第20話 朝のハプニング
冒険者たちの夕食はシチューだった。肉を豪快に焼くバーベキューにでもするのかなと思っていたから意外だったけど、訓練の一環だとすれば妥当な料理なのかな?
その分、持ち込んだおつまみとアルコール類はものすごい量だったんだ。こちらは宴会ってことで完全にお遊びだからということらしい。
余るからってことで俺たちもおこぼれをもらい、カラオケを使っての飲めや歌えの大騒ぎで楽しく夜を明かす。いつの間にか全員地面で眠っていたようで、俺も他のみんなと同じで明け方までに寝てしまったようだ。
しかし、頭だけは何だか柔らかい感触がする。目をあけると、正座したまま眠っている座敷童の可愛らしい市松人形のような顔が目に入る。
どうやら座敷童に膝枕をされていたようだ……正座のままで座敷童は眠っていてものすごく申し訳ない気持ちになってくる。
「座敷童殿! なんとうらやま……いやけしからんでござる!」
俺と同じタイミングで目覚めたクロが俺と座敷童の様子を見て何か言っている……そうそう、クロも宴会に途中から混じったんだったな。お酒が回ったところで、クロを見せても大丈夫だろうと判断してみんなの前に連れて来た。
案の定、酔っぱらった冒険者たちはクロの人間と違う目や耳を見ても意にも介さず、歓声をあげて迎えてくれた。
しかし……悲劇はこの後起こった。冒険者たちはクロにカラオケのマイクを持たせてしまったのだ! その時俺は思わず耳を
クロから発される騒音が! 彼女が歌い始めると、その騒音に耐えられた者は居ない様子だったので、俺は途中でクロのマイクを取り上げマミにマイクを手渡した。
「クロ、おはよう」
俺は昨日の惨事を思い出しながらも顔には微塵も出さずにクロへさわやかに挨拶をする。
「座敷童殿も疲れるでござろう? 吾輩が変わりますゆえ……」
「あ、そうだった。座敷童に悪いな」
俺は急ぎ起き上がりあぐらをかく。座敷童は正座したまま眠っているようだけど、ずっと膝に俺の頭を乗せていてくれたんだよな。すまん。彼はまだ眠っているようだからそっとしておいてあげよう。
まだギャーギャー騒いでいるクロを放っておいて、俺は立ち上がると周囲をゆっくりと見渡す。
まだみんな眠っているようだけど……ユキとマミが抱き合って眠っているのはまずいな。抱き合うのは一向に構わないんだけど、相手がユキってのが問題だ。彼女は雪女だけに体温がものすごく低い。
彼女と抱き合っているとどんどん体温が奪われていくからな。アルコールで体が温まっているうちはいいけど、アルコールが抜けて体が冷えてくると、彼女を抱きしめたままなら風邪を引いてしまう。
俺は絡み合っているマミとユキへにじり寄り、目のやり場に困りながらもユキの背後から脇の下に手を入れてそっと彼女を引っ張る。するとあろうことか、マミの手がユキの純白の着物の
や、やばい……ユキの白い花柄のブラジャーが丸見えになってしまった。気が付かれぬように着衣の乱れを直さねばならぬ。
俺はそっとユキの乱れた
ユキに見えるように自身の口に人差し指を当て「しーっ」と彼女に囁くと、俺はユキに着物の
ユキは下着が見えてしまったことで悲鳴をあげそうになるが、俺に口をふさがれていたから声は出なかった。ここで叫ばれたら、みんなが起きてしまいユキの下着が見えてしまうことよりも、俺がユキの着物から見える下着を観察していたとか思われてしまうじゃないか!
ユキの口をふさいだのは、ユキの為ではない。自分の保身の為なんだよ! だから俺は必至なのだ……彼女の口を手でふさぐことに……
俺はそのままユキを引っ張り出そうと彼女の両脇に入れた手に力を入れる。と、マミがワザとなのかと思うような動きでユキの襟が完全にはだけてしまい、花柄の刺繍が施された白いブラジャーが完全に姿を現してしまった!
フロントホックか……そんなことはどうでもいい。見入っている場合じゃないぜ。
もうここまで脱げてしまったのなら仕方ない。みんなが起きる前にここからユキを連れて逃げ出すのみだ! 俺は気にせずそのままユキを引っ張ると、あろうことか純白の着物そのものが脱げてしまった!
マジかよ!
花柄の刺繍が施されたAAサイズの白いブラジャー(パット入り)と白と薄い青色の横縞パンツの姿になってしまったユキをお姫様抱っこした俺は、両手がユキを抱っこするのに塞がってしまった!
ユキは余りの出来事にまたしても悲鳴をあげそうになったので、俺は彼女の首の裏に通した腕を自分の顔の方へ引き寄せると、彼女の口を口でふさぐ。しばらく口を塞いでいると彼女が状況を把握してくれたので、俺は彼女から口を離す。
ユキは察しが良くて助かるよ。
「ユキ……このまま脱出する」
「う、うん……」
羞恥で体まで真っ赤にしながらも、ユキが悲鳴をあげない程度には落ち着いてくれたので、俺は脱兎のごとく広場から居住スペースへと走るのだった。
◇◇◇◇◇
なんとかユキの自室の前まで彼女をお姫様抱っこしたまま連れて来た。ここまで来たら冒険者が来ることは無いだろう。来たとしても妖怪だけになる。
俺はユキをそっと降ろすけど、ユキは俺の首に両手を絡ませて熱っぽい表情をしてギュっと目をつぶっている。目の前には彼女の唇が……思わず俺が彼女にキスをしようとすると背後から気配を感じとっさに振り返る。
後ろに居たのはハアハアと息を荒げるクロだった……彼女は俺達を凝視している! キスはしたかった。ああ、したかったよ! それが正直な気持ちだから隠すことはしない。
でも、クロが見ている前でラブシーンはごめんだよ。ユキも期待していた俺の唇の感触が来ないことで不安になったのか目を開き、背伸びして俺の肩越しから後ろを覗き込みクロの姿を確認したようだ。
「ク、クロ……」
「ユキ殿、マスター殿……吾輩も……」
ゆらりとクロが首を傾けると、彼女からただならぬオーラを感じる。
「す、すまんクロ! 冒険者はまだ帰ってないのに……」
「ごめんなさい。クロ……」
俺とユキは冒険者を放置して自分たちだけが戻って来たことをクロに謝罪するが、彼女はただならぬオーラを霧散させたかと思うと、途端に不思議そうな顔になって首を
「そうでござった。座敷童殿を一人残して来てしまったでござる! お手伝いしないとです」
クロはそそくさと元来た道を戻って行く。さっきのオーラは何だったんだろう。
クロの乱入に俺とユキはすっかり興ざめしてしまい、俺はユキの銀髪を撫でてからすぐさま広場に戻ることにした。ユキは服を着てから広場に向かうことになった。
広場に戻ってもまだみんな寝ていたので、みんなが起きる前にユキの純白の着物を回収してステージの裏手の見えないところに隠すと、みんなが起きるのを待つ。
とんだハプニングだったけど、ユキの慌てた姿はいいものだったなあ……
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