シスコンがパない

 いきなりの米田 シャルの帰還。

 それがどうにも俺は気になって仕方が無かった。別にシャルが帰ってきたからと言って、俺に何か被害がある訳では無いが……多分。


 そんなことを思いながら眠い目を擦りベットから起き上がる。

 起き上がり大きな欠伸をした後部屋の隅に置いてある鏡が目に入る。


「……やっぱり似てない、よな」


 正直な所、俺は幼い頃の記憶というものはさっぱり無い。だから俺が幼い頃母親にべったりだったとはいっても、らしい。としか言いようがない。

 何せ、その当時の俺の様子を教えてくれたのは母親であるのだから。


 俺の母親は美人だ、三姉妹を見ても分かるが、整った顔と、キメ細やかな銀色の髪、そして吸い込まれる様な青い瞳、これらの容姿は全て母親似だろう、しかし、そう言う俺の容姿は、三姉妹の銀色の髪とは全く違う、黒色、瞳は夜空を思わす漆黒である。ならば父親似なのでは? そう思った時もあったが、俺の父の容姿は髪は金色、瞳はブルーと、俺とは全く似ても似つかない。


「……まさかな」


 俺はふと脳裏に浮かんだ有り得ない考えを吹き飛ばし頬を叩いて眠気を覚ます。

 実際DNA検査もしており、俺は正真正銘本当の米田家の子供なのだ。


 そんなことを考えているうちに、家を出る時間が刻一刻と迫ってきている。俺は手早く制服に着替え、今日もリビングで待っているだろうブラコンの三姉妹の元へと行くのであった。



 ×××××××××



「カー君! 今日はいい天気ね!」


 朝の通学路にそんな姉の声が聞こえる。確かに空を見上げてみると、雲一つない満天の青空だ。

しかし、まだまだ四季で言うと春なので、肌寒いというのはあるけど。


「確かにそうだね」

「こんな日には学校をサボってデートしたくなるわね?」

「一応生徒会長の姉さんがそれを言うか……」


 学校ではクールで美人なデキル生徒会長様なのだが、普段の姉さんはどこか抜けている。ちなみに例外なく姉さんは俺の左腕に自分の腕を巻き付けている。

 何がとは言わないが腕に当たっているのでやめて欲しい。


「だったらアンタはそこら辺のキモデブとでもデートしてきなさい! あたしは篝とデートして来るからさ!」


 グイ! と、俺の右腕を引っ張るエリー、相変わらず姉さんとの仲は悪く、毎日のように喧嘩をしている。


「あら、貧乳が何か言ってるわね?」

「だ、か、ら! 私は貧乳じゃない!」


 毎度恒例の胸の大きさで喧嘩をする二人、でも今日はシャルもいる訳で……


「アイリ、今のは私に向かって言ったんですか?」


 俺の後ろを歩くシャルが姉さんを睨みながらそう言う。


「ち、違うのよシャル! これは、そのぉー私と比べてエリーは小さいって意味で……」

「その言い方だとエリーより胸が小さい私はど貧乳という事になりますけど?」

「いやど貧乳て」


 確かに比べて見ると、シャルの胸は姉さんとエリーに比べるとかなり小さい、それこそ貧乳という程に。


「ごめんなさいシャル!」

「いいえ、別にアイリは悪くありませんから」

「何でアンタは、妹のシャルには弱いのよ……」


 確かに姉さんは、昔からシャルに弱い、何か弱みでも握られているのだろうか?


