第10話「鬼畜爆誕」

 メイドカフェで香菜の雇用契約を済まし、第一回の足跡部の活動は解散となった。

 香菜と二人で帰っているのだが、やはりメイド服の女の子と歩くのは視線が痛い。

 でも、段々慣れてきてしまっている自分がいる……。

 

「かなにゃん、お疲れ様。よかったじゃないか前金でそんなにもらって」


 事情を話すと香菜をスカウトしたメイドカフェ「めいどり~む」の方々はなんと前金でアパートを借りれるだけの金額をくれた。

 この特別待遇、そんなに香菜を雇いたかったのか。


「その名前で呼ぶのはやめてください……」


「まあこれで、やっとまともな所で暮らせるじゃないか。

 もうどこにするか決めてんの?」


「当然ご主人様の隣室ですよ。丁度開いていますし」


「はあ? ふざけんなよ!」


 これ以上俺のプライベートを侵食しないでほしい。

 

「ふざけてないですよ。本来は同じ家に住むんだからマシなほうです。

 より近くで、ご主人様を立派な人に導きます」


「ていうかさ、お前が散々言う、その立派な人ってどうすればいいの? 頑張って登校もしてるし」


「ぼくがいなくなったらご主人様はきっと、また引きこもりますよね」


 う……。確かに悔しいが、その通りだと思う。

 結局自分で作った友達はいないし、足跡部も香菜がいるから俺もいるようなものだ。

 孤独に逆戻りするくらいなら、そりゃ自宅警備に決まっている。

 というか、今も普通に学校つらいし、弱みさえなければ行っていない。


「ぼくは色々勉強してきたんですが、やはり高校生の理想像といえばリア充だと思うんです」


「お前、その勉強につかった教材、絶対アニメとか漫画だろ」


「うるさいですね。とにかく立派なのには変わらないと思います!

 お友達に囲まれ、恋人もでき、文武両道……そんな人になってもらいます」


「想像できねえ……」


 なんだ、その完璧超人は。

 それに、こいつ人の恋路までサポートする気なのだろうか。




 

 結局、香菜はその日中に本当に俺のアパートの隣室を借りる契約を結んだ。

 そして、俺はもはや倉庫と化していた近くの山の香菜の仮住居から荷物を運ぶ手伝いをさせられた。

 まじで山に住んでやがったのかこいつ……。


「お、香菜の下着発見。かわいいやつばっかだな!」


「死んでください!!!」


「痛え!」


 相変わらず、香菜のビンタはすごく痛かった。








 休日明けの放課後、またもや俺達は超絶狭い部室に招集させられた。

 相も変わらず、俺たちは4人列に並んでイスに座っている。 


「第二回足跡部、活動会議を始めるよ」

 

 瀬川さんは嬉々として開催を宣言する。


「おい、まさかこの部活毎日やる気か? さすがにやってられないぞ」


「えー、そんなこと言ってていいの? 今日は佐須駕野君のための部活だよ」


 どういうことだ。俺のための部活? いやな予感しかしないぞ。


「サッスガーノのために何かするなんていやなんですけど」

 

 ぽぽちゃんは不満げな顔をして、文句を垂れている。

 俺だってお前に何かされるほど落ちぶれちゃいねえよ。たぶん。

 

「まあまあ、たんぽぽちゃん。これは香菜ちゃんからのお願いなの」


「え、そうなんですか! そういうことならぜひ喜んで」


 ぽぽちゃん……。お前はもう香菜の奴隷か何かか?


「香菜、お前のお願いって何だよ」


「ぼくが夏芽さんにした相談は、ご主人様にもっと友人を作ってほしいということです」


「ぷぷぷ、サッスガーノ、友達いませんもんねー」


「余計なお世話だよ! ほっといてくれ」


 ついに香菜、部活にまでこの内容をぶち込んで来たか。

 

「まあ、確かに佐須駕野君の友人事情は相当つらい状況だからね。

 香菜ちゃんの立場的には見逃せないよね」


 瀬川さんはしたり顔でそう言うが、心の中ではきっと『面白い事を見つけたぞ』としか思っていない。きっとそうだ。


「ちくしょう! 俺の悲しい惨状で面白がりやがって! ほっといてくれよ!」


「本当にほっといていいの? 悲しい惨状というのは、友達がいないってことだけじゃないよ」


 瀬川さんは意味深に俺にそう呟く。

 どういうことだ? 友達がいないこの状況を悲惨と例えたわけじゃないのか?


「友達がいない以上の悲惨とは何だ? おれはさらに虚しい奴なのか?」


「虚しい、というか悲しいの方がピッタリかな。

 どうやら佐須駕野君はとんだ鬼畜野郎ということになっているらしいよ」


「ぼくは、違うって弁解しているんですけどね……」


「鬼畜野郎だと!? 俺は痛い自己紹介と、惨めな逃亡劇しかしてないはず! どこに鬼畜要素があるんだ?」


 教室の休み時間にほとんど寝た振りをしている俺が虚しい奴というレッテルを張られるのは分かる。

 しかし、鬼畜と呼ばれる筋合いはないはずだ。


「佐須駕野君は私と香菜ちゃんの弱みを握ってハーレムを築こうとしている糞野郎だと思われているようだよ」


「はあ!? なんだそれ?」


 何故こんな状況になっているかを瀬川さんは丁寧に教えてくれた。

 まず、やけに香菜が俺の世話をしようとしているが、俺が香菜と付き合えるはずがないという事から弱みを握っているのではと噂が広がった。

 そんな噂が広まっている所にいつの間にかもう一人の人気の女の子である瀬川さんと部活を結成することになり、嫉妬と怨念が噂を誇張させ、いつの間にか鬼畜野郎サッスガーノという像ができてしまったそうだ。


「私も、『脅されいてるんでしょ?』って聞かれても否定してるんだけどね~。

 効果なしだね」

 

 瀬川さんは脅される様な奴じゃないよ。

 超絶マイペースで面白い事にしか興味ない変態だぞ!


「それに、前回のオーディションで全ての男の子を追い返して、たんぽぽちゃんを部員にしたのも、佐須駕野君の陰謀ということになっているみたいだよ」

 

「ふざんけんな! 香菜と瀬川さんがボコボコにしただけだろあれは!」


「まあ、私も香菜さんは弱みを握られていると思っていましたしね。

 しかもサッスガーノは実際にそういう事をするやつですよ!」


「ポポちゃん。それ以上は気をつけろよ?」


「ひい! すみません。黙っています……」


 俺は知っているぞ。秋葉原の時もお前が香菜を隠し撮りしまくっていたことを。

 余計な事を言うのはお互いのためにならないぞ。


「とにかく、ご主人様は友達がいない。というよりもはや、友達をつくるのが困難。という状況に陥っているんです」


「そんなあああ! もう、学校なんて来たくねえええ」


 俺はもう、人気者になりたいとか中心人物になりたいという願望はない。

 平穏に高校生活を過ごしたいだけなのに……。


「このままじゃそのうち始まっちゃうね。いじめってやつが……」

 

 瀬川さんは神妙な顔をしてそう呟く。

 怖い事言わないでくれ。


「そんな事態、私が許すわけがないよ! というこで私が作戦を考えたよ」


 なんて面倒見がいいんだ。少し惚れそう。

 ……なんてことは全く思わない。嫌な予感しかしない。


「作戦名はずばり、

 『さすがだ、佐須駕野君! 林間学校で大活躍、そして人気者!』だよ」


 嫌な予感的中。

 絶対、面倒くさい事態に巻き込まれる予感しかしない作戦名である。


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