第13話「狂乱のバレーボールトーナメント」
林間学校も二日目である。
ここからは全く作戦を立てていないので普通に過ごすだけだ。
まあ、どの作戦もうまくいかなかったのだが。
朝、目を覚ますと、誰も友達のいない気まずい男子部屋から退散した。
宛てもなく、散歩していると瀬川さんが廊下の椅子に一人座っていた。
「おはよう、瀬川さん。何してるの?」
「わ、佐須駕野くん。部屋の居心地が悪くてでてきたの?」
う……。するどい。
悔しいから虚勢を張っておこう。
「ち、ちがうし。朝は散歩する習慣なんだし!」
「へ~。朝は散歩っと」
そう言いながら瀬川さんはノートに書き込んでいる。
何で俺の習慣なんぞをメモするんだ。
「何でメモしてるんだよ」
口に出てしまった。
「言ったでしょ。佐須駕野くんと香菜ちゃんの関係を形にしたいって。
今はマンガにしようと思ってるの。その資料作成だよ」
「本当に作ってたのか……」
あの話は本気だったのか。
あれは言い訳で、適当に面白おかしい部活を作りたかっただけかと思っていた。
「それにしても佐須駕野くん、昨日は楽しかったね。色々災難もあったけど、終わりよければすべてよし!」
昨日の楽しい事といえば、キャンプファイヤーのことだろう。
正直俺はあの時変なテンションだった。だからその話は恥ずかしくてあまりしたくない。
「さすがに、すべてよし! という気分にはなれないな。完全に鬼畜認定されたし、いじめられるのかな俺……」
「ははは、悪い方向に考えすぎ。もしそうなったら私が守ってあげるよ」
「俺が女で瀬川さんが男だったら完全に惚れてたな。今の」
「もう、何言ってるのー」
自然とこんなかっこいいセリフを吐けるとは……。すこしドキッとしてしまった。
見習おう。
「そういえば今日って何するんだろうな」
「今日は例年、クラス対抗レクリエーションだよ。
クラス内でリレーと大縄跳びとバレーボールに分かれてやるんだって」
「うっげー、マジ? 全部足引っ張りそうでやだなあ」
全部チーム競技じゃないか。
この中だったらリレーが一番ましかなあ?
「ちなみに、佐須賀野くんがやるのはバレーボールだよ」
「はあ? 何で決まってるの」
「そんなの、私のごり押しだよ。私がバレーボールにでる条件として香菜ちゃんと佐須駕野くんをメンバーにいれることって言ったの!」
「何故そんなことを! まあ、どれも嫌だからいいんだけど」
リレーでも大縄跳びでも同じくらい嫌だしな。
それならば、瀬川さんと香菜と一緒にバレーボールをした方がましかな。
「何でってそりゃ、一番レクリエーションのポイントが高いからだよ。
各クラス、例年運動自慢を揃えてくるんだって。
そこで足跡部が活躍して勝ったら絶対おもしろいよね! たんぽぽちゃんがいないのが残念だけど」
前言撤回。
そんな花形イベントで醜態を晒すのは簡便願いたい。
「しょ、正気か……? 何故そんな死地へ俺を追い込むんだ!」
「だって佐須駕野くん、昨日『足跡部は最高だー! 皆で絶対何か成し遂げような!』って言ってたじゃん。うれしかったのに嘘だったの?」
う……。確かにテンション上がり過ぎてそんなことを言ったような気がする……。
後悔先に立たずとはまさにこのこと……。
「男に二言はないよ?」
林間学校一日目は、全く例年通りの日程とはいかなかった。
しかし悲しきかな。二日目は例年通りのスケジュールである。
まあ、体育館だから天候も関係ないしな……。
そしてついに、バレーボールの時間だ。
その前に俺と香菜と瀬川さんで例のごとく作戦会議である。
「大縄跳び、リレーを終えて一位が四組で五〇ポイント。二位は同列で五組を除く残りクラスで三〇ポイント。で、最下位がぼくたち五組で一〇ポイントですか」
香菜は体操着に身を包み我がクラスの悲しい現状を語る。
「大丈夫だよ香菜ちゃん。このクラス代表対抗バレーボールトーナメントで優勝したら一位には三〇〇ポイントだから、逆転優勝できるよ!」
「昔のクイズ番組のお決まりみたいな展開だな……」
それにしてもギャラリーがすごい。
皆がこのバレーボールトーナメントに注目している。
勝っても商品など何も無いのに、皆勝負好きだなあ……。
「さっそく、我が五組の一回戦みたいだね。よし、いくよ」
「がんばりましょうご主人様! やるからには勝ちますよ!」
