買えないなんて、今どき小学生でも一人でゲームを買いに行くぞ?
「う、うるさい! 別にいいじゃない!」
ピヨピヨと左右に揺れるエリーのツインテールを見ていると何だか癒されそうだ。
例えるならば、そうだな、天使の翼のような? あ、例えになってない? あそ。
「篝話聞いてる!?」
「あ、悪い、エリーのツインテールに思考が持っていかれた」
「そ、そうなの……悪い気はしないけど……」
俺が心にも無いことを言うと、エリーはツインテールの片方を撫でながら頬を赤く染める。
……んー何だか悪いことしてる気分だな。
「それより、エリーは何のゲームを買いたいんだ?」
「ん? 恋愛シュミレーションゲームよ!」
「冗談きついぜエリーさん」
「冗談じゃないから!」
はて、冗談でないとすれば、何故エリーが恋愛シュミレーションゲームを買うのか? 理由は全く検討もつかない。
別に今好きな人が居るから、という理由でも無いだろうし、てかそういうゲームをリアルに生かそうとしても無駄なだけなのだか。
「ちなみにどんなタイトル?」
恋愛シュミレーションゲーム、もといギャルゲーと言うのは俺でも知ってるし、その作品の中でも何作かプレイした事がある。
とは言ってもママにプレイさせられただけなのだが。
「なんでタイトルを聞くの?」
「色々あるんです」
例のように色々など無いのだが、あ、いや、あるにはあるけど。
何故俺がタイトルを聞くのか、それは、大体タイトルでエロゲーか健全なゲームか検討が着くからだ。
もしもエリーがエロゲーを買うのであらば……その時はその時で考えよう。
「ふーん、まぁいいや、あ! あった、これよこれ!」
その時は案外すぐに訪れるもので、エリーがはしゃぎながら掲げていたのは、『お兄ちゃんのおパンツの匂いを嗅んでオナニーしちゃっても全然問題無いよね?』と言ういかにもエロゲーとしか考えられないタイトルのものだった。
さぁ、どうしてやろうかコイツ。
「悪いことは言わないエリー、そいつはやめとけ」
「な、なんでよ!」
「『お兄ちゃんのおパンツの匂いを嗅んでオナニーしちゃっても全然問題無いよね?』のタイトルで把握しろよ!」
「『お兄ちゃんのおパンツの匂いを嗅んでオナニーしちゃっても全然問題無いよね?』のタイトルのどこが問題あるのよ!」
「『お兄ちゃんのおパンツの匂い嗅んでオナニーしちゃっても全然問題無いよね?』の全部だよ!! 『お兄ちゃんのおパンツの匂いを嗅んでオナニーしちゃっても全然問題無いよね?』は? 全然問題大ありだわ!!!!」
そんな口論をしている際にふと俺は気づく、公衆の面前で、『お兄ちゃんのおパンツの匂いを嗅んでオナニーしちゃっても全然問題無いよね?』と言う言葉を吐くとどうなるか、その答えは明白だ。
「……ねぇ、あの人達って……」
「やめなよ! 見ちゃダメだって!」
「ねぇおかーさん、 あのひとたちなんて言ってるのー?」
「『お兄ちゃんのおパンツの匂いを嗅んでオナニーしちゃっても全然問題無いよね?』といってるのよ? この言葉は全く変な言葉じゃ無いのよ? さぁ、行きましょ!」
「うん! わかったー!」
言うまでもなく、周りからは変な目で見らる。そりゃそうだろう、人目がつく場所で、『お兄ちゃんのおパンツの匂いを嗅んでオナニーしちゃっても全然問題無いよね?』と言ういかがわしい、不健全な言葉を吐くとこうなるにきまっている。
……てか、子供のお母さんの必死さがヤバすぎる。
「なによ! 『お兄ちゃんのおパンツの匂いを』……むぐぅ!」
「やめろ! わかった! 分かったからもうそのタイトルを口にするのはやめろ!」
その後俺は何か言いたげなエリーの手を引っ張って、地味に笑っている店員さんの元へと向かった。
店員さんから見ればカップルがエロゲーのタイトルについて言い争っているふうにしかみえなかっただろう。
ん? ゲームディスク? えぇ、出しましたとも、自信満々に『お兄ちゃんのおパンツの匂いを嗅んでオナニーしちゃっても全然問題無いよね?』をレジに叩きつけましたとも。
そんな鬼気迫る俺の表情を見て店員さんは苦笑いを浮かべていた。
×××××××××
「はぁ、人として大切な何かを失った気がする……」
無事に? 買い物を済ませ、帰りについでに昼飯を買い、ようやく家についた頃にはもう昼前であった。
ちなみに、俺は疲労困憊なのだが、エリーはその逆で、まさに元気ハツラツと言った感じだ。
「早くゲームやろうよ篝!」
「あー、飯食ってからな、ちなみに俺はやらないからな」
誰が妹と『お兄ちゃんのおパンツの匂いを嗅んでオナニーしちゃっても全然問題無いよね?』と言うタイトルのゲームをやるか!
