どうやら増えるようです(意味深)

「篝のマザコン治すぞ作戦を始めます!」


 この母親の一言が全ての始まりだった。


 生まれた時から、俺は大の母親好きで、小さい時から、母親の側を片時も離れた事が無かった、それは幼稚園にあがっても治らず、初めての入園の日には俺を母親から引き剥がすのに一時間以上かかったそうだ。


 それからも俺のマザコンぶりは収まる事を知らず、幼稚園を卒園し小学校に上がる際にも、俺は母親から離れず遂には初めての小学校の日を母親に付き添って貰う始末、なんとか無事? に小学校も卒業し中学校に上がる際には流石に学校まで付き添って貰わなくても良くなったが、家に帰れば直ぐに母親に飛びつき、中学時代前半にはろくに同年代のクラスメイトとも遊ばなかった。

 その様子をずっと見ていた姉妹は、心底気持ち悪そうだった事を覚えている。


 俺が中学二年生になって、夏休みに入った時に母親がマザコン治すぞ作戦という名の出張に行くことになり、俺のマザコンライフに急遽終止符を打たれた。


 それからというもの、俺は母親が家にいないと言うことにストレスを感じるようになり、食事も喉を通らずみるみるうちに痩せこけていった。

 そんな俺を心配したのかはどうか知らないが、いきなり姉妹が俺を溺愛し始めた。

 本当に突然だった、前の日にはキモイとかウザイとか言う姉と妹が朝起きると俺のベットで俺を挟む形で眠っていた時の朝は忘れられない。


 そんな姉妹の励まし? もあってか前よりも元気を取り戻した俺は、ある日両親の寝室の机の上に出張に行っている母親からの手紙がある事に気がつく、その手紙の内容は


 拝啓、篝へ、


 私がいなくてもしっかりやっていけてる? ご飯とかちゃんと食べてる? 急に決まった事とはいえ、篝には悲しい思いをさせてしまったわね、ごめんなさい。これからも私がいなくてもしっかりやるのよ!


 P.S 篝がしっかりマザコンを直したら直ぐにでも飛んでいくからね、これはあくまで、貴方の為の試練よ、お母さんは篝を信じているわ。


 その手紙を読んだ俺はその場で号泣、そして涙が止まると同時に決意した。


 俺は……絶対にマザコンを止めんぞ! と。



 ××××××××××



 ジリリリリ! とうるさい目覚ましの音と同時にベットから起き上がり、この俺、米田 篝の朝が始まる。


 俺はダラダラとベットから降り、部屋着から制服に着替え、ブラコンの二人が待つであろうリビングへと向かう。


「おはよう二人共ー」


 リビングに入ると、どうやら既に朝食が出来ているようで、リビングには食欲をそそるが漂う、ん? 肉の匂い!?


