第9話「メイドがメイドカフェ」
葵 蒲公英、もといぽぽちゃんとの会話を終えやっとこさ家に辿り着いた。
なんだか今日はとても長い一日を過ごしたような気がする……。
帰ると、香菜が夕飯を作って待っていてくれた。
「すまんが俺とお前の関係の事、話しちゃったよ」
「まあ、仕方ないですね。同じ部員ならそのうちばれそうですし」
「それにしても、詳しくは言えないけどぽぽちゃんやべえぞ。
お前のこと大好きだな」
「うう……、簡便してくださいよ。ああいうの苦手なんですよ」
自分では天才とか、可愛いとか言うくせに人から褒められるのは苦手なんだよなこいつ。
そういうところだけは少し可愛いな。それ以上に非道だけど。
「まあ、明日からもがんばれな」
「有り難うございます。じゃあ今日は失礼しますね」
夕飯を食べ終え、後片付けをしてからいつものように香菜は帰っていく。
「そういえばお前ってどこに住んでるの? 近いん?」
ふと、気になったので聞いてみた。
その辺に下宿しているんだろうなと思っていたがその返事はまさかの斜め上であった。
「いえ、近くの山でサバイバルしてます」
「は? サバイバル!?」
「本当はご主人様の家に住むのが通例なんですが、その、初日に胸とか唇を弄ばれたことから怖くて……」
わざとやったわけではないが、少し悪かったと思っているので何とも言えない。
そんなことより、サバイバルってこいつ正気か?
「いや、女の子が山でサバイバルって危ないだろ!」
「ふふふ、ぼくのサバイバル術は完璧です。木の上に仮設のテントをつくってあるのでばれませんよ。
洗濯などはコインランドリーを利用してます!」
「いや、さすがに親御さんがなんか言うだろ!」
「家に逆らっているのでお金はもらえません。家のことは聞かないでください」
なんか深い事情があるのか……。
まあ、そうでもないとこんなに早く一人立ちしようとは思わないかな?
「大学から充てられる費用では賃貸するには足りませんし」
「そうは言っても、さすがに十四歳の女の子の山暮らしなんて見過ごせねえよ」
でも家に泊めるわけにもなあ……。狭いし。
「とりあえず、瀬川さんとぽぽちゃんに聞いてみるか」
「いや、ぼくは山で大丈夫ですって」
「だめだ。これはご主人様命令だ! お前の学生証に書いてあったぞ『ご主人様の命令は絶対』と」
「ううう……」
さっそくSNS内で今日作った足跡部のチャットを使い、しばらく泊めれる人がいないか聞いてみた。
当然、手をあげたのはぽぽちゃんである。
『はい、はい、はーい! 是非私の家にきてください! 少しの間といわずに、ずっと居てください!』
「足跡部、第一回目の活動を行いたいとおもうよ!」
「わ~い!」
ぽぽちゃんと、香菜は二人で無邪気に喜んでいる。
ちょっとは仲良くなったのかな?
……いやそんなことより。
「わ~いじゃねえよ! 部室狭すぎだろ!」
「しかたないじゃん。ここしかあいてないって言われたし。あるだけ感謝だよ」
使ってないからと与えらた、足跡部の部室は美術部の道具倉庫である。
教室の三分の一の大きさもない。ここに長机一つとイスが四つあるだけである。
狭すぎて四人列に並んでいる。
「とにかく、一回目の議題はずばり、香菜ちゃんの住まい問題だよ!」
「そんな、ぼくの住まいなんてわざわざ部活で悪いですよ」
「何言っているの。部員のピンチを見過ごすことはできないよ」
瀬川さんって意外に面倒見いいよな。
面白がっているだけの可能性も否定できないが。
「それにお前、ずっとぽぽちゃんの家にお世話になるつもりか?」
「うう……。たしかにそれは申し訳ないです」
「何言っているんですか、香菜さん。私の家にずっと居てくれて構いませんよ!
家に香菜さん成分が充満していて、私も幸せです!」
確かに、ずっとこの調子は香菜もつらいかもしれないな。
ぽぽちゃんの香菜への愛はいささか重すぎる。
「まあ、ずっとっていうのは現実的に厳しいと思うよ。
やっぱり、お金を稼いでアパートを賃貸するのがいいと思うんだ
と、いうことで明日は丁度休みだしアルバイト探しにいくよ!」
ずっとぽぽちゃんの家に泊まるって言っても限度はあるし、やっぱりどこか賃貸するしかないよな。
サバイバルなんてアホすぎる。何か起こってからでは遅いのだ。
「ずっと私の家に居ていいのに……」
そうして翌日、足跡部は香菜のアルバイト探しのために招集させられた。
しかし、どうしてその場所がここなんだ。
「なんで集合が秋葉原なんだよ!」
「ここが秋葉原……!」
香菜はやけに目がキラキラしているな。
「は~。香菜さんのメイド服姿最高ですね……。天使です」
ここ最近ずっと制服姿だったからメイド服姿を見るのは初めてか。
確かにちょっとかわいいけど、ぽぽちゃんよだれが垂れてるぞ……。
「だって、香菜ちゃんメイドでしょ? ということはやっぱり一番に頭に浮かぶのはやっぱりここでしょ」
え、まさか瀬川さん。
でも、ここのそれは本職のそれとは少し毛色が違うような……。
それにしても香菜はいつもよりテンションが高めだな。
「へえ~。へえ~! ぼくが見たのと一緒です」
「香菜さん、テンション高めですね! そんな香菜さんも可愛いですね~」
「だってそいつ隠れオタクだから」
「え……! な、なにを言っているんですかご主人様……!」
「バレバレだぞ。乙とか中二病とか国外から来た割にはスラングよく知ってんなと思っていたが、この秋葉原での浮かれようで確信に変わったぜ!」
「だ、だって日本の文化としてアニメが紹介されてて、ちょっと触れてみようと思ったらとても面白くて……うう」
怪しいとは思っていたが、やはりそうだったか。
香菜は顔を真っ赤にして涙目で俯いている。
その顔とリアクションはずるいよ……。俺がまるで虐めているみたいじゃないか。
「だー! ごめんって。俺もアニメとか漫画とか好きだから。
そんなに落ち込まないでくれ」
「オタクな香菜さんもかわいいです……!」
「ぽぽちゃんはもう全肯定だな……」
香菜の隠れオタクを暴きながら秋葉原を散策していると
突然、客引きをしているフリフリ服のメイドさんから声をかけらた。
「あなた、可愛いメイドさんね! コスプレ?」
「え、コスプレじゃないですよ。 ぼくは現代メイド養成学校の生徒ですから」
「うそ! もしかしてプリンスド大学?」
「一応、そうです」
え、もしかしてその界隈じゃ有名なの?
「これを待っていたよ! 香菜ちゃんの可愛さなら絶対スカウトされると思ったの!
そこのメイドさん。この子アルバイトを探しているの。是非どうかな?」
やっぱり、瀬川さんは香菜にメイドカフェでアルバイトさせるつもりだったんだな。
「え、是非うちの店に来てよ! プリンスド大学の子なら大歓迎だと思うよ!」
「うう、ご主人様、お嬢様。ぼくがジュースを美味しくする魔法をかけます……。
み、みっくすじゅーちゅ……、おいしくなあれ……、まぜまぜ……」
香菜はいつものメイド服からフリフリのメイド服へと衣装を変え、さっそくアルバイト体験をしている。
とりあえず、俺たちがお客として練習しているが、これはこれは……。
「おい、香菜! 元気がないぞ! もっと元気よく!」
「む、無理です。 恥ずかしすぎます……」
「大丈夫ですよ香菜さん。めちゃくちゃかわいいです」
いや、ぽぽちゃん。お前鼻血だしてるぞ。
もうリアクションがおっさんじゃねえか。
「ダメだよ香菜ちゃん。お金をもらうということはそれなりの対価が必要なんだよ。がんばれ!」
瀬川さんは応援しているが、顔がにやけている。
絶対面白がっているだろ。
「なんとなく知ってはいましたが、日本のメイドに対するイメージは絶対間違っています……」
本職メイドが言うと言葉に重みがあるな。
俺は正直、日本版メイドの方が好きだけど。
「いいね~かなにゃん。もうかわいすぎ、採用!」
さきほどのスカウトしてくれたメイドさんは顔を輝かせている。
こいつのここでの名前は『かなにゃん』なんだな。お気の毒に。
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