2.夜更けの薔薇
憂いの王と己を名乗る男。彼は「
王は、白銀色の長髪と、白磁器の様な肌で、彫刻の様に男性的な顔立ちに宝石の様な輝きを放つ濃紺の瞳をしていた。
剣術に優れ、細身の剣を風の様に操るのを得意とした。その刃は人を殺めることは無い。
「ん」と唸り、いつも不思議な口調で喋る男だった。
彼は、このゲームの何百人目かの登場人物。黒い影か、赤い影か、住人か。それはまだ分からない。
___美麗の城、バルコニーにて
「ん…この偽の景色は美しい。」
城のバルコニーに出ると、偽物のゲームの世界を一望することが出来た。広大な庭園には人間の鮮血を浴びた様に赤い薔薇が咲き乱れている。
「あなたはここの星の美しさがわかる人なのね。」
柵に片肘をついて夜空を眺めていた先客が彼に話しかける。彼女はロネル・ベレッタと言う。淀んだ黄色い瞳と、紫と桃の髪が特徴の王女だ。
「澄んだ夜に女性と話せるとは思わなかった。ん、ここの景色はとても美しい。」
元々女性と酒を呑むのが好きだった彼はこの機会を喜んだ。影の奇襲が行われる夜に一人ではない、というのもあるのかも知れない。
「おー、おー、こんな場所の夜空なんか見てるのがそんなに楽しいかあ?」
一人の執事がバルコニーの床を踏む。彼はイヴ・キャノット。御節介な性格だが、おそらくこの城の中ではマトモな人物、だろうか。左目を前髪で隠している若い成人の男。
「みなさん、こんな夜更けにこんな場所で…何をしていらっしゃるのですか?」
彼女は騎士団所属のアリア・マーティ。女性で、しかもまだ少女だというのに副隊長の座に就く実力者だ。深い森の様な深緑色の美しい瞳をしていた。
「王様に王女様、執事さんと忙しそうな方々ばかりではないですか…良いのですか?お仕事は。」
「いいのよ!別に国がある訳じゃないから、公務もないわ!執事はさぼりだし。ね、そうでございましょう?」
怪訝そうな顔をするアリアとそれに盛大におかしな言い訳をするロネル。
「さぼりって、お前なぁ…。俺は落とし物を取りに来ただけだ。」
「…ん、確かにその通りだね。僕は何もするべきことが無い。夜の不安をまぎれさせるのには夜空を見るのがとてもいい。」
あきれ顔のイヴと肯定してしまうグスタフ。この日々が続いて欲しい。この中の誰かがそう思った。
まだ、わからない。手探りで自分の生死を決めている。
「っぐ…痛い。」
グスタフの悪い手癖だ。二本の対となるナイフの片割れを暇つぶしに、と手の上で弄ぶ。
白い手からぽたり、鮮血が落ちて真紅の薔薇を深紅に染め上げた。
「っあぁ、王様!」
取り乱した様子のアリアが彼の傷を癒す。それが何か二つの意味があるとも誰も思わなかった。
この四人の中に、人間はひとりだけ。
淀んだ瞳が、赤い薔薇を見て三日月の形に曲がった。
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