リビングにて

 三姉妹の真ん中に当たる米田 シャルは、唯一最初から俺の事を好きで好きでたまらないという、割とヤバめのブラコンだった。


 どのくらいヤバイかと言うと、家の中で俺が母親に甘えている際に側にはいつもシャルがいて家の中にいる時視界にシャルがいないことはほとんど無かったほどだ。


 そんなシャルは俺が中学二年の前半、母親の出張が急遽決まった際に、シャル自身が両親について行くといい、出張に行く両親と一緒にシャルも付いて行くことになった。


 出張の期限は無期限でいつ帰ってくるかもわからない、もしかしたら次に会うのは何十年後かも知れない、そんな考えがふと頭によぎった気がしなくもないが、所詮俺はシスコンではなくマザコン、シャルがどこかへ行ってしまうより、母親と離れてしまうことの方が重大だった。


 そして、その両親と共に出張について行ったはずのシャルが、現在俺の学校の、俺のクラスの教室で、今俺の目の前にいる。


「お久しぶりです、兄様」


久しぶりに見たシャルはやけに大人びていて、それでいてママに似ていた。



 ×××××××××



 それから早くも時間が過ぎて放課後、今日は姉のアイリは生徒会の仕事があると言って一緒に帰れないらしく、今日の帰り道はエリーとシャルの組み合わせだ。


「それにしても、シャルがいきなり帰ってくるってどういう事なの?」


 久しぶりにあったというのに特に驚いた様子もなくエリーがそう告げる。


「私の兄様を思う愛のパワーのお陰で帰れる事になったのです」


 いやいや、もし愛のパワーで帰れるのなら、俺のママへの愛のパワーがあれば出張先までひとっ飛びだっての、何て学校で言った時には俺の立場が死ぬだろう。


「それにしても兄様は全く変わりませんね」


 シャルがいきなりそんなことをいってくる。

 それに対して俺は当然の如く答える。


「勿論だ、俺のママへの愛は変わらん」


 そんな事は地球が滅亡し、人類が滅びでもしない限り有り得ないと断言する。

ちなみにこれはフラグでも何でもない。


「兄様はあくまでもマザコンである事を止めない、という事ですか?」


 何を言うかと思ったら、マザコンをやめる? ふ、冗談にしては酷すぎだぜ……


「シャルってば何を考えてるの?」

「エリーは黙ってて下さい、私に任せればこんなマザコン兄様何てイチコロですよ」


 ふふ、と不敵に笑うシャルの顔は、あきらかにやばい事を考えていそうな顔だった。


 それから何も起こらず無事に家へと帰り、玄関に入って靴を脱ぐ時に、シャルは数年ぶりの家を感慨深く見回していた。


 無理もないか、何せこっちの家は数年ぶりだし、懐かしく思うのも……


「……ここが私と兄様の愛の巣」


 ……懐かしく思うのも無理ないか。



 ×××××××××



 それから各自部屋に戻り、制服から部屋着に着替えた俺は、最近では日課になりつつある、母親と一緒に写っている写真を収めたアルバムをベットの上で眺めていた。

 そしてボソリと呟く。


「……ママ、いつになったら会えるのかな?」

「失礼します兄様!」

「うわぁ!」


 突如現れた乱入者に変な声を上げてしまう、しかし当の本人は一切悪びれもせずにケロッとしていた。


「せめてノックしてくれよ!」

「すいません、ですが一刻も早く兄様としたい事があるのです!」


 俺とやりたい事? 何か嫌な予感しかしないんだけど……


「人生ゲームをしましょう!!」


 何だそんなことか、仕方ない、それぐらいならやってあげてもいいか……



「だぁー! また妹が夜這いを仕掛けて来たぞ! どうなってんだこの人生ゲーム!」


 俺は今リビングにて、シャルが持ってきた人生ゲーム? をやっている。

しかし、ただの人生ゲームだと思った俺が馬鹿だった。

 パッケージには、「妹と回る! 人生ゲーム!」と、やけにテンション高めで書かれており、大きさはおおよそサラリーマンが持っている鞄ほどのおおきさだ、これを別名『パンドラの箱』という。


「どうしてこうなった……」

「兄様がいけないんですよ? あんなババアより、私の方がいいと言うことを教えてあげます!」


 どうして米田家の姉妹は自分の母親をババアと呼ぶのか不思議でならない。

 ……普通にまだ綺麗なままだと思うんだけどな。


「ちょっと待ちなさいシャル! 篝はシャルより、私の方がいいに決まってるわ!」

「どうでもいいから次の人早く回してくれ……」


 俺がそう言うと、次の順番だったシャルがやけに自信満々にルーレットを回す。

 そしてシャルの綺麗な指によって回されたルーレットはクルクルと回り始め、針が止まった場所に書かれていた数字は六。

 シャルはコマを六マス進め、そのマスに書かれていた内容を読み上げる。


「えーと、妹の誘惑に負け、妹を抱いてしまい妊娠させた。振り出しに戻る」


 色々と突っ込みどころ満載のマスだが、あえて俺は突っ込まない、突っ込んだら負けな気がする。


「……ポ、」

「何故顔を赤くする!」


 振り出しに戻ったシャルは、ガッカリするどころか何故か頬を赤く染めている。


「兄様が私を妊娠させたと想像したら、軽くイキかけたました」

「お願いだからやめてくれ……」


 ホントにシャレにならないから!!


