第21話 あまりのポイントに気が遠くなる
冒険者たちが起き出した後、みんなでピザを作ってゆっくりとした朝の時間を過ごし、昼過ぎになると冒険者たちは後片付けをしっかりやった後に帰って行った。
いやあ、ポイントのことなんてすっかり忘れて冒険者たちとキャンプを楽しんでしまった。
いいよな、こういう宴会ってのは。ユキが下着姿になってしまうというハプニングはあったけど、カラオケも好評だったし、つづらの使い勝手にもみんな満足してくれたみたいで一安心だ。
次は一般人も連れて来てくれるって言ってたから、今回のキャンプで俺たち妖怪が安全だと信じてくれたのかな? そうじゃないと、戦闘の出来ない一般人を連れてくるって言ってくれないと思う。
次回来てくれた時にも期待に応えれるよう安全安心な妖怪をアピールするぜ。
俺は満足して、白色にペンキで塗ったステージや売店予定の積み重なったつづらをひとしきり眺めた後、落とし穴から飛び降りて居住スペースに戻る。
居住スペースにある食堂の定位置にユキが座っていて、彼女に声をかけようとしたが、ノートを開いたまま固まっているじゃないか。一体どうしたんだ?
彼女は俺と目が合うと、口をパクパクさせて、ノートを指差す。
なになに……ええと今回の取得ポイント……百八ポイント……ん! んんん!
凄い数字が見えた気がしたけど、気のせいだよな?
再びノートに書かれたポイントをチェックする。
――百八ポイント
間違いない。百ポイントを超えてるじゃないか! なんてことだ。たった一日で二ヶ月分のポイントを稼いでしまった。
なるほど、ユキが固まるわけだ。
「ユキ、これは本当なのか?」
俺は未だに信じられないといった風にユキに聞いてみるけど、彼女は無言で頷きを返す。
「冒険者が十二人、十八時間滞在したの」
「た、確かに計算すると百ポイント超える……すげえや。凄いぞ! ユキ!」
「うん! この調子で頑張ればダンジョンの四階を作ることだって夢じゃないわよ!」
俺とユキは嬉しさのあまりお互い飛び上がってハイタッチする。それだけでは収まらず、俺達はお互いに抱き合って肩を叩き合う。
ようやく落ち着いて来たところで、ユキの顔が目の前に……彼女と目線が合ってしまいそのまま俺達はお互いに見つめ合う。どちらからともなく、顔を近づけると唇が触れるだけのキスを交わす。
「ユキ……」
「夜叉くん」
俺はギュっとユキを抱きしめると、再び彼女にキスをしてから体を離す。
ダンジョンをテーマパークにと始めたことだけど、これほどポイントが入るなんて夢にも思っていなかったよ。ポイントの制限からまだキャンプ場程度だけど、それでもキャンプをやりに冒険者が来てくれた。
彼らは俺の思惑通り長時間滞在してくれたから、ポイントもあれほど入ったというわけだ。
次はどうしようか。もう少しポイントが溜まったら、前から考えていたメリーゴーランドを作るか、クロに任せる予定の売店を充実させるか、それとも公衆浴場か。
「ユキ、俺の考えている次の候補は三つあるんだけど……」
俺はユキに三つの施設について説明すると、彼女は椅子に座ってノートを開くとボールペンを口に当て少し思案する。
「うーん、公衆浴場かなあ……まずは現状顧客の満足度を上げたほうがいいと思う」
「なるほど。冒険者たちが一般人も連れて来るのはキャンプ目的だものな。食料はキャンプだけに持ち込みだから、売店より汗を流せる公衆浴場か」
「うん。その方が無難かなあって」
確かにユキの言う通りだ。今は来てくれる冒険者を確実に捕まえていきたい。うっしーのお店経由で来てくれる人達がどのような好みを持っているかまだ不明だけど、確実なのは既に来てくれたハゲ頭たちの満足度を上げる方向だろう。
「確かにそうだよな。キャンプって目線で考えると公衆浴場で、次は売店かなあ。テント代わりになるプレハブみたいなのもあれば良いな」
