第25話 守銭奴

 髭面が言うに、モンスターパニックとは俺が見た通りモンスターが大量発生するイベントみたいで、最初はミノタウロスサーヴァントってモンスターが大量に発生して、そいつらを倒し切ると次にミノタウロスキャプテンってのが大量に沸くらしい。

 それを倒し切ると、最後はラビリンスデビルってのが単独で出る。彼らはこいつをボスと呼んでるそうだ。ボスを倒すと、宝箱が三十個くらい出て来る。これにてイベントが終了ってわけだ。

 これが通常の流れなんだけど、今回はモンスターパニックが始まると、ミノタウロスサーヴァントではなくミノタウロスキャプテンが大量に沸いてきた。不審に思いつつも、ミノタウロスキャプテンを全滅させると、次にミノタウロスチーフ、ミノタウロスメイジが大量に沸いてきたそうだ。

 この二体はラビリンスの二十階付近にいるとても強いモンスターみたいで、特にメイジの魔法が厄介で冒険者たちは全滅の危機に瀕しているらしい。


「なるほど。じゃあ、全員他の階に逃げないといけないのかな?」


「それほど簡単じゃあねえぜ。逃げるといっても奴らを振り切らねえといけないからな」


「ふむふむ。冒険者は全部で何人いるんだ?」


「俺達を入れて十五人だ」


 髭面は悔しそうに拳を床に打ちつける。ほう。十五人か……なるほど、なるほど。

 俺はニヤリと嫌らしい笑みを浮かべる。


「どうしたってんだ?一体?」


 髭面は俺が突然嫌らしい笑みを浮かべたことで、怪訝な顔で俺の様子を伺っている。


「俺が十階にいる冒険者を全て救い出そうじゃないか。なんならボスも倒してもいい」


 俺はきっとゲスい顔をしているだろう。そう、これは命のかかった冒険者たちの弱みに付け込んだ悪魔的な取引。


「あんた一人でどうにかなるようには思えないが?鉄パイプだけでどうしようってんだ?」


 あー、鉄パイプね。要らないやもう。

 俺は手に持った鉄パイプを放り投げると、鉄パイプはいい音を立てて床に転がる。

 すぐに曲がって使い物にならなくなるし、鉄パイプはラビリンスのモンスターを傷つけないようにする俺の配慮だ。

 俺はポイントのためなら、モンスターたちもぶっ倒そう。なあに、向こうは戦いたくて仕方無いんだろう?

 ポイントになるなら体を動かすのも悪く無い。


「条件がある。ボスまで倒したら、ここにいる冒険者全員で、俺の指定するダンジョンへキャンプ道具を持って訪ねて来てくれ」


「何言ってんだ?」


 何ってポイントを稼ぎたいだけだ。俺はジーンズのポケットから、座敷童に書いてもらった俺のダンジョンのビラを取り出す。

 ビラはポケットに入れていたから、折りたたまれていたけど、そのまま髭面に投げ渡す。


 髭面は眉間に皺を寄せたまま、折りたたまれたビラを開くと、中に書かれた文字を読み始めた。


『キャンプできます!』

『カラオケあります!』

 といった俺のダンジョンの宣伝がビラには書いてある。


「……罠だったとしても構わねえか。地下一階だしな。分かった条件を飲もう」


「二十四時間、そのダンジョンの一階に留まること。それでいいか?」


「あ、ああ。あいつらが助かるなら安すぎるぞ。あんたの条件は……」


 安くなんて無えよ!

 どんだけポイントが入ると思ってんだよ。俺がゲスい顔になるくらいだぞ……


 俺は同意を求めるように黒猫の姿のクロに目をやると、彼女は身震いしているではないか。

 ふふ。ふふふ。


「クロ、行ってくる。ははははは」


 愉快、愉快だぜ。

 ミノタウルスメイジだ? ミノタウロスチーフだ? 問題無い、全部叩き潰してやる。

 全部だ……


 俺は暗い笑みを浮かべながら、階段を登り十階へと足を踏み入れる。


 冒険者を助けながら、モンスターを倒すだけの簡単なお仕事だぜ。


 周囲を見渡すと、さきほどと同じで牛頭達が大量にひしめいてるではないか。ハンマーを持った牛頭がミノタウロスチーフで杖を持った牛頭がミノタウロスメイジだろうな。見た目通りだとすれば。

 冒険者の姿は長身の牛頭たちに隠れて確認することは出来ない。


 問題ねえ。

 全部吹き飛ばせば冒険者に会えるだろ?