「えー! 折角家に二人きりなんだからいいじゃん!」
「断る」
「休日にお兄ちゃんと二人きりだからお兄ちゃんと一緒にエロゲーやっても全然問題無いよね?」
「問題大ありだ」
「ちぇ、でも結局このゲームの本体って篝の部屋にしかないじゃん?」
「喜んで差し上げよう」
こんな感じでエリーと一進一退の攻防を繰り広げているうちにコンビニから買ってきたざるそばをリビングのテーブルの上に並べる。そして言い争いながらもざるそばを完食、んで結局……
「えへへ、やっぱり篝の部屋は落ち着く!」
「最終手段は強行突破か……」
俺が後片付けをしている最中にエリーはダッシュで俺の部屋に侵入&居座りやがりました。
「それじゃあ、スタート!」
「……もう勝手にしてくれ……」
後々、俺が部屋から出ればいいだけなのでは? と思ったが時すでに遅しで後の祭りであった。
でも少しだけ、ほんの少しだけ、このゲームに興味があった、……かも知れない。
××××××××××
タッタッタッタ
誰かの階段をかけあがる音で目が覚める。
あなたはその音を鬱陶しく思いながらベットから起き上がることにした。
ガシャン!
『にぃに! もう朝だよ!』
あなたをにぃにと呼んでいるのは、あなたのたった一人の妹である坂下エミリ、あなたはこれから、この妹の兄としてプレイを進めてください。
ここで一時停止。
「あ、これチュートリアルか」
「可愛い、エミリちゃん可愛い!」
ソフトを起動すると、会社の名前と共にオープニングムービーがながれ、そして主人公の名前は俺の名前である篝になった。
「ま、今のところおかしい所は無いな」
「もう、篝ってば、おかしい所なんてあるはずないじゃない!」
あのタイトルからして、確実にそんなこと無いと思うのだが……
そんな事を思っている隙にエリーはスタートボタンを押した。
『もう、にぃにってば朝に弱いんだから』
ちなみにこの、エミリちゃんには可愛らしいボイスが付いている。
『悪い、毎朝ありがとな』
そして主人公である坂下篝にはボイスが付いてない、まぁ、プレイ側が感情移入できるようにする配慮だと思うけど。
『にいに、朝ごはん出来てるから着替えたら降りてきてね?』
『あぁ、分かった』
『あ、それとそこら辺に散らかってる服とか洗っちゃうよ?』
そう言うとエミリはあなたの脱ぎ散らかした服をまとめて持っていった。
『本当にうちの妹はよく出来た妹だな』
「はぁ、俺もこんな完璧な妹が欲しいぜ……」
「なっ! ちょっと篝ここにいるじゃん! 何でもできる完璧妹が!」
「あー、んーそーですね」
エリーの言葉を軽く流しながらそれでもゲームは続いていく。
あなたは着替えた後、妹が用意してくれたであろう朝食を食べるためにリビングへと早足で向かった。
ガシャン
『おーいエミ、リ?』
あなたがリビングの扉を開け、そこに見えたのは、先程拾ったであろうあなたのパンツを嗅みながらオナニーしているエミリの姿だった。
ピッ!
「馬鹿野郎!」
俺はエリーの持っていたコントローラーを乱暴に剥ぎ取り一時停止を押したあとコントローラーを投げつける。
「ちょ、何するのよ篝!」
「うるさい、やっぱりこのゲームはやめよう! これ以上やると大変なことになる! 色々と……」
俺は本体の電源を落としてこのゲームの中止を促す。
これ以上はやばいです、ホントに、ごめんなさい。
「べ、別に妹がお兄ちゃんのパンツの匂いを嗅みながらオナニーしてもいいじゃない!」
「良くない! 不健全過ぎる! せめて見えない場所でやれ!」
朝起きてリビングの扉を開けると、その……ソレが広がっていたとか、ジョークにしても笑えなさすぎる。
「あ、あたしだって……ゴホン」
「え、あたしだっての次は?」
まさか……な?
「な、何でもない! しょ、しょうがないから、今日はここまでで!」
おいおい、まさかエリーまでパンツオナニーしてるなんて言わないよな?
そんな一抹の不安を抱えながらこの、『お兄ちゃんのおパンツの匂いを嗅んでオナニーしちゃっても全然問題無いよね?』のプレイが終わった。
……誰だよこんなゲーム作ったやつ。
数時間後、エリーが俺の部屋に入ってきて、普段は絶対しない洗濯物を取りに来た時、俺は快く断っておいた。
余談だが、このゲームの妹が、どことなくシャルに似ていたのは、何かの間違いだと信じたい。
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