第14話「足跡部、コート上に集結」
「それでは決勝戦。五組対四組の試合を開始します」
審判の合図と共についにクラス対抗バレーボールトーナメントの決勝戦が始まった。
決勝戦だけあってギャラリーの人数が物凄いことになっている。
俺はなるべくボールを触らないように前方のポジションからのスタートだ。
同じ狙いなのか、コート越しの正面にはぽぽちゃんがいた。
俺の競合相手といえど、同じ悲しい境遇のぽぽちゃんに一言挨拶をしておくか。
「よう、ぽぽちゃん。お互いなるべく目立たないようにがんばろうな」
「うわ、志低いですね。私は活躍するつもりですよ。香菜さんにいいところを見せます!」
こいつ、活躍する気かよ。
でもこれはいい。ぽぽちゃんに空回りしてもらって自滅してもらう。
ぽぽちゃんはお世辞にも運動が得意そうに見えないからな。
「まあ、がんばってくれ。俺は空気に徹する」
「ていうか、ボールそっちに飛んできてますよ」
おっと、危ない。
いつの間にか相手のサーブが飛んできていた。
でもどうやら俺には関係ないらしい。
例のごとく香菜がボールを拾い、すかさず瀬川さんがセッターとして二宮くんにボールを送る。
そして二宮くんがそのままスパイク。
相手がブロックすることもできないスピーディーな攻撃であった。
(ていうか今の、何とかクイックってやつじゃないのか……。いよいよ極まってきたな)
「香菜さんと夏芽さん、すごいですね……。やっぱり私も空気に徹します……」
「お、早い挫折だな」
「あんな俊敏で正確な動き、私にはできないですもん……」
ぽぽちゃんは一発目のプレーでさっそく心が折れたらしい。
俺側の人間が一人くらい居てくれて助かるぜ。
「やるじゃないか。そのくらいやれるのならばこちらも全力で行かせてもらうぜ」
相手のバレー部エース様がそう宣言する。
全力はやめてくれないかな……。
「そうでないと倒す意味がない。いくぞ」
二宮くんはバレー部として今まで加減していたのだろう。
ならばこちらも全力だと言わんばかりの強烈サーブを放つ
「甘い!」
しかし、相手はさすがバレー部エース。
しっかりとそのボールをレシーブし、相手のセッターにつないでそのままバックアタックを放つ。
そのボールは右京、左京兄弟の間に炸裂した。
「うわあ……。あれはとれないわ」
「ぼくでもあのボールは厳しいですね……。一正さん、少しくらいブロックとかしてください」
「いや、無茶言うなよ。もしボールが当たっちゃったら手が痛くなっちゃうだろ」
「まったくもう、情けないですねー」
香菜は無茶な要求をしてくる。
怖くてブロックとか絶対嫌だ……。
「うーん、この感じだったら、攻め合いになりそうだね」
瀬川さんはそう呟いたが試合はまさにその通りに進んだ。
お互い、スパイクで点を取り合う構図となったのだ。
四組は圧倒的エースの力で点をもぎ取っていく。
対して俺たち五組は瀬川さんの緩急をつけた正確なトスからの二宮くんのスパイクで点をとる。
しかし、一つのある原因のせいで点差は徐々に開いていった。
「うわー、またサッスガーノがらみの失点ですね、ぷぷぷ」
「う……うるさい」
ぽぽちゃんからバカにされた通り、俺が足を引っ張っているのである。
お互い、スパイクがメインといえども何とかレシーブしたり、サーブで点を取ったりもする。
しかし、俺の所へきたボールは全てミス。
ミスっていうか、全て本気のバレー部の攻撃だから俺には無理!
それでも、相手にだってぽぽちゃんがいるじゃないかと思うだろう。
残念! ぽぽちゃんは女子の特権なのか意識的に狙われないのだ!
唯一のぽぽちゃんの失点といえばサーブを全部スカぶったぐらいである。
(おっと俺のサーブの番か……。畜生、こうなったら……)
「くらえ、ぽぽちゃん!」
俺の唯一の武器、それはアンダーサーブを狙った所へ飛ばせることである。
狙うは勿論ぽぽちゃん。
お前も俺と同じ苦しみを味わうがいい!
「おら、いけっ」
「うぎゃっ」
ボールはしっかりと狙いを定めた所へ飛んだ。
そしてぽぽちゃんは予想通り、というか予想以上のミス。
レシーブしたボールが顔面を直撃し、情けない声を上げながら倒れた。
「よっしゃ、狙い通りだ! どうだ俺のサーブ!」
俺がもぎ取った得点を褒めてもらおう。
そう思いチームメイトの方を見る。
「さすが鬼畜だな。やることが最低だ」
「兄さんの言う通り。こいつ、キッチクーノで間違いないよ」
右京左京兄弟は俺の活躍を心から喜べないのか。
可哀そうな奴らめ。お前らも決勝はあんまりいい所ないもんな。
「佐須駕野くん……。それはひどいよ」
「一正さん……。狙ってやったんですか? 最低です……」
あれ? 瀬川さんと香菜まで俺をそんな目で見るの……?
