第28話 ジェネラル
――翌朝
ご飯と鮭、味噌汁、ほうれん草のお浸しという朝ごはんを食べた後、俺はユキに相談して広場を拡張し新しく仕切りで区切られた区画を三つ作ることにしたんだ。
三つの区画とはピリヤードルーム、ダーツルーム、卓球ルームになる。区画を作った後にそれぞれのアイテム数を四つまで増やす予定なんだよ。これで、団体客でも充分に遊ぶことができるだろう。
ユキとクロと共に広場まで来た俺は、まず区画の整備のためにダンジョンの壁を消したり、増設したりとユキに相談しながら部屋らしく様相を整える。次にクロが光ゴケを天井に張り付けていく。
彼女は今日も猫のモチーフが描かれた紺色のワンピースに裸足だ。髪留めを着けていなかったから、ユキにピンを四つほど借りて俺がクロの髪の毛を抑えている間にユキが綺麗にピンでクロの髪を固定してくれた。
これで、髪の毛は邪魔にならないだろう。しかし……またしてもワンピースで天井に張り付くのかよ……気にしないって彼女は言っていたけど、やはりパンツが見えている。
今日は白の下地に黒の水玉模様か。ワンピースはいつも同じ色と柄なのに、パンツの柄は毎日違うんだな。だったら別の柄の服も着ろよ!
一方のユキの装いは、純白の着物に下駄を履いていてクロと同じく毎日同じ格好になる。うーん。え? 俺? 俺はジーンズに白のTシャツだけど? 靴はスニーカーだよ。
あ、人の事言えないわ……俺も同じ格好じゃないか……いや、洗濯をしていないわけではないんだよ。ジーンズはたまにしか洗わないけど、Tシャツは毎日洗っている。靴下もね!
ただ、柄が全部同じなだけなんだよな。何故って? 一ポイントでTシャツは十枚出て来るんだけど、柄は同じになっちゃうんだ。勿体ないから、同じ柄でも着てるってわけなんだよね。
あ、そういうことか……俺は気が付いてしまった……何でこんなことに今まで気が付かなかったんだよ!
クロとユキも俺と同じ事情だっただけなんだ……
俺はクロとユキが同じ服を着ていた事情が分かると、すまないという気持ちがふつふつと沸いてきた。服くらいいろんな種類を用意してあげたいなあ……
俺がクロのパンツを横目で見ながら、こんなことを考えていると彼女の作業が完了する。
同じように残り二つの区画を整備すると、ユキにビリヤード台などのアイテムを出してもらい三つの部屋が完成する。
完成したことだし、広場のステージ横にあるテーブルセットで休憩しようとココアを準備していると冒険者がダンジョンにやって来る。
ライル少年とマリコは明日来る予定だし、ラビリンスの冒険者は一旦人間の街に帰るだろうからまだ来ないだろうな……となると見たことのない冒険者か以前ビラを渡した冒険者のどちらかかなあ。
俺はココアを準備する手を止めて、さっそくダンジョン入口へ向かう。
遠目だから細かいことまで分からないけど、男の冒険者が二人寝転んでいる。入口で何故寝転んでいるのだろうと不思議に思いながら、入口へ近づいていくと事情が呑み込めてきた。
ダンジョンの入口にある階段を少し登ったところに仁王立ちしている異形の長身……きっとこいつが冒険者二人を床に転がしたんだろう。
異形の長身は紅色の牛頭で下あごから長い牙が二本左右に生えている。銀色のシャツを胸まではだけさせ、真っ白なスーツを身にまとっている。服の上からも分かるほど筋肉が盛り上がり、両腕なんかもうクロの胴体くらいの太さがありそうだ。
「ヘーイ! お前さんが夜叉って奴かい?」
見た目とは裏腹にやけに陽気な調子で俺に声をかけて来る牛頭の長身。
「え、ああ。そうだけど、何用だ?」
「用ってほどの用じゃねえんだけど、お前さんの戦いっぷりに俺っちは感心してなあ。一度、話をしてみたかったってわけだぜ」
「そ、そうか……そこの冒険者二人は?」
「あいつらは俺っちのダンジョン――ラビリンスに来た冒険者だぜ。命を取らずにお前さんの土産として連れて来た。まあ、気絶しているがな!」
「冒険者がお土産って……また豪快だな」