「ちょっと篝! シャルを妊娠させたなら私も妊娠させなさいよ!」

「まず俺はシャルを妊娠させて無いからな……」


 どうしてエリーはことある事に対抗したがるのだろう。

 ちなみに現在の一位はぶっちぎりに先を進んでいるエリーである。

 熾烈なビリ争いを繰り広げている俺とシャルは、ことある事に妹に夜這いを仕掛けられるというのにエリーはそんな仕掛けを軽々と飛び越え、順調に先を進んでいる、いるのにも関わらず……


「ぐぬぬぬぬぬ……」

「何でエリーはそんなに悔しそうなんだ?」

「私だって妹に夜這いされたいわ!」


 おっとこれは問題発言。


「あら、エリーはブラコンじゃなくてシスコンだったんですね」

「そう言う事じゃないのー!」


 その後も順調に夜這いをされ続ける俺とシャル、そしてそれを悔しがりながら黙々とコマを前に進ませる現代のコロンブス事、エリー。

 見事先にゴールを決めたエリーを抜き、俺とシャルは一向に先に進まないという展開になり、グダグダになりかけた時、シャルが恐ろしい事を口にする


「このままではつまらないので、何か罰ゲームをしましょう」

「賛成! ちなみにどんな罰ゲーム?」

「おいおいまて! 俺は罰ゲームに反対だ!」


 このままでは本当に罰ゲームルールが追加されそうだったので、俺は慌てて二人を制止する。


「……何か不満でも?」

「おおありだ! せめてゲームの変更を要求する!」

「何故ですか兄様! この妹人(略称)の何処が気に食わないんですか!」

「逆にシャルはこのゲームの何処が気に入ってるんだよ……」

「ひたすら妹に夜這いされるところです」

「いや、お前ブラコンじゃないの?」


 妹にブラコンじゃないの? とかカンチ男見たいな事を抜かす俺を気にともせずにシャルは妄想を爆発させる。


「私は主人公を兄様に脳内変換しております、よって夜這いを仕掛けるのは私、つまり結果的にこのゲームは、ひたすら兄様が私に夜這いされるというゲームなのです!」

「「クソゲーだ!!」」


 珍しくエリーと意見が一致して、謎の一体感が生まれた直後、玄関から聞きなれた声が聞こえる、そしてリビングの扉が勢いよく開かれる。


「なら王様ゲームをしましょう!!」


 勿論この発言をしたのは生徒会の仕事を終わらせ、颯爽と帰ってきた三姉妹の長女である米田 アイリだ。

 率直に言おう、もっと面倒くさくなりつつある。



 ××××××××××



「ゴクリ……」


 リビングには謎の緊張感が漂い、四人はそれぞれに選んだ割り箸を掴む。


「それじゃ行くぞ、」

「「「…………コクリ」」」


 そうして迎えた審判の時、四本の割り箸を握る俺の掌からそれぞれが割り箸を引き抜く。


「王様だーれだ!」

「私よ!」


 見事最初に王様になったのは姉さんだ、さて、どんな命令が下されるのやら……


「早くして下さいアイリ」

「早くしなさいよ!」

「静粛にしなさい!!」

「姉さんノリノリだな……」


 何か姉さん一人だけテンションが違くないか? 俺の気のせい?

 ちなみに俺の引いた数字は三。


「……む、じゃあ、一番が王様の頭を撫でる!」

「アイリ、私に頭を撫でて欲しかったんですか?」

「なんでなのぉ!!」


 姉さんが下した命令を受ける事になったのは、一番と数字の書かれた割り箸を握るシャルだった。

 しかし、ルールはルールなのでどちらも嫌そうな顔をしながら命令を済ませる。

 その光景はお互いの表情抜きで見るととても仲のいい姉妹に見えなくもなかった。


「久しぶりにあった妹に頭を撫でられる何て……」


 姉さんは、シャルに撫でられた部分に手を乗せ悔しそうに呟く。

 それに対してシャルも何処か悔しそうな表情を浮かべる。


「まさか、乳バカの頭を撫でる事になるなんて……」

「二人共お疲れ様、それじゃあもう止め……」

「「「続ける!!」」」

「こういう時だけ息ピッタリだな!!」


 どうやらこの王様ゲームはまだまだ続くらしい、と思ったのだが……


 突然グゥ〜、と俺の腹の虫が悲鳴をあげる。


「やべ、そう言えば腹減ったの忘れて……」

「大変! カー君がお腹をすかせているわ! 早く夕食にしましょう!!」

「そんなおおげさな……」

「しっかりして篝! 早く夕食にするわよ!」

「だからおおげさ……」

「兄様! 死んじゃダメです! 兄様が死んだら私のお腹の子はどうするんですか!」


 わお、皆おおげさ過ぎ……てか、最後のに限ってはおおげさ通り越して、もはやネタだよな……。


 そんなこんなで王様ゲームは突然の終わりを告げた、俺としては良かったのだが、それでもつまらなくは無かったので機会があればまたやりたいな、と思ってしまう俺はどうしようもないやつだろう。

 そして久しぶりに揃った三姉妹の抜群のコンビネーションで素早く夕食が準備される。

 テーブルの真ん中に鎮座するのは……鍋、あ、今日の朝の残りね……


「篝! 朝はすき焼きだったから夕食はしゃぶしゃぶよ!」

「もう嫌だ!!」


 もうどう突っ込んで良いのか分からないので、とりあえず駄々をこねることにした。



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