第2話 夢の中①

 気が付くと、変な空間にいた。

 僕はすぐに、ここが現実ではないと悟った。


 こんな何も無い、ただ真っ白な空間が現実なもんか。


 そう思った。


「あれ??」


 突如、何処からか声が聞こえた。

「ひぁ…!?」

 僕はビックリして変な声を出してしまった。

「く、くくく……驚きすぎたよ………」

 目の前にはお腹を抱えて笑っている少女がいた。


「見覚えのある」少女だった。


「へ…!?あ……」

 僕はこれが夢だということに今更気がついた。

 相も変わらず、彼女は笑っている。


 何も変わらない。

 ずっと。あの日だってそう。


 セミロングの黒髪をなびかせ、ふわっと笑う表情がとてもよく似合う。

 クラスではいつも人気者で、僕なんかが近づけるような相手ではない。

 そんな人。

 ちなみに、美人というよりは可愛いの方だ。


 そんな彼女はこの間、死んでしまった。

 僕のせいで。

 僕がしっかりしていればあんな事にはならなかった筈だ。

 僕が一緒に居なければ、、

 僕が君と知り合わなければ、

 僕が、、、

 僕がいっそ、


 死ねばよかったんだ。


「こーらっ!」

 再び彼女の声に驚き、我に返る。

「おぬし、今要らぬことを考えたじゃろっ!」


 おぬしってなんだよおい。


「や。別に。」

 僕は彼女から目をそらす。

「嘘おっしゃーいっ!!!」

「…!!!??」

 彼女は僕の頬を両手で挟んで無理矢理目を合わせる。

「なんだよ…」


「自分が死ねばよかった、とか、考えたでしょ……」

 図星だ。

「別に。もしそうだったとしても、僕の考えだ。君には関係ないだろ。」

「関係あるもん…!」

 彼女は目を合わせたまま泣きそうな顔になる。

「は……!?こんなんで泣くなよおいっ…!」

「泣いでないもんー…っ」

 いやいや、泣いてるからね。うん。

 僕が泣きたいよ。うん。


「もっとさー、感動の再開なんだからさー、喜ぼうよー…っ」

 泣きながら彼女は続ける。

「もうさ、ちゅーくらいしそうな勢いでさー…」


 なんつー事を言うんだこの子は。


「いや、喜んでるよ…。でも、ちゅーはないかな…。うん…。」

「なに…!?嫌いになったの……!?私のことが……!?」

 僕の胸ぐらを掴んで彼女は言う。

 こんな彼女の姿、見た人絶対ビックリするよ…。

 ギャップとはまた違うよね。

 ちょっと病んでるよね。うん。


 僕は彼女の手を放しながら言う。

「いや、別に、嫌いとか言ってないし。…わ……っ!!」

 やっとで放せたと思ったら押し倒された…。

「好き…!?好きなのね…!?よかったー…!」

「んな事言ってないだろ…。」


「でも…」


 彼女はさっきまでの落ち着きのなさなどは感じさせず、ゆっくりと僕に言い聞かせるように言う。


「でも、私は好きよ……。溢宙みそら…。」


「っ……!!?」

 今のはずるい…。

「溢宙は…?」

「え…」

 彼女は潤んだ瞳で聞いてくる。

 僕は俯いて応える。

「…僕も、好き。柚那ゆな…」


「……。」

 何も言ってこないので、顔を上げる。

 あ、やっぱり泣いてた。

「…は、初めて、名前……」

「いや、僕もだし……」

 お互い少し黙る。


「ふふ。嬉し。」

 彼女は笑う。やっぱり、笑った顔が一番好きだ。

「うるさ……」

 僕も少し笑う。


「さて、雑談はここまでにしよう。」

 突如、彼女は言い出した。

「雑談?」

 僕は問う。

「そう。雑談。というよりは、余談だったのかな。」

「本題があるってこと?」

 再び僕は問う。

「そう。本題がある。」

 彼女は微笑んでいる。


「本題に入る前に、少し、昔話をしよう…。」


 やっぱり少し泣きそうだ。

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