生徒会の手伝い

「カー君! ちょっと手伝って貰い事があるのだけど」


 月曜日の放課後、俺が一人で教室にいると三姉妹の一番上の姉である米田 アイリが教室に入って来るなりいきなりそんなことを言ってきた。


「手伝い?」

「そう! ちょっとね」


 姉さんがちょっと、という時は大体ちょっとどころでは無いのだが……。

 めんどくさい事じゃなければいいんだけど。


「何をすればいいの?」

「生徒会の仕事を手伝って欲しいの!」


 ……生徒会の仕事のどこがちょっとなのだろうか聞きたい所である。

 まぁ、別段結局やることなどこれから家に帰るぐらいしか無いので、俺は面倒くさがりながらも姉さんのお願いを承諾したのだった。



 ×××××××××



「それで、生徒会の手伝いって何をすればいいの?」

「ちょっと最近備品の整理が追いついて無いのよ、だからカー君に頼もうかと思って!」

「にしても備品の整理なんて生徒会でも何でもない俺には無理じゃないかな?」


 思った以上に、と言うよりやっぱり生徒会と言うのは面倒臭い仕事をする団体である。

 その備品の整理となると、生徒会でもなんでも無い、只の一生徒である俺には無理では無いだろうか?


「そこら辺は気にしなくてもいいわ、カー君の他にもう一人いるから」

「もう一人、ねぇ……」


 変な人じゃなければいいけど……。


 そんなふうに雑談しながら廊下を歩いていると校舎の2階にある生徒会室に到着した。

 それと同時に姉さんはまるで人が変わったかのように変貌する。

 というのも、俺が学校では姉さんにあまりベタベタしないように釘をさしているからなのだが。

 ……流石に威厳のある生徒会長が実はブラコンだった、なんて威厳が消えかねないからな。


「失礼します」

「ただいま戻ったわ」


 生徒会室の中は、特にそんな変わった事様子でもなく、中には俺と姉さんを抜いて、三人ほど在室していた。

 何となく俺が入った瞬間少し空気がピリついた気がするのだが、何かの間違いだと信じたい。


「とりあえず、今日一日だけ手伝って貰う事になった私の弟の米田 篝よ、みんな今日一日だけよろしく頼むわね」

「よ、米田 篝です! お願いします!」


 俺がそう言うと中にいた三人はざわつき始める。

 はて、何かおかしな事を言っただろうか?