俺、チームのために頑張ったのに。
「佐須駕野……。勝利に必死になってくれるのは嬉しいが、やっていい事と悪い事があるぞ」
嘘だろ? あんなに勝利に拘っていた二宮くんすらもそこまで言うのか……。
よく見ると周りのギャラリーもドン引きしている。
そして俺が会場中を敵に回したところへさらに追い打ちが。
「うう……香菜さん、夏芽さん。お先に失礼します」
ぽぽちゃんはそう言い残しコートから去って行った。
今のプレーでぽぽちゃんは鼻血を出し退場。
代わりに明らかに運動ができそうな奴が交代で出てきやがった。
このコートに足手まといは一人となってしまったのだ。
「なあ香菜。やることなすこと全てうまくいかないのだが」
「そんなの、いつも通りじゃないですか。気を取り直してがんばりましょう」
確かに香菜の言う通りだ。
うまくいかないのがいつも通りならば、順調にいつもの実力を出せているということじゃないか!
そんな悲しいポジティブシンキングをしている内に一セット目を取られた。
そのまま点差を押し切られてしまった形である。
二セット先取なのであと一セット取られたら敗北だ。
「スパイクをできる人が一人っていうのが問題だと思うの。さすがに対応されちゃって最後の方はいまいち点とれなかったしね」
瀬川さんはもはやキャプテンである。
セット間のインターバルで二宮くんを差し置き、皆をまとめている。
「でも、他にスパイクを打てる人はいないですよ。一正さんは不調ですし」
使えないってはっきり言わない辺り、香菜は優しいなあ……。
「一人いるよ。私なら打てる。でもそれだとセッターがいなくなっちゃうから、香菜ちゃんにセッターを頼みたいの」
瀬川さん、別にそんなに身長が高い方じゃないのに打てるんですか……。
もうなんでもありだな。
「ぼくがセッターですか……。分かりました。できるだけやってみます。夏芽さんのプレーを近くで見て色々学べましたし」
何言ってるんだ。見ただけであの動きができるわけがないだろ。
バレー部顔負けのセットアップだったぞ。
と、思ったのも束の間、二ゲーム目が開始し香菜のポテンシャルの高さを見せつけられる。
「はい、夏芽さんっ」
「ナイス香菜ちゃん!」
香菜は頭につけた黒いリボンをなびかせ、瀬川さんが飛んだ所へピンポイントでボールをトスした。
瀬川さんも女子とは思えない跳躍からとても美しいフォームでスパイクを決める。
(まじでセッターこなしてやがるよ香菜……。しかも瀬川さんのスパイクもエース君並みじゃねえか……)
「もうお前らバレー部に入れよ」
「バレー部だったら女子と男子分かれちゃうじゃないですか。一正さんと違う部活ならぼくは入りません」
「何言っているの。私が作った足跡部が最強だよ」
「聞いた俺がバカだったよ……」
瀬川さん曰く、最強である足跡部の活躍(俺とぽぽちゃんは除く)で二セット目は優勢に進めた。
相手も終盤にバレー部軍団とエースの意地で対応してきたものの、何とかそのまま二セット目を取ることに成功。
ちなみに俺は未だにいいとこなしである。
「さすが香菜ちゃん。できると私は信じていたよ!」
「えへへ、夏芽さんのスパイクも素晴らしかったです~」
瀬川さんは香菜の頭を撫でながら活躍を褒めている。
ああ微笑ましい。
しかし、あんなにほんわかした空気を作っているやつらがコート上では大暴れなんだから恐ろしい。
「このままだとやばいぞ。相手も最後の方は対応してきていたしな。
三セット目は瀬川さんもマークがきつくなるだろう」
二宮くんはそう言う。
確かに序盤こそはこちらのスパイカーが増え、相手は対応できずに得点を重ねた。
しかし終盤にはしっかりとブロックを形成され、じわじわ点差を縮められた。
何とか逃げ切ったものの、このままだとやばいだろうな。
「そうだね。しかし、私には秘策があるよ」
「どんな作戦なんですか? 夏芽さんの作戦ならきっと大丈夫です!」
「ふふ、香菜ちゃんのセッター抜擢も完璧だったしね。でも私は元々足跡部メンバーの活躍で勝つつもりだったんだよ。あと一人、働くべき人がいるよね?」
う、嘘だろ。
まさかその一人って……。
「佐須賀野くん、働いてもらうよ」
「冗談ですよね?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます