3.甘いお菓子

「っあぁ、王様!」

 アリアの深い森の瞳が、血液の色と混ざり合って、色濃い影の色になる。

 二人の4つの瞳は、彼女の行動を捉えた。「あの子、血に弱いんじゃなかったかしら」そんなことを考えながら見ている。

「んん…手を切ってしまった。誰か手当をする為のものを持っていないかい?」

「えぇ、包帯でしたら…少量でしたらここに…」

 アリアの声は震えている。それはグスタフにはどんな感情が隠されているか読み取ることが出来なかったが、ロネルとイヴにはわかった。

 この声は「嬉しさ」を「心配」で塗りつぶした声。震える口角に不信感を覚えたが、気のせいだとすることにしたのが彼の生まれ持った鈍感さだろうか。


 __美麗の城、王の自室


「んん、騒がしい夜だった」

 グスタフ.ダウデルトは怪我をした自分の右手を見ながらそうつぶやいた。

 すぐに過ぎる仮想空間での日を振り返っていると、彼の部屋のドアノブが回った。鍵は掛けていたから、簡単には開かなかったが、その直後に戸は蹴り破られる。

 暗くて表情は見えない。誰かも分からないが…体格は細く、女性の体形だった。

「っはははは!残念残念!憂いの王様よォ、あんたは自分の存在意義を認められずに死ぬのさ!あはははは!」

 仁王立ちで、チェーンソーを蒸かしながら彼女は言った。

 愛らしい声だった。それなのに、口調は男性の様で、妙な不気味さを感じさせる。

 グスタフは細身の剣「レイピア」を片手に取り、くす、と笑いを浮かべた後。彼女の細い頸動脈に沿って刃を当てる。それに合わせて彼女も彼の白い喉元にチェーンソーを宛がう。

「…僕がロストする死ぬのはわかった。ん、もうあきらめたよ。…でも、最後には甘い思い出を残させてくれよ、ロネル・ベレッタ。」

 哀感の滲む笑顔を見せて、剣を下ろした。その直後に、彼の腹にはチェーンソーの凶悪な刃が刺さり、彼は最後に「影の少女」に甘い口づけを残した。

「…俺に…私に、そんな心残りを作らないで。」

 返り血を浴びたロネル影の少女は青白い月光を浴びて、美しい神の様にも見えるだろう。

 足元に横たわるはらわたを晒した悲しみの王は、そのまま花を添えても美しいと思えるだろう。やがて、彼の存在はバグになる。早く処理しなければ。

「…そういえば、昨日のお菓子がまだ残っていたわ。」

 彼の最後の行動を思い出す様に、唇に手を添えると「あまいものがたべたい」と幼子の様な声でロネルは呟いた。

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美麗の城に血の雨を 狂音 みゆう @vio_kyoyui

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