「……あの人が二年で話題の、残念イケメンシスコンの……」

「……こ、こら! 聞こえるって!」


 うん、聞かなかったことにしよう。

 ……朱鷺の掲示板の効果全くないじゃねーか。


「とりあえず、んーそうね、桐生、篝君と一緒に備品の整理をお願い、終わったら今日は帰っていいから」


 姉さんがそう言うと、桐生と呼ばれた生徒会室に在室していた三人の一人が立ち上がる。


「りょうかいっす、んじゃ行きますか、篝君」


 桐生と呼ばれたのは男で、なかなかのハイスペックの持ち主だ。

 身長は高く、瞳はくすんだ青色、髪の色はくすんだ灰色。って、字ズラ的には全然ハイスペックには思えないのだが、それでも大した容姿の持ち主だ。


「あ、りょうかい」


 そして、俺は桐生君と共に備品の整理に赴くのであった。


 それから俺と桐生君は学校内に何ヶ所か存在するうちの一つの倉庫の中に入り、桐生君から一通り仕事を教えてもらったあとそれぞれに備品の整理を始めた。

 倉庫内の備品は、姉さんが溜まっているというだけあって、リスト内には目がくらみそうな程の文字が書いてあった。

 ……これ、今日中に終わる量じゃない気がするんだけど。


「あ、そう言えば、学校内にある篝君の噂って本当なんすか?」


 唐突に桐生君が地雷を踏んできた。


「あ、あれはほとんど嘘だから! ホントに迷信だよ!」


 何としても今ここで誤解を解いて起きたい。

 これ以上俺がシスコンである、という噂が広まるのは勘弁だ。


「え、まじすか。……それはそれでちょっとショックっす」

「何がショックなのか一字一句説明して貰いたい!」

「冗談っすよ! とりあえずさっさと終わらせて帰りましょうか!」


 それについては同感だったので、俺と桐生君は黙々と仕事を始めたのだった。

 そして、ようやく仕事が片付いたのは、それから二時間ほど経過した後だった。



 ××××××××××



「ふぃー、お疲れ様っす篝君!」


 桐生君が汗を拭いながら爽やかにそういった。

 そしてその横では疲れきっている一人の男、言うまでもなく俺である。


「……お疲れ様、まさか今日中に終わると思わなかったよ」


 まるでゾンビの様な声でクタクタになりながら桐生君を労う。

 俺はこんなにも疲れているのに桐生君は案外疲れていなそうだ、これが慣れって奴なのだろう。


「最後らへんはもう篝君もいっぱしの生徒会役員だったすね! どうすか? これを機に篝君も生徒会に入ったら」

「それは断っておくよ」


 俺は苦笑いを浮かべながら桐生君にそう言うと、桐生君は俺の顔をじっと見つめ始める。


「……んー、それにしてもやっぱり似てないっすね」

「へ? どうしたのいきなり?」

「あ、いや、会長と篝君って兄妹なのに似てないなぁーって思ったんすよ」


 やっぱりそう思う人もいるのか。

 しかし、実際に俺と姉さんの顔は全くと言っていいほど似ていない。

 そりゃ気づく人もいる訳である。


「そうは言ってもね、実際DNA検査もしてもらって一致してるからさ」

「そうなんすか、……人間って不思議っすね……」


 桐生君は顎に手を当てながら思案顔を浮かべる。

 ちなみに今は学校からの帰り道で、空を見上げると一面茜色に染まっている。


「と言うか、桐生君って俺と同い年だよね? なんで、敬語?」


 先程から気になってはいたけど、聞くタイミングを失ってしまって聞けなかった。


 すると桐生君は少し恐ろしげに俺を見つめて


「あー……だって会長の弟さんっすよ? ……恐れ多いっす」

「別にそんなの気にしなくて良いのに……」

「いやいや、それにこっちの方が使い慣れてるっすからこのままで行くっすよ」

「あ、うん、分かった」

「なんすかその適当な相槌は!」


 いや、桐生君って面倒臭いな。

 何か絡みづらいと言うか、あの三姉妹に通じる所がある。


「そう言えば……」

「話変えちゃうんすか!!」


 そんな桐生君の突っ込みは無視して俺は質問を続ける。


「桐生君って見た目からして生徒会って感じしないけど、自分から志願したの?」


 桐生君の見た目は良くいえばフレンドリーで、悪くいえばチャラい、そんな桐生君に生徒会なんて生真面目そうな所は似合わないと思うのも仕方がないだろう。


「あー、うん、それには色々あるんっすよ……」


 すると桐生君は急に顔を暗くして、下を向き始めた。

 あれ、俺地雷踏んだ?


「……聞かないでおく」

「……そうして欲しいっす、その話は今度言うっすよ、……あ、俺の家はここ何で! んじゃ!」


 そう言って、手を振りながら良くある一軒家の中へと入っていく桐生君。

 玄関の入口には 天音、と書いていたので桐生君のフルネームは 天音 桐生 なのだろう。


「んー、それにしても天音って名字、どこかで聞いたことがある気が……気のせいか?」


 俺はふとそんな事を思いながら歩き始める、そして五六歩歩くと俺のすぐ隣には自分の家がある。

 ん?


「って、桐生君の家って俺の隣かい!!」


 訳もなく一人で大声で突っ込みを入れたことに少し顔を赤くしながら家へと入っていく俺であった。

 玄関を通りリビングに入ると既に姉さんは帰宅していたようで、リビングにはいつも元気な三姉妹がいる。


「ただいまー」

「あ、兄様おかえりなさい」

「おかえり篝!」

「カー君おかえりなさい」


 家に帰ると必ず人がいるということに俺は少し感動をおぼえながら、俺は既に三姉妹が作ってくれただろう夕食にありつく事にした。


「あ、そう言えばカー君、うちの桐生が変な事言ってなかったかしら?」


 今日の夕食であるハンバーグをつまみながら姉さんがそんなことを聞いてくる。


「んー、変なことは何も言ってないかな? 喋り方とかは少し変な気はするけど」

「それについては同感ね、後日厳しくしつけておくわ」


 そう言うと姉さんは少し口角を上げニヤリと笑みを浮かべる。

 正直いってその顔は恐ろしい、今はいない桐生君が可哀想に思える程に。


「兄様は今日アイリの生徒会の手伝いをしてきたそうですね」


 隣のシャルが味噌汁を左手に持ちながらそう問いかけてくる。


「そうだな、めちゃくちゃ大変だったぞ……」


 思い出すと身震いしそうだ。

 何度やっても無限の泉の如く湧き出す備品やらその他の資料は桐生君がいなかったら今日中に終わらなかっただろう。

 出来ればもう備品の整理はやりたくない。


「そう言えば姉さん、桐生君の名字って天音だよね?」


 俺は桐生君の名字についてふと思った疑問を姉さんにぶつけて見ることにした。


「そうね、でもどうしたのカー君? 桐生の名字がおかしいとか?」

「いや、天音って名字、どこかで聞いたことがある気がするんだよね」

「気のせいじゃ無いかしら? 確かに天音と言う名字は珍しいけど探せばどこからでも出てくると思うわよ?」

「んー、それもそうか……」


 やっぱり勘違いだったかな?

 俺は考えることを放棄して、目の前のハンバーグに意識を集中させる事にした。


「…………天音?」


 ハンバーグに意識を集中させた事によって、シャルがそう呟いた事に気づく事は無かった。


 ちなみにそんな話をしてる間、エリーは大好物のハンバーグをハムハムと獣のように貪っていた。

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