第29話 迷路の検討

 ジェネラルと話込んでしまい、いつのまにか四時間ほど経っていたようだ。その間に彼が連れて来た冒険者は起きたらしいけど、ユキとクロが相手していてくれた。

 ジェネラルとの協議の結果、この冒険者たちは俺のダンジョンの外で解放するってことで話がまとまった。彼ら冒険者にしてもラビリンスで気絶したにも関わらず、無事帰還できるなら文句はないだろう。

 

 その晩、クロとユキに二階の階層について相談したんだけど、迷路の構造はともかく、目的設定をどうするのか難航した。単にスタートとゴールを設定するだけなら簡単なんだが、それだけじゃ味気ないんだよな。

 賞品を準備する? 迷路の中に鬼役の妖怪を配置して追いかけまわしてもいいけど、ゴールした時のうまみがないと迷路をやってみようと思わないよな。

 

 俺は布団に寝転がり、何かいい案はないかなーと考えているとだんだん眠くなってくる。しかし、俺の部屋の扉をノックする音で一気に目が覚めた。

 布団から起き上がり、部屋の扉を開けると薄いブルーに星柄のボタンダウンのパジャマを着たユキとキャミソールに船で使う羅針盤ぽいマークが入ったパンツ姿のクロが立っていた。

 ユキはパジャマの上着だけを着ていて、ズボンははいていないようだったけど、パジャマのサイズが大きくて腕の袖が指先から十センチほどオーバーしていて、服の裾も彼女のふとももの真ん中くらいまであるから、ズボンが無くても下着は見えない。

 クロは……パンツが丸見えだな……いや、パンツの上から何も着てないから当然といえば当然なんだけどな! 上も赤色のキャミソールだけで下着は着ていない様子だった。

 

 二人とも寝る前の恰好なんだろうけど、なんともまあ……薄着だ。てかクロは下着姿だろ! 何か着ろよ。

 

「どうした? 二人とも」


「クロがいいアイデアを思い付いたのよ! 夜叉くんに聞いてもらって、良さそうだったら私が構造の計算をしようと思って」


 それならそれで、普通に食堂で話をすればいいじゃないか! 寝る恰好でここまで来られても……変な気持ちになったらどうするんだ……上目遣いで俺を見上げるユキのパジャマの襟から白い下着がチラっと見えるんだけど……

 ああ、クロがいるから、そんな気持ちにはならないとユキは判断したのか。納得。

 

 俺の悶々とした気持ちはどうでもいい。クロがいいアイデアを思い付いただとお! ポイントのこととなると俺の気持ちは一気に切り替わる。

 

「おお。クロ、どんなアイデアを思いついたんだ?」


 ウキウキとした感じで俺が聞くと、クロが応える前にユキが彼女を遮る。

 

「夜叉くん、立ってるのも何だし……中に入れてくれないかな?」


「あ、ああ。入ってくれ」


 俺はユキとクロを中に迎え入れるが、俺の部屋は何もないんだよなあ。折りたたみソファーベッドの上に布団を敷き、それ以外に服を入れるクローゼットのみだ。小物類は一切この部屋にはない。

 二人は俺の部屋をしばらく観察した後、顔を見合わせため息をつき俺の布団の上に座る。

 

「クロ、とりあえずこれを膝にかけておけ」


 俺はクローゼットから出した白色のTシャツをクロに投げる。パンツ丸出しだからな……

 

「おお。マスター殿の服でござる!」


 クロは何故か俺のTシャツを頬ずりし始め、ユキがご不満そうな顔になってしまう。いや、そういう目的じゃないからな!