 俺は狂った様な笑い声をあげると拳を握りこみ、膝を曲げるとグッと足に力を入れる。


 先ずは一番近くにいたハンマーを持った牛頭――ミノタウロスチーフへ低い姿勢から掬い上げるように拳を振るうと、ミノタウロスチーフは派手に浮き上がってそのまま吹き飛ぶ。

 勢いのまま右足で地面を蹴って飛び上がると、左膝を別のミノタウロスチーフのみぞおちへ叩き込むと、奴はくの字に折れて崩れ落ちる。


 どんどんかかって来やがれ!

 裏拳で吹き飛ばし、回し蹴りで叩き潰し、飛び上がって踵落としを決める。

 

 おっと、ミノタウロスメイジたちの杖から一斉に火炎魔法が飛んでくる!

 ハハハハ! そんなもので俺を倒そうと? 甘い、甘過ぎるぞ!

 

――迫りくる十の一メートルほどの火炎の弾。


 俺は両の拳同士を軽く打ち付けると、右腕を勢いよく振りかぶる。続いて左腕だ。

 腕の振り下ろしと同時に、真空の刃が打ち出され、迫る火炎の弾を切り裂く! 乗ってきたぜ! 俺は右足を蹴り上げると、同じような真空の刃が火炎の弾へ襲い掛かり、切り裂く。

 全ての火炎の弾を切り裂いた俺はミノタウロスメイジの元へ一気に駆けると奴らの腹へ連続で拳を打ち込んでいく。

 

 その間にもミノタウロスチーフが後ろからハンマーを振り下ろしてくるので、俺は後ろを振り向かず手のひらでハンマーを受け止めると、ハンマーの柄を握りミノタウロスチーフを投げ飛ばす。


 見る見るうちに牛頭どもが減っていくと、ようやく冒険者の姿を何人か確認した。


「十一階へ降りてくれ! ここは俺が全部引き受けた」


 俺は冒険者たちへ叫ぶと、十一階へ下る階段へ彼らを誘導する。もちろん邪魔をする牛頭どもは吹き飛ばしてだ。

 

「ありがとう」

「助かったよ」


 冒険者たちは口々に礼を言ってから階段を降りていく、中には酷い怪我を負ってしまったのか足を引きずっている者もいた。俺が確認した限りだけど、死亡した冒険者はいないと思う。

 間に合って良かったよ。

 

 じゃあ、残りを仕留めるか。俺は残ったミノタウロスチーフとミノタウロスメイジを同じように拳で挨拶して沈めていく。

 

 そろそろ全滅させれるという時に、十一階から誰かが階段を登って来る。戦闘中なのになんで分かったのかというと、大声で二人が言い合いながら登ってくるからだよ。

 片方はクロの声だな……

 

「待つでござる。吾輩、少年を守るように言いつけを受けてるです!」

「子猫なんかに守られる僕じゃないんだ! ミノタウロス? 問題ない!」


 あちゃー、ライル少年が起きたな。また意味の無い自信満々なことを言ってやがる。子猫がしゃべることには何とも思わないらしい。

 まだミノタウロスメイジが残ってんだけど……それも階段に近い位置で。ま、まあ一匹ならクロが余裕で守ってくれるだろ。

 

 ライル少年は十階まで来てしまった! 足元では猫の姿のクロが彼のズボンの裾に爪を立てている……

 

――そこへ、ミノタウロスメイジの火炎の弾が飛んでいく!


 クロが火炎の弾を察知し、ジャンプして右前脚でペシっと火炎の弾をはたくと床に弾が突き刺さった。

 一方ライル少年と言えば……腰を抜かしてお尻が床についた体勢で、そのまま後退して行く……器用だな。


 この光景は見なかったことにしよう。俺はため息をつくと後ろからミノタウロスメイジを殴り飛ばしたのだった。

 ええと、確かこの後ボスが出るんだったか。

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