第27話 風呂でのハプニング

 俺のダンジョンに戻り、広場に到着するといつの間にかアイテムが増えてるぞ。ユキとマリコは何かで遊んでいる。ええと、ダンジョンの壁に丸い的を置いて、マリコがダーツを投げているな。

 彼女たちの傍には他にもビリヤード台、卓球台がそれぞれ一台置いてあり、遊んだ形跡が見て取れた。

 

「今帰ったよー」


 俺は呑気な声で二人に声をかけると、肩に担いだライル少年を無造作に床に落とす。

 俺の声でようやく気が付いたマリコはライル少年を見とめると、全力疾走で彼に駆け寄りしゃがみこむと、彼の頭を愛おしそうに抱きかかえ膝枕をする。

 

「ありがとうございます!」


 目に涙を浮かべ俺に感謝を述べるマリコは愛おしそうにライル少年の頬を撫でる。

 

「夜叉くん、マリコさんにいろいろ教えてもらったの」


 ユキは少しバツの悪そうな顔でビリヤード台の淵を掴む。

 

「いや、手軽に遊べるカラオケのようなアイテムはあればあるほどいいと思う。ユキのことだからポイントも計算してるんだろ?」


「ポイントは全部五ポイント以下よ。そこは大丈夫!」


 ユキは表情が明るくなり、腰に手を当て無い胸を反らす。


「見たところ、ダーツセット、ビリヤード台、卓球台の三つかな?」


「うん。全部で十五ポイントよ」


「安いな! カラオケセットよりよっぽどリーズナブルだな」


 俺とユキが盛り上がっていると、マリコが膝にライル少年の頭を置いたまま微妙な表情で俺たちを見上げる。一方クロはというと、いつの間にかダーツで遊んでる。

 クロには働いてもらったから、ダーツで楽しめるのならそっとしておいてやろう。

 

「お約束通り、このまま朝までダンジョンにと思ったんですが……寝るところもありませんので後日でも構いませんか……お風呂も着替えも無いですし……」


 ああ、確かに言う通りだな。マリコはライル少年の身を案じて何も持たずにここにやって来たからなあ。ライル少年が起きたら一旦戻ってもらってもいいかあ。

 俺はユキに目くばせすると、彼女はうんうんと頷くので恐らく俺と同じ考えだと思い少し安心する。

 

「分かった。ライル少年が起きたら一旦帰ってキャンプの準備をしてくるといいよ」


「お友達も誘ってきます。二日後に必ず来ますので。もちろん、お友達とここでキャンプするのとは別にです」


「おお。それは嬉しい! 待ってるよ。じゃあ、俺達は一旦、奥に戻る。ライル少年が起きたら帰ってくれていいよ」


「ありがとうございます! 本当に助かりました!」


 マリコは座ったままではあるが、深々と頭を下げる。最初の印象からめんどくさい奴だと思ってしまったが、実は常識をわきまえた人だったんだなと改めて認識する。

 ライル少年はアレだけど……好きこそなんとかってやつなのかな。マリコも……

 


◇◇◇◇◇



 俺はユキの作った鶏肉とかぼちゃのシチューを食べた後、一番風呂をいただいている。風呂を洗ってお湯を張ったのは俺だから、俺が最初に入るんだ! といつも誰の了承も取らずに一番風呂をいただいている。

 ラビリンスで助けた冒険者だろ、ライル少年とマリコとそのお友達だろ、うっしーのお客さんは……当てにしてはいないが楽しみだ。おお。これから大量にポイントが入りそうだぞ!

 

 俺は湯船に浸かりながらに口元が緩むのを抑えきれないでいる。入れ食いじゃないか。素晴らしいぞ。このままいけば、俺のダンジョンも赤貧から貧乏くらいにすぐレベルアップするんじゃないか?