「うん。まずはキャンプ用具と食事を持って来る人達から、お手軽にキャンプが楽しめる方向にもっていくのがいいかも」
「あー、テーマパークはまだ遠いな」
「日帰りの冒険者や一般人がいっぱい来てくれるようにするには遊び施設が必要よ」
「そうだよな。今後の楽しみってことにしておこうか」
「うん」
ユキに公衆浴場のポイントを聞くとすぐに彼女はノートにサラサラと必要アイテムを見繕ってくれる。
<ゆきちゃんのお風呂に必要なアイテムリスト>
・浴室 二十人収容 百ポイント
・檜風呂 十五人収容 百五十ポイント
・シャワーセット 十セット 百ポイント
うはあ。割に高いなあ。男女で分けるから、必要ポイントはこれの倍になる。一セットで三百五十ポイント必要で、作るなら七百ポイントか。
まだまだ作るまでポイントをためないといけないぞ。
「結構大変だよな……公衆浴場……」
俺はユキにノートを返すとため息をつく。
「そうね。……冒険者が一人来たようね」
ユキはポイントが増えたことに目ざとく気が付き、俺に冒険者が来たことを教えてくれる。千里の道も一歩からだ。来た冒険者を一人一人大切にもてなそうじゃないか。
◇◇◇◇◇
急ぎダンジョンの入口まで走ると、冒険者が入口から動かずじっと下を向いているじゃないか。冒険者と言っていいのかこれは……立ち尽くしている冒険者は少女で、俺と同じくらいある長身に長い黒髪。
服装が冒険者らしくないんだよな。彼女は紺色のブレザーにスカート、そしてパンプスを履いているんだ。学校帰りの少女にしか見えない。どこかでこの姿を見たことがあるんだよなあ。
いつだっけか。
「こんにちは」
俺はなるべく気さくに制服姿の少女に声をかける。
「た、頼める人があなたしかいないんです! 私は冒険者の知り合いがいないんです」
「ええと、確か……」
「マリコです。この前ライルくんと一緒にこのダンジョンに来た時にあなたに会ったじゃないですか」
ああ。あの酷くイライラした二人組か。思い出したぞ。ライルって少年は超臆病な奴だったはずだ……ダンジョンの入口から動けずに、この少女の後ろに隠れるような奴だった。
しかし……マリコだっけ? あの時と口調が全然違うじゃねえかよ! 一応人に何かを頼む時の態度ってのは心得ているってことか。
「思い出した。相棒はどうしたんだ?」
「助けてください! ライルくんがダンジョンに入ったのはいいんですが、戻ってこないんです!」
また調子に乗ってダンジョンに行きやがったのかよ! ここ以外のダンジョンは危険なんだぞ。まあでも、ダンジョンは冒険者をポイントのために大事にする。命までは取られんよ。
ライル少年の場合、中で迷って出てこれなくなったとか、腰が抜けて動けないのどっちかだろうな。
「どこのダンジョンに潜って、どれくらい帰らないんだ?」
「ダンジョンに入ってからは半日ほど経ちます。まだ連絡がないので……外には出てないと思うんです!」
ふむ。人間はダンジョンの外ならお互いに離れていても通信できる機器を持っているんだったな。しかし、通信できる機械はダンジョンの中だと動作しない。ライル少年からの連絡がマリコにないってことは、まだダンジョンに彼はいるということになるのか。
なるほど。理解完了。
「食事やらは大丈夫なのか?」
「はい。四日分の食料を念のため持って行ってます。でもでも……行ったダンジョンが問題なんです。助けてください……」
「ダンジョンは命の危険って余りないと思うんだけど……ああ、不用意にいろんなところに触るとトラップで危険といえば危険か……」
「そんなんじゃないんです! ダンジョンが危険なんです」
全く……ライル少年は臆病だったけど、この少女もそうなのか? だから、ダンジョンはトラップに引っかかって致命傷を負わない限りは大丈夫だって。モンスターは命まで取らないから。
やれやれだよ……
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