香菜と瀬川さんはめちゃくちゃ張り切っている。
まあ、やるからには勝ちにいきますか。
「俺はいつもバレー部で二番手なんだ。エースになりたいと思ってそんなに強くない高校を選んだ。
でもすげえ奴が同学年にいやがって高校でも二番手……。だからせめてこのクラス対抗トーナメントでは一番になる!」
そう意気込んでいるのは同じチームメンバーの二宮 次郎(にのみや じろう)。
名前にも二とか次とか入っているのがなんとも皮肉である。
「大丈夫だよ。私達足跡部の三人に任せて! 今日こそ一番になろう!」
「佐須駕野はともかく、瀬川さんと赤姫さんがいれば勝てる! 二人とも運動神経すごいからな!」
俺は元より戦力外かよ。
確かに瀬川さんは圧倒的運動神経。香菜もどこで覚えたのか謎な身のこなしをする。
でも、この扱いの格差は悲しい。
「「おい、サッスガーノ」」
両肩を掴まれ振り返るとそこには五組のチーム残り二人がいた。
双子の外守 右京(そとまもり うきょう)と外守 左京(そとまもり さきょう)だ。
名前の通り野球部でお互いライトとレフトを守っているらしい。
何故ここまで名前通りの奴らばかりなんだ。
えっと、確か右側にくせっ毛があるほうが右京くんで、左側にくせっ毛があるほうが左京くんだよな。
「……君が右京くんで君が左京くんだよね。どうかした……?」
ついボソボソしゃべってしまう。
やはり他人と喋るのは苦手だ……。
「ちげえよ。逆だよ。俺が右京だ」
「そして、俺が左京」
何故、双子が同じクラスにいるのだろう。
後、癖っ毛の方向は名前と一致させておいてほしい。さらに分かりづらい。
「ごめんごめん。で、俺に何か用かな……?」
「いいか、俺は香菜ちゃんにいいとこを見せたいんだ。お前がどう脅して取り囲んでいるかは知らんがここで逆転してやる。足引っ張るなよ」
右京くんは鼻息交じりで俺にそう言い放つ。
なるほど、右京くんは香菜が好きなのか。
「兄さんの言う通りだぞ。俺だって夏芽さんに何度もアプローチしても適当にあしらわれるのに! どうやって近づいたんだよお前!」
そして左京くんは瀬川さんが大好きと……。
どうやったってなあ。向こうから突撃してきたんだよ。
そう返事したいが、俺はコミュ障を発揮し、俯いてしまう。
情けないぜ。でもどうにも緊張してしまう。
「とにかく、お前がどんな鬼畜でも今は仲間だ。精々がんばってくれよ!」
そんな俺を見かねて双子の兄弟はそう言い残しコートの方へ歩いて行った。
どいつもこいつも、理由はともかくやる気満々だな……。
「えーそれでは、五組と一組の試合を開始します」
「がんばれ一組! 相手に女の子いるからって手加減するなー!」
「夏芽ちゃん、香菜ちゃんがんばってー!」
「キッチクーノ、今日は何もするなよー」
審判の試合を告げる合図と共に外野から応援や、野次が飛び交う。
当たり前のように相手は男子6人である。
というか、今キッチクーノって聞こえたような……。
いや気にしない、気にしない……。
「佐須駕野くん、ボールきたよ!」
「え……? やば」
ぼけっとしていたらさっそくボールが飛んで来たらしい。
やばい。絶対ミスる。
「任せて下さい一正さん!」
俺が完全に油断しているのを察した香菜が横っ飛びでレーシブする。
なんだこいつの身のこなしは……!
「ナイスレシーブ香菜ちゃん!」
そう言いながら瀬川さんはスッとボールの下に入りそれは美しいトスを二宮くんに送る。
そしてそのボールを二宮くんは容赦なくスパイクした。
もはやクラス対抗バレーボールの領域を超えた華麗な三弾アタックが決まった。
「うおおおおお! 素晴らしい瀬川さん、赤姫さん! やはり俺の目に間違いはなかった。ついに俺が一番になる時がきたぞ!」
二宮君はテンションがおかしいことになっている。
さっそく会場中も一発目のプレーでざわついている。
「すまん香菜。助かった」
「いえいえ、ご主人様のピンチを助けるのがメイドの役目ですから」
香菜は片目を瞑って、ピースをしながら周りに聞こえないような声でそう言った。
いちいち仕草が可愛いやつめ。
でもマジで助かったぜ。
「おい、サッスガーノ。また香菜さんに助けてもらいやがって。ずるいぞ!」
香菜が大好きな右京くんが突っかかってくる。
でも確かにその通りだ。いつまでも香菜に助けてもらっちゃあださいしな!
俺もいっちょがんばるぜ!
