波乱の休日デート(後編)

 なんてことない週末の土曜日、人々の活気で溢れ、心なしか輝いて見えるショッピングモールにて。


「それでは参加者が揃った見たいなので、始めましょう」


 ドン! と四人の前に置かれたのは、見覚えのある四角い箱。

 これ以上は追求しないで欲しい、切実に……


 ちなみに、ルールを説明して置くと、まず三チームに分ける、いや、チームと言うか個人だけど。

 そして壮絶な話し合いの結果、三姉妹を1人ずつに分け、唯一男である俺が今回の着せ替え人形である朱鷺とペアだ。(ちなみに俺の選ぶ服を朱鷺も一緒に見て回るのだが、その際朱鷺は口出ししない) そしてそれからは某コーナーの通りである。すいません、説明はこれだけにさせて下さい、ホントに……


「ちなみに、この対決の優勝者には賞品がありますので皆さん頑張って下さい」


 突如シャルがそんな事を言い出した。

 賞品っていよいよ本格的だけど、一体何を用意したんだ?


「ねぇシャル? その賞品って何かしら?」

「あたしも気になる!」


 途中参加の癖に出しゃばりやがって……、いやまぁ俺も賞品の内容に付いては気になるけどさ。


「それは…………」


 長い沈黙が続く、……これ必要?


「兄様を一日自由に出来る券です!」

「ほ、ほんとなの!?」

「嘘だったら許さないからね!」

「いやそれって、俺が優勝したらどうなる訳?」

「「カー君」篝は黙ってて!!」


 酷い扱いだな、俺って賞品何ですよね? この扱い賞品としてはかなりアレだぞ。


「……それじゃぁ、その場合は僕が一日篝を自由にできる券を貰うよ」


 唐突に朱鷺がそんなことを言い出した。

 いや、って事は俺は朱鷺に、俺を一日自由にさせて上げるために戦うって事か?


「仕方ないですね、それでいいですよ」

「いいんかい!」


 勿論俺の突っ込みは無視された。


「それでは始めましょう、……現時刻は一時なので、二十分頃にまたここで集合です」

「分かったわ、待っててカー君私が優勝した暁にはカー君を一日中ご奉仕してあげるわ」

「はん! 馬鹿なことをいわないでくれるアイリ? 勝つのは私に決まってるんだから!」


 例の如く喧嘩し始めた二人を置いといて、俺は代表として、四角い箱からカラーボールを三つ取り出す。

 そして取り出されたカラーボールの色は、黒、赤、白、という服の色にはありがちな色だった。


「それでは始めましょうか、それでは制限時間二十分の、1R目開始!」


 あれ? 所で服買うお金って自腹なわけ?



 ×××××××××××



 突然の三色〇ょっぴ〇ぐが幕を開け、俺と朱鷺のペアは、とりあえず適当にそこら辺の店に入ることにした。

 店に入ると、可愛らしくも大人らしい服が沢山置いてあり、要するに大人可愛い系の店であると気づく。

 普段の俺であれば絶対に入らないであろう、と言うか普通に考えて男はこういう店に入るわけが無い!


「んー、どれにするべきか……」


 顎に手を当て悩み始める俺。

 ぶっちゃけると俺はそんなにオシャレと言うものに興味がある訳ではない、現に今日の服装だってタンスの中から適当に引っ張り出した安物の服だ、よって俺は女物の服を見る目がない。