 ユキの目がきつかったので俺はユキにもTシャツを投げる……ようやくユキの厳しい雰囲気が収まってくれたから、俺はホッと胸をなでおろすのだった。

 

 もういいや……クロのパンツのことはほっておこう。

 

「で、クロ。どんなことを思いついたんだ?」


「おお。マスター殿。タイムアタックにしたらどうです?」


「タイムアタックか! 確かに燃えるかもしれないな」


 スタートからゴールまでの時間を計測して順位をつけていくことで、競争意識をあおり、ゲーム感覚で何度も挑戦してくれる人も出るだろう。

 となると、コースを覚えてしまったら意味がないからランダム階層にした方がいいな。

 

「ランダム階層にしたらおもしろそうだな……」


 俺がボソリと呟くと、クロが不思議そうに首をかしげる。

 

「ランダム階層って何でござる?」


「ランダム階層ってのは、入るたびに壁の位置がランダムで変わる階層なんだ。スタートを一階の階段を降りた位置にして、ゴールを三階の階段を降りたところにすればいいかな」


「おおお。それは、手間いらずで素晴らしいです!」


 そうだろう、そうだろう。何より素晴らしいのは一度設定してしまえば、俺が壁をいじったりする必要が無い事だな。しかし、階段や壁の位置が変わるだけでなく、クロと作った一階から三階まで落ちる落とし穴もなくなってしまう。

 一階の広場から三階の居住スペースに移動するために、二階の道が毎回変わるのは手間か……


「あー、でもランダム階層にしたら、俺達の移動が大変になるよな……」


 俺のダメ出しにユキが待ったをかける。


「エレベーターを設置すれば大丈夫と思うわよ。エレベーターは壁の配置が変わっても上下移動はできるから」


 なるほど! 高級設備「エレベーター」か。エレベーターは階層ごとの出口が異なっていても不思議空間で繋がっている便利な装置なんだよな。

 さらにエレベーターは移動可能な階層を指定することだってできる。一階と三階を移動可能にすれば全て解決するな……一階の広場の裏と三階の居住スペースのそばにエレベーターの出口をせっていしたらよいか。

 

「エレベーターは高そうなんだよな……ポイントが」


「そうでもないわよ。一階層あたり五十ポイント。三階までだから百五十ポイントね。ランダム階層は十五ポイントよ」


「おお。お安い。ライル少年たちが来てくれてポイントが入ったら設置できそうだな」


「うん。この前のマミたちのポイント分でつくっちゃってもいいけど?」


「ああ。ライル少年たちに迷路の感触を聞いてからにした方がいいかなあ」


「そうね。せっかく設置しても彼らが興味をもたないのなら、もったいないだけだしね」


 よおし、次は迷路か。ああ、トレーラーハウスやらお風呂やらの方が先かな。

 ポイントがいくらあっても足りないぞ。

 

「ユキ、クロありがとう。今日はもう寝ようか」


「うん」

「そうですな」


 俺の解散の言葉に二人も賛成し、彼女らはそのまま布団に潜り込む。

 え? 俺の部屋だぞ……ここは。

 そのソファーベッドは一応ダブルサイズだから、ユキとクロの二人が潜っても問題なく快適に眠ることができる。

 が、問題はそこじゃねえ。

 

「ユキ、クロ……そこで寝るの?」


「うん」

「そうですな」


 さっきと同じセリフじゃねえかよ。

 

「俺は?」


「もう……」

「ハアハア」


 クロの荒い息が気になるが、ユキは布団をめくり、ゴロンと転がるとここに来いと手招きする。

 えええ、三人で寝るってのかよ。ユキと二人がいいなあとは言えず、俺が固まっているとユキがソファーベッドから降りてきて俺の後ろに回り込む。

 

 後ろからユキに抱きしめられたかと思うと、突然の浮遊感! 気が付くと宙を舞っていた俺はソファーベッドに無事着地する。

 俺の上からユキが落ちてきて、お尻から俺の胸へと着地すると彼女が落ちてきた勢いで俺は仰向けに倒れ、彼女は股を左右に広げて膝立ちの姿勢になり俺の胸に両手をついた。

 

 この視界から見える光景と俺に跨ったユキの体勢は少し興奮する……とか考えていたら急速に意識が遠のいていく……

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