波乱の休日デート(前編)

 とある日の週末。

 現在俺は自宅からほど近いここら辺では割とデカめのショッピングモールに来ている。

 理由は、先日俺が朱鷺にお願いした事の見返りに朱鷺が今週の土曜日にデートしようと言ってきたからだ。

 待ち合わせは現地集合で、時間は午前十時……のはずなのだが、現在の時刻は待ち合わせから二時間遅れの十二時だ。

 なので、俺は春のポカポカとした陽気を感じながら一人ショッピングモールの入口で立ち尽くしていた。


「おいおい、朱鷺の奴思いっきり遅刻してんじゃねーかよ」


 そろそろ昼時だし、腹も空いてきている。流石に朱鷺を置いて昼飯を食べる訳にも行かないので、しょうがなく待っているのだが、一向に朱鷺が来る気配は無く、ショッピングモールから出てくる家族連れや、カップルなどの人々の楽しげな声だけが聞こえる。


「はぁ、帰ろうかな……」


 そんな風に愚痴を零していると、突如俺の目の前に黒塗りの高級そうな車が止まる。

 そして運転席から降りてきたのは黒服姿の女の人でその人は即座にドアの反対側に回り込み後ろのドアを開ける。

 そうして堂々と出てきたのは……


「……すまない篝、色々あって遅れてしまった」


 まさかとは思っていたが、驚くことに中から出てきたのは朱鷺 望その人だった。

 格好は……え、ジャージ?


「あ、えと、……色々と言いたいことはあるけど、よお、朱鷺」

「……うん、……夏目、もう行って良いよ」


 朱鷺がそう言うと夏目と呼ばれた黒服の女の人は俺と朱鷺に一礼してから車に乗り込み、どこかへ行ってしまった。

 心無しか夏目さんとやらに睨まれた気がするのだが、気のせいだろうか?


「……どうした? 何故そんなにジロジロと見る」

「いや、朱鷺お前……いくら何でもデートにジャージってのは」


 俺は顔を引き攣らせながら朱鷺の格好を見つめる、ジャージは無地の黒色で、本当に今どきこんな格好で外に出る人なんて見たことがない。


「……む、しかしジャージはいいものだよ? 僕は結構この服を気に入っているんだ、着やすいし、動きやすい、そして肌触りもいい、何よりそのまま寝巻きに出来るしね!」


 朱鷺が珍しく饒舌でジャージの利点を言っていく。

 と言うかジャージばかりに気を取られていて気づかなかったが、今日の朱鷺は何やら違う、いい意味で。


「……もう朱鷺の格好についてどうこういうのはやめる、んで、なんで約束の時間から二時間も遅れたんだ?」


 俺がそう言うと、朱鷺はバツが悪そうな顔で俯く。


「……その、だな。今日僕が篝とデートするって夏目に言ったら夏目が僕に変な服ばかり着せるんだ、だからそれを全力で拒否していたらこんな時間になってしまった」

「ちなみにその夏目さんは朱鷺にどんなに服を着せたわけ?」


 すると朱鷺は恥ずかしそうに足をモジモジさせながら呟く。


「……す、スカート、とか……腕を丸出しのやつ、とか……」

「夏目さん、大変そうだな……」


 それで夏目さんの持ってくる服を全力で拒否し続けた結果がこの黒の無地ジャージか。

 せめてもう少しオシャレなジャージとかあっただろうに、何故に無地の黒なんだ……。


「……しかしだな、夏目がどうしてもと言うので、化粧はしてきたぞ、……いやしかし、顔に粉を塗りたくるやつの気がしれないな」


 確かに朱鷺の顔は普段の残念な顔つきとは違い、しっかりと化粧され、目の下のクマも消えている、しかも髪は真っ直ぐに手入れされ、黒無地のジャージという格好を除けば、完璧だった。


「……変、じゃないか?」

「いや? てか普通にそっちの方がいいと思う、格好以外は……」

「……そう、か、なら良しとしよう」


 いやお前何様だよ、夏目さんに感謝しなさい。

 ん、そういえば……


「てか、朱鷺って、金持ちだったのか?」


 ふと思った疑問を朱鷺に投げつける。


「……その話は中で話そう、今僕は究極にお腹が空いている」


 それについては俺も同感だったので、俺たちは中へと入り適当な店に行くことにした。

 その際に、ふと視線を感じた気がしたが、まさかな、と思い気にしない事にした。



 ××××××××××



 館内を適当にぶらつきながら俺達が入ったのは、良くあるファミレスで、注文内容はミートスパゲティ、そして俺はチーズinハンバーグを店員さんに頼み、俺は席に座って先程の話を聞くことにした。


「んで、朱鷺がお金持ちって話だけど……」

「……気になるのか?」

「いや、別にそれ程でも無いけど……」

「……なら今は話さないことにする」


 もしかして触れては行けない話題に触れてしまったのか? そう思ったが、朱鷺の顔を見ても別に変わった様子は見受けられなかったので、別にそう言うわけでは無いらしい。


「……今度は僕から相談があるのだが」

「どんな相談?」


 なんの相談だろう? 朱鷺の事だから友達との交友関係とか、コンピュータ関連とか?