 さて、どうしたものか……


「……篝? 別にそんなに悩まなくてもいいんじゃないかな?」


 すると後ろから俺の服の袖をチョンチョンと引っ張りつつ朱鷺が話しかけてきた。

 朱鷺は大変退屈そうにしており、こんな奴のために服を選んでいるのかと思うとため息が出る。


「……いやでもな、俺は最近の流行とかそんなに知らないし、かと言って朱鷺に変なの着せる訳にもいかないからさ」


 いやまあ俺も一応男だし、マザコンではあるけどそりゃ朱鷺の可愛い姿ってのを見てみたい訳ですよ。

 しかし、そんな事を言っても最終的に服を買うのは俺の自腹である、つまり何を言いたいかと言うと、俺にメリットが無い。


「……流行は確かに大事だと僕も思う、だけど、それ以前に本人に似合うかが一番重要だと思うよ?」


 言われてみれば確かにそうだ、最近の若者 (俺もこの最近の若者なのだが) は、やけに背伸びをして大人系の服を着たりする。

 しかし、それが本人に似合うのなら文句は無いのだが、見るからに「私、背伸びしました!」感が見え見えなので、言わば服に着られている、というタイプが本当に多い。

 それで恥ずかしげもなく都会の街を歩く女子高生達を想像すると身震いがする。


「じゃあどうすればいいんだ?」

「……簡単だよ、僕に一番似合うもの、それは……ジャージだよ」

「よし、とりあえず身近な人の格好を手本にしよう」

「……むぅ、無視しなくてもいいじゃないか」


 頬を膨らませ、拗ねる朱鷺は何だか見ていて微笑ましかった。

 しかし、身近な人を手本にする、というのは案外いい考えかも知れない、よし、俺の身近でオシャレな女の人、うん。


 ……ママしかいない!


「……何か閃いたの?」

「あぁ! 待ってろ朱鷺! お前を俺好みのま……ごほん、女の子にしてやる!」


 危ない危ない、危うくママと言う所だった。


「……うん、期待しているよ」


 そう言って微笑んだ朱鷺を少しだけ可愛いと思ったが、着ている服が服なので、その思いはあまり長く持続しなかった。


 そこからは一応公平さを守るために、朱鷺には店外で待って貰い、俺一人だけで女物の服を選ぶことになった。

 ちなみに、黒、赤、白の中で、一応狙っているのは白だ。

 問題は白の何を選ぶかなのだが……


「とは言っても俺はオシャレ初心者な訳だしな……」


 そんな感じで途方に暮れていると、後ろから少し化粧濃いめの店員さんが話しかけてきたではないか。


「いらっしゃいませ! もしかして……彼女さんへのプレゼントですか?」


 その店員さんは女の人で、やけにオーバーリアクションで身振り手振りつけながら話しかけてくる。

 正直言って、大変だなぁーと思った。


「あ、いえ、実は……」


 違うんです!といいかけたところで一瞬迷う。

 想像してほしい、もし俺がこのまま店員さんに某番組の某コーナーみたいなことやってるんですよ! なんて言ってしまったら、確実にこの店員さんに、「は? 痛すぎるんですけどコイツー(笑)」とか思われてしまうに違いない、間違いない!

 そう言えば、小さい頃にママに言われたことがある。

 知らない人が話しかけてきたら適当に流して置けばいい、と。

 ありがとうママ、今がその時だよね!


「……あいえ、まぁそんなところです」

「あ、そ、そうなんですね、ではごゆっくりとー……チッ」


 何だか今舌打ちをされた気がするのだが気のせいだろうか?


 そんなこんなで俺が必死こいて結局選んだのは、俺が中一の頃の参観日にママが着ていたスカート丈が短い白のワンピースだ。

 案外朱鷺も大人っぽいし似合うよね?