「べ、別に普通じゃない!」

「あきらかに同様してるわね、アンタ」

「もうそろそろ学校着くから喧嘩はやめてくれ……」


 俺の言葉の通り、目の前には学校が見える。流石に学校内でベタベタすると恐ろしい誤解を受けそうなので、やめて欲しい。

 てかもう手遅れな気がするけど……


「うるさいわね! この普通胸女!」

「普通の何が悪いのよ! 大きすぎるより掌にフィットする微乳の方がいいに決まってるじゃない!」


 俺の言う言葉は、両サイドにいる二人には届かず、朝の恒例である口喧嘩がまたも繰り広げられている。俺は苦笑いしながらもふと後ろを振り替えると、シャルがその様子を何処か寂しげに見つめていた。


「シャル?」

「……あ、いえ、何でもありません、さぁ行きましょう兄様」


 いつの間にかシャルの寂しげな表情は消えており、俺は気のせいかと飲み込んだあと、喧嘩する二人の姉妹を引っ張りながら校門をくぐるのであった。


 ……そして事件は起きた、例のように三階につき二人と別れた後、唯一俺と同じ学年で同じクラスであるシャルとともに教室へと向かっていた。

そして教室に入った途端、クラスの女子の一人が俺に駆け寄り、俺にこう言ったのだ。


「ところでさ、米田君って、シスコンだよね!」


 米田君って、シスコンだよね!

 米田君って、シスコンだよね!

 米田君って、シスコンだよね!

 米田君って、シスコンだよね!

 その恐ろしい一言が俺の頭の中で木霊する。はて、彼女は今なんと?


「な、なにを、言ってるのかな?」


 俺は動揺を隠せずに顔をピクピクさせて女子にそう問う。


「いやだってさ? 米田君って毎日お姉さんと妹さんと仲良く登校してるから、そうなのかなって、もしかして違った?」

「ちが……」


 う、と言い切る前に突如シャルが俺の前に飛び出す、何を……


「そうです、兄様は大のシスコン何ですよ、全く、兄様には困ったものです」


 そしてシャルはニッコリと笑いながら、女子の言った恐ろしい言葉を肯定した。


「お、お前何を!」

「そ、そうなんだ、米田君って、しす、こん、なん、だ、あはははは……」


 何故か自分から言った女子が動揺している事にさえ気づかないほどに俺は動揺していた。

 そしてシャルはやけにドヤ顔で続けて


「そうです、米田 篝はシスコンなんです、これ大事な事ですから覚えて置いて下さい」


 俺の恐れていた事が実現した!! お、俺は……マザコンなのに……。


 シャルが言い終えると、目の前の女子は動揺を隠せずに足をガクガクさせ始めた。


「よ、米田君、わ、私、…………シスコンでもきにしないからぁぁ!!」

「誤解を解かせてくれぇぇ!」


 俺が誤解を解く前に、女子は教室から飛び出し、どこかへ行ってしまった。

 そして残されたのは顔面蒼白の俺と、ヤケにドヤ顔のシャル、そして口をポカンと開けているクラスメイトだった。


 その後校舎内には、イケメンの米田 篝は、姉と妹が大好きすぎるシスコンである、という、何とも不愉快な噂が流れたのは言うまでもない。

 ……何とかしなければ。



 ××××××××××



「それで、どうしてくれんだよ!」


 俺は昼休みに姉がいる生徒会長室にシャルも連れていき、少し強めにシャルに問い詰める。


「はて? 別に兄様がシスコンであったとしても私達は気にしませんよ?」

「そうよ、むしろ大歓迎よカー君」

「あ、あたしも大歓迎だから!」

「お前らが歓迎しても俺は歓迎しないの! すぐさまお引き取り願いたい!」


 俺がそう言うと、シャルはヤレヤレと言った様子でため息をつく。


「ため息を付きたいのこっちだよ……」


 俺がそう愚痴を零すとシャルは至って不思議でならない、と言った顔で俺を見つめる。


「何で兄様はシスコンが嫌なんですか?」

「も、勿論恥ずかしいからにきまってる!」

「では、自らがマザコンであるということは恥ずかしく無いんですか?」

「うぐ……」


 そう言われると何も言い返せなくなる、確かに俺はマザコンであり、母親が大好きだ。だけど、それを公表するということになると話は別だ、何故なら、現役高校生にとって、この年になってまだマザコンである、という事実は恥しいランキング、殿堂入りするほどの恥辱なのだから。