「いやあ、お前さんがラビリンスで無双する前に冒険者と話をしていただろ? だから、お前さんへの土産はポイントがいいんだろうと思ってな」
聞かれていたのか。俺がラビリンスで怪我した若い冒険者と髭面の二人に、俺「のダンジョンに来てくれ」と交渉していたことを。うん。ポイントが入るのならば、会話くらいどうってことはない。
冒険者二人の二ポイント分なら会話しようじゃないか。
俺はニヤリとニヒルに口の端をあげると、白いスーツ姿の牛頭へ右手を差し出す。彼は快く俺と握手を交わしガハガハと声をあげる。
「よろしく。俺は夜叉」
「ご丁寧にどうも。俺っちはラビリンスのダンジョンマスターをやってるミノタウロスジェネラルだ」
なんとダンジョンマスター自らが興味を持って俺のところに来たらしい! ラビリンスはダンジョンマスターからモンスターまで首尾一貫して戦闘狂らしい。
俺の戦いが面白かったというだけで、ダンジョンマスターが自ら訪ねてくるくらいなんだからな……
「ここじゃなんなんで、奥のテーブルで話でもするか?」
「オウケエイ! それはご機嫌だな。こいつらも連れて行くがいいか?」
牛頭――ミノタウロスジェネラルは倒れ伏す二人の冒険者に目をやると、彼らの元までゆっくりと歩を進め左右の肩にそれぞれ冒険者を一人づつ抱えあげる。
「うん。彼らも気が付いたらもてなそう」
「本当に変わってるなあ。このダンジョン! 面白れぇ!」
冒険者との真剣勝負を行うラビリンスと真逆のことを俺のダンジョンは目指しているからなあ。来た冒険者と慣れ合って、もてなすとかジェネラルからするとゾッとするのかもしれない。
「面白いかな?」
「ああ。面白いぜ! 俺っちの考え方とは相入れないが、ダンジョンってのは個性が大事だと俺は思ってるんだ。その点、このダンジョンはいいぜえ」
「ありがとう!」
人気ダンジョンのダンジョンマスターから褒められて悪い気はしない。俺の方針は悪いもんじゃあないと少し自信が出て来たぞ。
広場に戻るとユキとクロが俺を待っていてくれたみたいで、俺がジェネラルと一緒に戻って来ると少し驚いた様子だった。俺は二人に冒険者たちを任せてジェネラルとテーブル席に座り談笑することになる。
ジェネラルは酒を飲んでみたいというので、奥から酒を持ってきてテーブルに置くと、彼はお猪口に酒を注ぎ少しだけ口につける。
「こいつはいいな! うめえや!」
どうやら気に入ってくれたみたいで、ジェネラルはお猪口に入った残りの酒を一気に飲み干す。
「おお。気に入ってくれて嬉しいよ」
「おう。今度、うちのリキュールを届けさせるぜ。悪く無い味だから試してみてくれ」
「ジェネラルご自慢のリキュールかあ。それはおいしそうだなあ」
「味は保障するぜ!」
ジェネラルは終始陽気な感じで、朗らかに話をしてくれるから俺も酒を飲みながら和やかな雰囲気で二人で会話を続けているうちに、俺とジェネラルはすっかり意気投合する。
まさか正反対の方針を持つラビリンスのダンジョンマスターとここまで気が合うなんて思ってもみなかった。彼は話上手で聞き上手なんだろうな。話をしていてすごく楽しい。
うちから牛鬼を派遣していることを彼は知っていて、牛鬼の戦いっぷりを褒めたたえてくれた。うっしーは戦おうとしないから連れて帰って契約を切ろうとしていたんだそうだ。
そこへ牛鬼が代わりに来てくれてジェネラルは大満足しているということらしい。
「おお。そうだ。俺っちも一ついいアトラクションを思いついたぜ」
「どんなアトラクションなんだ?」
「迷路とかどうだ? 壁をいじるだけだからポイントも要らないだろう? なんなら冒険者を追う鬼役にうちの若いのを貸し出してもいいぜ」
「迷路! いいかもしれない。二階を改装して……」
「お。完成したら俺っちにも見せてくれよな!」
「もちろんだよ!」
迷路か。いいかもしれない! 何よりポイントがかからないってのが素晴らしい。まるで受けなくても、ポイントを全く損しないってのが最高だ!
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