 ××××××××××



 そうして会計を済ませ、集合場所に着くと、そこには既に三人が待っていた。


「あれ? まだ二十分まで五分くらいあるよね?」


 スマホで時間を確認するとまだ十五分で、まだ制限時間までは五分余裕がある。

 すると何故か三人とも同じ店の袋を持ちながら呆れた様子で愚痴り始める。


「逆に、兄様は朱鷺さんの服を選ぶのにどれだけ時間を掛けていたのですか?」

「確かに、カー君にしてはまだまだね」

「朱鷺さんに似合う服と言ったら決まってるじゃない!」


 なんだ? やけに自信満々の三姉妹だけど。


「あーはいはい、それじゃ順番は……」


 俺がそう言うとシャルは無言で、上に四人の名前と下に一から四までの数字が書かれ、真ん中はフリップにより隠されたボードを取り出した。


「そこまで本格的にやるのかよ!」

「当然です! やるからには全て本気ですから」


 ドヤ、とシャルがドヤ顔をしてこちらをみるが、ぶっちゃけそこまでパク……本気でやられると困る人もいると言うか……


「カー君細かい事は良いですから、さぁシャル始めましょう」

「全然細かくないよ! 重大なことだから!」

「はいはい、篝はそんなどうでもいい事気にしなくてもいいの」


 結局最後まで俺の抵抗は空回りして、無常にもボードの真ん中のフリップが剥がされた。


 結果的にあみだくじの順番は、一番アイリ、二番シャル、三番俺、四番エリー、という結果になった。そして肝心の色選択だが……


「私の選んだ服は赤よ!」

「私は黒ですね……」


 おっと、これは見事に色が割れたな。エリーが手を合わせながら何かに祈っているが、悪いなエリー、1R目はお前の負けだ。


「俺の選んだ服は白だ」

「んぎゃー!!」


 エリーが地面に崩れ落ちる。

 大丈夫だって、まだ1R目だから。

 某番組でも1R目落としてもその後……ごほん、やめとこ。


「やっぱりカー君を貰うのは私のようね」

「いいえ、兄様を頂くのは私です」

「いや、あげねーよ?」


 何を言っているのか二人共。

 と言うかさっきから朱鷺が見当たらないような……


「てかさっきから朱鷺いなく無いか?」


 俺がそう言うと三姉妹 (崩れていたエリーも含める) は辺りを見回す。

 しかし、朱鷺はどこにも見当たらない。


「見当たりませんね、朱鷺さん」

「これって結構やばくないか?」


 ショッピングモールで迷子になるって大変だぞ、主に探す方が。


「と、とりあえず手分けして探すぞ!」

「その必要はないですね」

「な、馬鹿なこというな! 今は三色〇ょっぴ〇〇よりも迷子の朱鷺だろ!」


 俺は少し怒鳴りつつシャルにそう言うと、シャルは目の前の家電量販店を指さす。

 ん? あの家電屋がどうか……あ、いた。


「どうやら家電屋さんにいるようですね、兄様が行ってきてください。パートナーですから」

「ん、了解した」


 俺はシャルに言われた通り、向かい側の家電屋に朱鷺を迎えにいくために小走りで向かう、遠目で見てみると朱鷺は何やら店員さんと話していることが分かる、のだが。


「なんで、朱鷺あんなに嫌そうにしてるんだ?」


 ただ店員さんに話しかけられているだけだと言うのに、何故か朱鷺はナンパを断るかのような対応をしている。

 俺は少し気になって近くの洗濯機の影にかくれて、二人の会話を聞くことにした。


「で、ですからお客様。こちらのパソコンはですね……」

「……や、やめろ! いくら僕が可愛いからって家電屋でナンパするんじゃない!」

「いや、あの……」

「……か、体だけは自由に出来ても心だけは屈しないぞ!」

「そ、そんな事は……」


 ん? 会話が噛み合ってないぞ? てかそろそろ店員さんが可哀想だから朱鷺を回収しに行くか。

 俺は洗濯機の影から飛び出し、朱鷺を回収しに行く。

 すると、件の二人は近づく俺を見るなり表情をぱぁっと明るくさせた。


「……篝! 待っていたぞ! 今このオヤジに……むぐぅ!」

「すいません、うちのボクっ娘が迷惑掛けまして」

「いえいえ! 助けて頂きありがとうございます!」


 何かすげぇ店員さんに感謝されてんだけど。

 朱鷺どんだけ迷惑掛けたんだ?