「……ついこないだ脅迫されたんだが、どうすればいいと思う?」


 ……おっと、予想を大きく外れた。

 いや、脅迫!?


「な、何を言われたんだ?」

「……うん、要件を聞かないのであればコンピュータ室の使用を禁止させる、と言われた」

「それは別にいいんじゃないかな」

「……そうか、なら篝のこの間の頼みは聞けない事になる」

「なんでそうなるの!」


 朱鷺のされた脅迫と俺の頼みに何の関係があるって言うんだ!


「……篝は僕に、校内の米田 篝はシスコンである、と言う噂を消して欲しいと言ったよね?」

「あぁ、そうだけど?」


 実を言うと、朱鷺 望は俺の通う学校の裏掲示板の管理人である。

 だから、何気に注目度もある掲示板管理人である朱鷺に頼んで、裏掲示板に俺がシスコンではないと書いてもらえば、噂の撤回も出来ると思ったのだ。

 うん、我ながら完璧な作戦だ。


「……実は僕に脅迫をしてきたのは、君の妹で有る米田 シャルなんだ、そして要求は、……僕の掲示板に米田 篝はシスコンであると書き込む、という要求なんだ」

「シャルのやつなんて事を!」


 まさかそこまでシャルがするなんて! 何でそこまでして俺にシスコン属性を付けたがるんだ!


「……一応僕は拒否したんだよ? でもそしたらさっきの脅迫だよ、何でも、私の姉に頼めばあなたにコンピュータ室の使用禁止を言い渡す事なんて楽勝です、なんて言われてね」

「外道過ぎるだろ……」


 姉の権限をフルに使うなんて、何たる外道ぶり、米田 シャル。


「……だからさ、どうすればいい?」

「シャルのヤツには俺から言っておく、だから朱鷺は気にせず掲示板に書き込んでくれ」


「そうはさせませんよ! 兄様」


 むむ、何奴! いや、何でお前がここに……


 俺は声のした方を振り返る、そしてそこには見覚えのある銀色の髪と青色の瞳を持つ次女がいた。


「私は兄様にシスコン属性を付属させるためなら手段を選びません! よって! 兄様、私と勝負です!」


 そんな恥ずかしいセリフを吐きながら鼻息荒くさせているところ失礼なんですが、一応ここ、公共施設だからね?


「……?」

「いや、勝負ってお前……」


 突然のシャル乱入により、急遽ショッピングモールにて、俺とシャルによる対決が決定した。

 と言うか俺は一言も許可してない。


 ちなみに、注文したミートスパゲティとチーズinハンバーグはしっかりと食べました。



 ×××××××××



 決戦の場は、オシャレそうな女物の服屋の前、って、ここで何をするつもりなんだ……


「ルールは簡単です、より、朱鷺さんを可愛く着せ替えた方の勝利です!」

「いやいや! そんなのシャルが勝つに決まってるだろ!」


 朱鷺を可愛く着せ替えるのはファッションに疎い俺よかシャルの方が得意に決まっている。


「いいえ、この対決には特別ルールがあります、それは……」


 するとシャルはおもむろにどこから取り出したのか、上に手が入るほどの穴が空いた、四角形の箱を取り出したの、ん? 何か嫌な予感が……


「朱鷺さんを着せ替えするに当たって、その服の色は、ここから取り出されたカラーボールの色のみにします! ちなみに3Rあります!」

「バカ野郎! なんて事言いやがる!」

「……それって平日の昼に入るひる〇ん〇すの人気コーナーじゃ……」

「朱鷺それ以上言うな!」


「「その勝負、ちょっと待ったァァ!」」


 ん? 何か聞き覚えのある声が聞こえたような……


「あら、二人共何でここに?」

「酷いじゃないシャル! 私を差し置いてカー君と休日に遊ぶなんて!」

「抜けがけはずるいわよ、あたしだって休日に篝と遊びたい!」


 はぁ、どうしてこんな事になったんだ、普通に今日は朱鷺とのデートのはずだったのに……


「……何だか面白くなってきたね」

「何で朱鷺はそんなにノリノリなんだ!」


 こうして何故かショッピングモールにて、某番組の某コーナーの再現的な事をやる事になったんだが、大丈夫かな、色々と……。

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