第30話 制服軍団来訪
目覚めると、左半身が寒い。凍るようだ……逆に右半身は暑い……ふむ。左はユキが俺の体に足を絡ませ、右はクロの頭が俺の肩に乗っかり寝息をたてている。
昨日は急に意識が遠のいたけど、あれは何だったんだろ? 妖術か? まあ、俺にはなんともないから、深く考えないでおこうじゃないか。
ふむ、二人とも良く寝ている。俺は首を少しあげ左右の腕を動かしてみるが二人とも起きる様子はなかった。俺は慎重に密着している二人から体を離すと起き上がり大きく息を吐く。
ベッドから降りて寝ている二人に布団をかけてやると、ユキの顔を覗き込む。うん、良く寝ている。見ていたら我慢できなくなり、彼女の頬に軽くキスをすると起きないのをいいことに唇にもチュッと。
彼女に触れた唇はひんやりと冷たく、それがまた俺には心地良かった。いや、体自体は冷え切っているんだけどな……風呂に入った方がいいかもしれん。
暖かいココアを飲んだけど、体が芯から冷え切っているようで埒が明かないと思った俺はやっぱり風呂に入ることにして、お湯を張り風呂に浸かる。
いやあ、極楽極楽。朝風呂ってのも良いな。体が冷えていたからよけい気持ちいいぞ。
「夜叉くんー。冒険者が来たようよ」
いつの間にか起きていたユキが脱衣場の外から俺に声をかける。良く俺のいる場所が分かったな……たぶん俺を探してくれたんだろうなあ。
「おお、ありがとう!」
俺は風呂の扉越しに大きな声でユキに言葉を返す。
――その時、風呂の扉が開く。
お約束と言えばお約束なんだけど、事が事だ。入って来たのは金糸で星柄のモチーフが入った白のブラジャーに同じ柄のパンツだけの姿をしたユキだった。ブラジャーのサイズはもちろん一番小さいのだろう。
いや、そんなことはどうでもいいんだが。
本来ならばこれはお約束のサービスシーン。ラッキーな俺! ってパターンなんだけどユキが入って来たとなると話は異なる。
下着を着ているから少し安心したけど、彼女と一緒に風呂に入ったら氷風呂になってしまうのだ。せっかく暖まった体がまた冷え切ってしまう。
「ユキ! 俺はもう出るつもりなんだけど?」
俺は慌ててユキに出ることをアピールすると、ユキは残念そうな表情になり腰に手を当て、口を尖らせる。
「もう。せっかく背中を流してあげようって思ったのに」
「それで下着姿だったのか?」
「裸の方がよかった?」
「……どうせなら……」
って何を言ってるんだよ俺は! ああ、風呂に入らないつもりだったから素っ裸じゃかったのか。ユキは確か「風呂には裸で」とか言ってたものな。
いやダメだダメだ。つい欲望に任せて受けごたえしてしまったが……
「じゃあ、夜叉くん、今日の夜一緒に入ろうか?」
ユキは頬を染めながら上目遣いで俺を見つめてくる。思わず俺はそのまま頷きそうになり、イカンイカンと湯の中に顔を
いやでも、この流れで「やだ」とは言えないよな。今晩は覚悟を決めよう。
「あ、ああ」
俺は湯から顔をあげ、ユキに笑顔で答える。こうして俺の氷風呂が確定した……
◇◇◇◇◇
風呂からあがり、ダンジョンの入口まで行くと制服姿の男でごった返していた! 何事だ! ここは人間の学校じゃあねえぞ。
何やら引率らしき中年のスーツ姿の痩せた男までいるじゃないか。この人は教師だろうか? 制服姿の学生たちはみんな学校指定のボストンバックを持ち思い思いにしゃべっている。
うるせええええ! ここは学校じゃねえんだぞ。いや、来てくれて嬉しいんだけど。
制服姿と言えば……俺の知っている人はマリコだけで、彼女と約束した日は今日だったはず。ならば、マリコとライル少年はこのうるさい連中の中に居るはずだ。