 それから俺は店員さんに一礼してからその場を離れる。


「……すまない、僕としたことがナンパされるなんて」

「いやあれナンパじゃねーから。店員さんすげぇ困ってたじゃん」

「……ありがとう篝、助けてくれて」

「人の話を聞け……」


 それから二人で三姉妹の所に戻る際、朱鷺はチラチラとこちらを見てくる気がしたが、そんなことは別に気にならなかった。

 そして三姉妹の元に戻ると、何故かシャルを除く二人はボロボロになっていた。


「ど、どうしたんだ?」

「兄様、いつもの事です」

「んま確かに……」


 姉さんとエリーが喧嘩するのはいつもの事だけど、流石に人前では自重して欲しい。


「んで、続きはやるのか?」

「流石に無理でしょうね、朱鷺さんも疲れてるようですし」


 俺は朱鷺の方を見てみると、確かに朱鷺は疲れ顔を滲ませている。

 ……これは無理だな。


「止めるか」

「それが良いですね」

「勝敗はどうするんだ?」


 止めるのは構わないが、賞品とかもあるし、……それに俺とシャルだけの賭けもある。


「そうですね。賞品はなしにして今回の賭けは兄様の勝ちで良いです」

「い、いいのか?」

「大丈夫ですよ、……今回はね」


 今回は、か。そう言えば買った服どうすればいいんだ?



 ×××××××××



 その後俺は三姉妹と別れ、朱鷺と二人でショッピングモールの休憩コーナーにいる。


「……疲れた」

「朱鷺お疲れさん、今日はうちの姉妹がすまないな」

「……別に僕は気にしてないよ、それに、なかなか楽しかったしね」


 楽しかった、か。

 まぁ確かに楽しかったのは俺もだけど、それ以上に疲れたと言うのが本音である。


「……そう言えば篝」

「ん? どうした?」

「……連絡先を交換しないか?」


 連絡先? あの、引きこもりの朱鷺が?


「別にいいけど、俺なんかの連絡先でいいのか?」

「……ふ、篝だからだよ」


 そう言って朱鷺は微笑んだ。その瞬間俺の心拍数は少し上がった、気がした。


「そ、そうか。んじゃ連絡先交換しようか」


 こうして俺と朱鷺は連絡先を交換、と言うかラインを交換した。

 ふとラインの友達を見てみると、俺のラインには朱鷺を入れて、友達が四人しかいなかった。

 ちなみに他三人は言うまでも無く三姉妹だ。


「……それじゃあ僕はいくよ、夏目が待ってるからね」

「そうか、それじゃ月曜日にな」

「……うん、今日は楽しかったよ」


 そう言うと朱鷺は立ち上がり手を振ってから俺に背を向けトボトボと歩き始める。

 あ、そう言えば……


「そうだ朱鷺、今日買った服だけど、別に俺は着ないから朱鷺にやるよ」


 歩いている朱鷺の所まで駆け寄り俺は服屋で買った白のワンピースが入った紙袋を朱鷺に手渡す。

 最初は渋っていた朱鷺だったが、しっかりと受け取ってくれた。


「……む、一応貰っておく」

「別に要らないなら捨てても良いし」


 本音を言うと、割と高かったので捨てては欲しくないんだけど。


「……捨てないさ、篝から貰ったものだしね」


 朱鷺は俺から受け取った紙袋を掲げて嬉しそうに笑った。

 そして何故かまた俺の心拍数が上がる。

 そのまま紙袋を大事そうに胸の前で持ちながら歩いていく朱鷺を見て、俺は数秒立ち尽くしたままだった。


 その後何とか正気に戻った俺は、待たせているだろう三姉妹の元に向かうため、ショッピングモールをダッシュした。

 ちなみにその行為を警備員に止められて恥をかいた。


 余談だが、風呂上がりの脱衣場には何故かチャイナ服とミニスカポリスの服とナース服が置いてあったのだが、深く考えると怖いので、あまり考えないようにした。

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