 俺が何も言い返せなくなったのをいい事に、シャルは自分の言い分を続ける。


「自らがマザコンであるという事がバレるより、自らがシスコンだと言う事実方がまだ良くないですか?」

「確かにシャルの言うことも一理あるわ」

「事実では無いからな!」


 俺の否定の言葉を無視して、うんうんと腕を組みながら同意する姉。


「あたしにとって、篝がシスコンであるってことの方があたしにはプラスだしね」

「だから俺はシスコンじゃ無い!」


 俺の否定を無視して、姉と全く同じ動作をする妹、やっぱり二人って仲いいよね……。


「いや、別にシスコンなのは噂であって、俺が実際シスコンという事では無いけどな……」


泣く泣く最後の抵抗と言わんばかりにポツリと否定の言葉を吐き出す。

 それでも言われてみれば、確かに米田 篝はマザコンである、という噂が流れるよりも、米田 篝はシスコンである、という噂の方が、幾分かマシなのは事実ではあるが……


 するとシャルは、パン! と両手を合わせ話をまとめる。


「という事で、今日から兄様はシスコンです、おめでとうございます」

「おめでとうじゃねーよ! あくまでまだ噂の段階だから、その噂を取り払う事も出来るはずだ!」


 絶対にその噂、取り払ってみせる!


「出来ればいいですけどね……」


 そう言ったシャルの顔は悪巧みを考えるジャイ〇ンとスネ〇バリに嫌な顔だった。


 その後、午後の授業を消化し放課後が訪れる。いつもなら、すぐに自宅に帰るところだが、俺は三姉妹と帰ることを今日は辞退して、ある場所へと向かっていた。そして辿りついたのはある場所の扉の前、

 そこは『コンピュータ室』だ。


「……ゴクリ」


 俺は扉の前で生唾を飲み込む、何故俺がここに来たのか、その理由は一つだ。俺は意を決して扉を開ける。


 ガラリ、と、引き戸ならではの音が鳴り、その音と共に俺は中に入る。

 そこは、コンピュータ室という名前の通り、ディスプレイ型のパソコンがずらりと並べられており、そして一番端の一席に、ある一人の女子が座っている。


「……ん、篝か、珍しいな、僕になんのようだい?」


 自らを僕と呼ぶ、この女子の名前は、朱鷺あかさぎ望、容姿は、ボサボサの赤色の髪と、目の下のクマ、やや不健康そうな顔色と言い、整った顔つきには不似合いな容姿である。


「悪い、ちょっと朱鷺に頼みがあって」

「……仕方ない、篝の頼みなら聞いてあげるよ」

「たすかる、それで頼みってのが……」


 俺が頼みをいう前に朱鷺が割り込む。


「……だけど、一つ変わりに僕からの頼みも聞いてもらう」

「……どんな頼み?」


 俺は恐る恐る朱鷺に問いかける。

 あの朱鷺の頼みとなれば大分キツイ事を要求される気がする。


「……それは、今週の土曜日に僕と一緒にデートすること」

「で、デデデ、デート!? 俺が、朱鷺と?」

「……そう、それが頼みだよ」

「まじか、あまり外出するタイプではない朱鷺が、デートね」

「……む、僕でもたまに外出はするぞ? ……二ヶ月に一回くらい」


 本当にたまにだな……。


「……それで、どうする篝?」

「わ、分かった、今週の土曜日だな?」

「……よし、それでいい、で、僕は何をすれば良いのかな?」


 俺は朱鷺にして欲しい事をあらかた頼み込み、それからコンピュータ室を後にした。



「……篝はいったぞ? それで、要件は何かな転入生」

「ええ、実はですね……」


 教室の何処かにシャルが隠れていた事など知らずに……









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