「おはようございます、カー君」

「おはよう! 篝!」

「んげ……」


 何故俺が、嫌そうな声を出したかと言うと、

 リビングを開け、姉妹が座る目の前のテーブルにには、日本人の朝食とは思えないメニューが鎮座していたからだ。


「お前ら、朝からすき焼きはないだろ……」


 俺の目の前には、熱々の鍋の中で、ところ狭しと並ばれている肉や野菜達が目に入る。

 その様子を二人は左手に溶き卵が入っている受け皿を持ちながら眺めている、一言で言おう、アホか。


「カー君、朝食とは大事なものです……なので、朝からスタミナを付けようと思って、思い切ってすき焼きにしました!」

「いや、そこは、思い切らないで欲しかった……」


 何で姉さんは、生徒会長で頭もいい筈なのに、肝心な所は駄目なんだろう、普通すき焼きとか夜のメニューだろ。


「ごめんね篝? 私はやめた方がいいって言ったんだけど、このデカ乳が……」


 ギロりと姉を睨むエリー、おいおい、朝から喧嘩は止めてくれ……。


「ちなみに、エリーは何にしようとした訳?」

「勿論、しゃぶしゃぶよ!」

「はぁ……」


 すき焼きもしゃぶしゃぶも朝食のメニューじゃないから……。

 結局その後、朝からすき焼きを食べるはめになってしまった。


「全く、しゃぶしゃぶは朝食のメニューにふさわしくありません!」

「いや、すき焼きも朝食のメニューにふさわしく無いから!!」


 こうして平日の朝からガチのすき焼きを食べ、俺は疲れ果てる事になった。ちなみに今日の弁当は余った具材で出来たすき焼き丼。

 ……もう数日すき焼きは見たくない。



 ××××××××××



 朝の通学路にはあまりいい思い出が無かったりする。

 というのも、俺にとって、朝の通学路とは歩く度に、母親との距離が遠くなってしまうだけの地獄のような行為だからだ。

 毎朝毎朝、一歩進む度に母親との距離が遠のくと思うととてつもなく憂鬱になって登校していた事を思い出す。


「カー君またあのババアの事でも考えてるの?」

「ババアと言うなババアと!」


 俺の左側には、姉が俺の歩くスピードに合わせ、横ぴったりに付いてくる。


「現在四十五歳よ? 充分ババアじゃない」

「真の美とは、年齢を超越するんだよ……」


 四十五歳でババアなら、五十代、六十代では何になるんだ、七十過ぎたらもう人間じゃ無くなってるんじゃ無いか?


「もう! 篝ってばデカ乳と話すぎ!」


 グイ! と、右腕を引っ張られエリーが拗ねた顔をする。

 どうやら、エリーさんはご機嫌斜めのようだ。


「別にそんなに話してないだろ……」

「うっさい! デカ乳と話しすぎると体力を吸い取られるわよ!」

「デカ乳には、ドレインの効果でもあるのかよ……」


 デカ乳すげぇな、デカ乳の人集めたら世界征服でも出来るんじゃ無いだろうか?


「エリーってば、貧乳だからってそんなに私を妬まなくてもいいじゃない」

「だーかーらー! 私は貧乳じゃない!」

「あらー? 貧乳が何か言ってるわね? 胸が音を遮って声が良く聞こえないわ」

「二人共朝から喧嘩は良してくれ…… 」


 忙しないのはいつもの事だけど、いつもいつも喧嘩して飽きないのだろうか?

 と、俺を挟んで喧嘩をする二人の姿を見てふと思う、てか、周りの人がメチャクチャ見てるからやめて下さいお願いします。


 それから程なくして学校につき、幸い三人とも学年が違うため、俺が自分の教室がある三階につくと、二人と別れる。

 俺はそのまま自分の教室がある場所へと歩き、自身のクラスである二年三組の教室のドアを開ける。

 ドアを開けると正しく朝のクラスの光景、と言った具合に教室のあちこちでクラスの皆が会話をしている、中には女子達が俺を見て顔を赤くしたり、その様子を見る非リア男子達は別の意味で顔を赤くする。

 俺はその様子に苦笑いしながら自分の席に着き、荷物を下ろしてから、携帯にイヤホンを刺した後耳にねじ込み教室の騒音を好きな曲で遮断する。


(はぁ、流石に高校生でマザコンってのはな……)


 俺は度がつくほどのマザコンだが、それでもそれなりには成長している。

 証拠に、学校では自分がマザコンという事をひた隠しにしており、誰も俺がマザコンという事を知らない。

 この学校で、俺がマザコンである事を知る人物はそれこそ、姉と妹ぐらいだろう。


 そんなことを考えているうちに朝のHRが始まるようで、担任が教室に入るなり、教室のあちこちに散らばる生徒に自分の席に着くように促す。

 俺はイヤホンを耳から外し、担任の立つ教卓へと視線を向ける。


「起立、おはようございます、着席」


 そんな聞きなれた朝の三セットをこなすと、担任がニヤリと笑い、口を開く、ハイテンションで。


「お前ら! 今日から転校生が来るぞ!」

「「「うぉぉぉおおおお!」」」


 いやいや、転校生如きで騒ぎすぎだろ。


「ちなみに、……女子だ!」

「「「「うぉぉぉおおおおぉぉぉぉぉ!」」」」


 周りをちゃんと見なさいよ、女子達が引いてるじゃないか、これが君らのモテない理由の一つだよ。


「それじゃ、入ってくれ!」


 担任がそういった後、ガラリ、という音と共に入ってきたのは、ここらでは珍しい銀髪碧眼と、肩で切りそろえられた髪はどこかで見たことあるような艶やかさ、そして瞳も瞳で青色の瞳は誰かに似ている様に感じる人物だった。


「……」


 ガタン! という音と共に俺は勢い良く立ち上がる。そしておもむろに口を開き、恐る恐る言葉を紡ぐ


「……シャル?」


 それは、出張に行っている両親と共について行った筈のもう一人の妹、米田 シャルだった。


「お久しぶりです、兄様」


 何だかこれから大変な事になりそうな気がしてならないんだが、気のせいであって欲しい。


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