還魂記 ――翠浪の白馬、蒼穹の真珠 外伝1
結城かおる
第1話 還宮の輿
――鳥達は高みへと飛び立った。そしてお前は、あれらを射落としてしまうのか。
「ふう…」
大きく息を吐いて、
宮中の
ここ安国軒は、王族が王への拝謁などの際に控えの間として用いる部屋である。そこで弦朗君は、駆け付けた
「…今は当座の処置だけを済ませておきますが、一刻も早く府にお帰りになり、もう一度医者に診せることです。
「わかっている――」
処置が終わると弦朗君は典医を帰し、光山府から急ぎ届けられた常服に袖を通した。傷の痛みはまだ引かないが、新しく清潔な服に着替えただけでも、心が落ち着くというものである。
「私は馬を引いてきます、いつもの場所でお待ちしておりますので…」
承徳が小走りに部屋を出ようとしたそのとき、高官が何人か入ってきた。
「…委細はすでに話してあるが、まだ何か?」
「我ら宰領府から、弦朗君様にご事情をお伺いしたいと」
揃って彼等は一礼したが、まるで
「事情?誰が私に説明を求めているって?」
「弦朗君様にお話をお聞きすることになるのは、
その名を聞いて、彼は眼を細めた。身体のうちにぴりりとした緊張が走る。
――これはまた、手強い相手が出てきたな。
むろん口にこそ出さなかったが、厄介な局面を迎える予感がした。呉一思とは、若いながらも宰領の
「宰領府はいったい何をお考えか!弦朗君様は脅迫されて手傷を追われ、まだ仮のお手当しかなさっていません。痣だけではなくそこかしこに刃物の傷もありますから、早く処置をなさらぬと、思わぬことも起きかねません。後日に…」
脇から承徳が相手に食って掛かるのを、弦朗君は無言のまま片手で制した。
「お怪我のこともありますので、長くはお引止めしませぬ。若干のお時間を頂き、事情を伺い確認したいだけでございます。すぐに済みますし、我らに他意なきこと、どうか光山様にはご了解くだされたく」
そう言った彼等は無表情を保っている。弦朗君は立ち上がって頷いた。
「役目ご苦労、話を致すゆえ案内を頼む。どこへ行く?」
「弦朗君様!」
なおも抗議の声を上げる承徳を一睨みして黙らせると――他人を睨みつけるのは彼にとって滅多にないことであった――、弦朗君は官僚らに先導するよう促した。
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