そう、意気込んだものの、俺が頑張るまでもなく試合は一方的な展開であった。
「このボールも任せて下さい!」
香菜が信じられない守備範囲でボールを拾う。
「ナイスレシーブ香菜ちゃん! はいっ!」
そして瀬川さんが正確無比のトスを上げる。
「アチョーーー!!!」
そして、バレー部の二宮くんがスパイク。
この黄金パターンで次々に得点を重ねていった。
右京くんと左京くんも身長が低いのでスパイクはしないものの、しっかり自分の範囲のボールは裁いている。さすが運動部は違うな……。
俺の役目はもはや時々回ってくるサーブをミスらずに入れるくらいだ。
「一正さん、もう少しやる気だしましょうよ。ミスしてもぼくがカバーしますから」
「とはいってもなあ……。このチーム、というより香菜と瀬川さんがバレー部級だから俺の役目なんてねえよ」
「一正さん身長そこそこあるし、スパイクとか打ってみましょうよ。ぼくじゃ絶対できないです」
「まあ香菜、小さいしな……色々」
「これから成長するんです!」
香菜が無茶な要求をしてきたので適当にいじり返しておいた。
でも確かに、このままだとせっかく優勝しても俺だけ株が下がってしまう。
もう底かもしれないが。
そうこうしていると、マッチポイントである。
例のごとく、香菜がボールを拾い瀬川さんがボールをトスしようとする。
(いまだ! この瞬間にジャンプして、さながら俺もスパイクできるオーラをだすんだ! 突然ジャンプしたらさすがの瀬川さんも合わせられまい)
甘かった。俺は瀬川さんの視線の逆でジャンプしたにも関わらず、ピンポイントの所へボールを送って来た。
「いけっ佐須駕野くん! たたきこめー!」
(うそだろう!? ええい、やけくそだ)
「アフンゥッ」
情けない声を上げてしまったが、奇跡的に俺の手はボールをジャストミートした。
誰もが予想外のスパイクに、ボールは綺麗に相手コートの地面に叩きこまれた。
「わーー! ナイススパイクです! 一正さん!」
「佐須駕野くん、やればできるじゃん!」
「えっ? あ、おう」
香菜と瀬川さんが俺を祝福する。
自分でも予想外の成功に戸惑ってしまい、生返事になってしまった。
でもめちゃくちゃ気分がいい。
「えー、二セット対〇セットで五組の勝ち!」
審判がそう告げ、一回戦が終了した。
「ふん。一回たまたま活躍しただけでドヤ顔してんじゃねえぞ! 変な声だしやがって!」
「そうだそうだ。兄さんの言う通りだ。俺たちの方が貢献度は上だ!」
右京左京兄弟が俺にかみついてくるが、今は気持ちがいいので何も効かない。
「最後のスパイクはすごくよかった。その調子で頼むぞ!
そして俺は二位から脱却だー!」
二宮くんは本当に一番になりたいんだな……。
その調子で五組は勢いにのり、次の試合も勝利し決勝戦進出である。
しかし、残念ながら俺だけは勢いに乗るどころか意気消沈であった。
「どうしたの、二回戦じゃ一回もスパイク決まらなかったよ!
私のトスの位置は完璧だったと思うんだけどな」
「いやあ……。最初は我武者羅だったから成功したけど、来るって思うと緊張してうまくいかないんだよ」
「一正さん、メンタル弱いですもんね……」
「まあ、俺がどんだけ下手くそでも、これなら優勝できるだろ」
二回戦なんて、俺たちの失点は俺がスパイクをすかぶったくらいである。
瀬川さんなんて、ジャンプサーブで連続十五点も取る暴挙にでたしな。
「いや、そう甘くはないぞ。佐須賀野」
二宮くんが神妙な顔をして、横槍をいれてくる。
「どういうこと? 次の相手の四組って強いの?」
「強いなんてものじゃない。次の相手はバレー部が五人もいやがる。そしてその一人はエースだ」
なんだそれは。強いというよりずるいだろ。
「だから、次の試合では五人の力では勝てない。六人が力を合わせるしかない!」
「まじかよ……」
そして決勝戦直前、ぞろぞろと試合を行うメンバーが集まってくる。
「よう、我がバレー部のエースさんよお。今日こそ俺がお前を倒して一番になってやる」
二宮くんは相手のいかにもエースみたいな奴とバチバチである。
「ふん、さっきの試合みたぞ。強力な助っ人を使いやがって」
「それを言うならお前らバレー部を五人もエントリーしやがって。ずるいぞ!」
「いやいや、だからハンデとして女子を一人いれたんだよ!」
俺らは女子二人だけどな。
女子レベルではないのは認めるが。
……ん? 四組の女子といえばあいつがいるがまさかな……。
「あ、香菜さん、瀬川さん! お手柔らかによろしくお願いしまーす!」
香菜と瀬川さんを見つけはしゃぎながらコートへ入ってきたその女子は見間違うこともない、ぽぽちゃんである。
ていうか、そのまさかかよ! ハンデの女子ってお前かよ!
さては嫌な役だから適当に押し付けられたな!
「たんぽぽさん! いい試合しましょうね」
「たんぽぽちゃん手加減しないよ~」
香菜と瀬川さんは足跡部のまさかのコート上集結にはしゃいでいる。
しかし俺は妙な緊張感を感じている。
(この試合、俺とぽぽちゃん、どちらが足を引っ張るかで決まる……!)
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