 マリコと先ほど話をしていて思ったのだが、風呂だけじゃなく簡易宿泊施設は欲しいな。プライバシーが保てて、布団かベッドがあれば手軽に宿泊することができる。

 

 マリコの発案だろうけど、ビリヤード台など、ダンジョンの中で遊び道具が揃ってきたからマリコたちに手軽に宿泊してもらえるようにと思ったんだよな。キャンプ用品を持ってダンジョンまで徒歩で来るとなるとやはり大変なのだ。

 ダンジョンは人間の街の近くにあるわけではないし、彼らの使う乗り物も俺のダンジョンの前まで来れるわけではない。

 乗り物から降りて、人間の足だと一時間以上歩かなければ俺のダンジョンには到着しないんだよな……マリコたちもそうだが、一般人だとキャンプセットを持ってここまで来るのは割にキツイと思う。

 食材も持たないといけないわけだしさ。

 

「マスター殿ー! そろそろ出るです?」


 おおっと。考え事をしながらお湯につかっていたら長湯してしまったみたいだな。ユキが風呂に入る時間はだいたい決まっているから、彼女が風呂に入る前までにクロが入らないとクロが凍えてしまうんだったか。

 俺は急ぎ湯船から出た時、風呂の扉が開く……出るまで待てよ……

 

 予想通りって言うほどじゃないけど、クロがすっぽんぽんで俺と目が合う。今は俺も素っ裸だけど……

 

「クロ……もう出るから少し後ろを向いててくれないかな……」


 俺が後ろを向いてもいいんだけど、そうすると風呂から出る事ができないからさ……クロが今いる場所が脱衣場なわけで、そこに俺の服もバスタオルも置いてあるんだ。

 しかし、クロはボーっとした様子で俺の言葉が聞こえていない様子なんだけど……このまま素通りした方がいいか?

 

「裸……マスター殿……の」


 裸、裸と呟いてるけど、この前風呂に入って来ただろうが……あ、あれはユキだった。あの時は酷い目にあったよなあ。冷水を浴びてるんだもん、ユキの奴……

 

「す、すぐ服を着るから後ろ向いててもらえるか?」


「う、後ろからギュですか……不覚にも……」


 突然顔が真っ赤になるクロ。やべえ、何か変なスイッチが入ってるぞこいつ……仕方ねえ。強引な手に出るか。

 俺は一歩進み、クロの至近距離までにじり寄ると彼女の腰を両手で掴むと、そのまま上へ彼女を持ち上げると一回転。これで、俺と彼女の体が入れ替わったので、俺は彼女を降ろし素早く風呂の扉を閉じる。

 クロは風呂場に、俺は脱衣場に位置が変わったってわけだ。最初からこうしておけばよかった。

 

 風呂の扉の奥からまだクロの声が聞こえてくるけど、俺は聞かなかったことにして迅速かつ的確にバスタオルで体を拭くと、ジーンズとTシャツを着て脱衣場を後にした。

 

 風呂からあがり、暖かいココアを準備していると風呂場から悲鳴が聞こえる。何事かと思いココア用に沸かしたお湯が入ったポットを一旦コンロに戻し風呂場の様子を見る為に脱衣場の扉の外めで足を運ぶと……

 

――全裸のクロが震えていた……あー。俺のせいで遅くなってしまったのか……これはユキと風呂でエンカウントしたんだよな。幸いクロは俺に背を向けた状態で体育座りして震えていたから、いけない部分は俺の目に入らずに済んだ。

 胸はまだいいがって良くないけど、下半身はさすがに……アウトだからな……見えなくてよかったよ。

 

 俺はクロにバスタオルをかけてあげると、彼女の体をバスタオルで包む。そのまま震える彼女を姫抱きすると食堂まで連れて行って暖かいココアを飲ませてやった。

 ようやく彼女の震えがとまってきたので安心した俺は自分の分のココアを入れて彼女の向かいに座る。

 

 やっぱ寝る前は暖かいココアだろ。

 

「マスター殿、かたじけない……」


 クロはココアにフーフーと息を吹きかけながら少しココアを口につける。猫だけに猫舌なんだよな。クロは。

 

「すまんな。クロ……長湯で遅れてしまって」


「いえ、そうではないのです……マスター殿が出た時間からだと、ユキ殿が来るまでに普通は間に合うんです」


 言ってしまったという顔になるクロ。

 

「ん?」


「い、いやなんでもござらん。マスター殿の裸を見てつい……」


 後半は何を言ってるのか聞こえなかったけど、クロは顔を真っ赤にしてココアの入ったマグカップで自分の顔を隠すように照れている……何があったのか、これ以上突っ込まないでおいたほうが良さそうだ……

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