ライル少年は当てにならないので俺はマリコを探そうと人をかき分けながらウロウロするけど、みんな同じ制服を着ているからなかなか見つからねえ。
ああ、そうか、マリコを呼べばいいんだ。何でこんな簡単な事に気が付かなかったんだろう……
俺は大きく息を吸い込み、声を出す。
「マリコ―! いるか?」
俺の声に学生たちはシーンと静まり返る。
すぐに群衆から押し出されるように、長い黒髪を頭頂部でまとめた髪型に短いスカートのマリコが姿を現した。
「夜叉さん、みんなに声をかけたら……みんな来ちゃいました」
マリコは可愛らしく舌を出してバツが悪そうに頭をかくが、俺としては大歓迎だ。
「いや、俺としては大歓迎だけど食事とかどうするんだ?」
「みんなで手分けして持ってきてます!」
こんだけ人数がいたらそれなりに運べるってことか。男も半分くらいいるし。
「なるほど。歓迎します。みなさん! どうぞゆっくりとキャンプを楽しんでください!」
俺は中年の引率の教師? と目を合わせた後、周囲を見渡しながら歓迎の意を伝える。
学生たちから歓声が上がると、俺は中へと彼らを導く。
道中、一応年長者に挨拶をしておこうと思って、中年のスーツの男に声をかけお互いに挨拶を交わす。
彼は俺の予想通り、マリコのクラスを担当する教師で、ダンジョン見学会の責任は彼が持つとのことだ。彼はマリコの話を聞いた時にピンと来たそうで、ちょうど週末だったので、来れる生徒を募ったところ、彼のクラスの生徒大半が来ることになって驚いたと言う。
「邪悪そうな顔をしているけど、引き締まった体が素敵よね」
「えー、あの目つきは少し怖いわよ」
「そんなことないわよー。野良犬のような雰囲気がなかなかいいじゃない」
俺が教師の男と話をしている間にも女生徒から、声が聞こえて来る。聞こえてるからな! 俺の聞き分ける力は人間なんて目じゃねえんだぞ。
広場に到着し、彼らの人数を数えてみると、男がライル少年と教師を含めて十二人、女がマリコを含めて九人。なんと合計二十一人だ! うおおお。俺のテンションは上がりっぱなしだぜ。
彼らがこれからキャンプをしてくれるんだぜ。すげえぞこれは!
ライル少年の姿をまだ確認できてないけど、彼も来ているんだろうか? と思ったらマリコの姿も見えない。
不思議に思った俺はまさか迷っていないだろうなと念のため入口まで戻ってみると……居たよ。マリコとライル少年が。
ライル少年はまだビビっているみたいで、ダンジョンの入口にある階段のところで腰を落としており、マリコが彼を引っ張り上げようとしていた。
「ライル少年……ここは安全だから。万が一があれば俺が何とかするって」
俺が安心させるようにライル少年に声をかけると、彼はようやく立ち上がり、マリコの腰を後ろから掴んで彼女の後ろに隠れながら広場へと向かって行った。
この臆病さは何なんだ……ワザとやってんじゃないだろうな。
広場に戻った俺はマリコと教師にユキたちを紹介しても大丈夫か尋ねると、人間以外に彼らは会ったことがないそうで友好的なら大歓迎ってことだった。
そこで俺はユキとクロ、座敷童をステージの上で紹介する。
クロは彼ら学生たちと同じくらいの年齢に見えるから、すぐに女子生徒と仲良くなり一緒に夕飯の準備を手伝っている。ユキはこの前一緒にいたマリコと親し気に話をしているな。
良かった良かった。
俺は中年の教師にビリヤード台などが置かれた三つの区画を紹介した後、彼と一緒に夕飯の料理用の火おこしを手伝ったりと和やかな時を過ごす。
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