第19話 キャンプだー
牛鬼を牛頭に引き合わせると、牛頭は驚いた様子で牛鬼の実力を探る様にじっと彼を見つめていた。
俺は牛鬼に四本の刀を構えてもらい、最大十二本の刀を振るうことができると牛頭へ自慢気に語る。戦うだけでダンジョンが繁栄するなら、俺のダンジョンは今頃それなりのダンジョンになっていたはずなんだけどなあ。
おっと、牛頭は牛鬼の振るう四本の刀に魅入られているようで、感嘆の声まであげている。
「どうですか? 牛鬼は?」
俺は牛鬼から目を離そうとしない牛頭に問う。
「この御仁を十四階に留めておくのは惜しい。牛鬼殿だったかな、ぜひラビリンスに来てもらいたい」
いや、それは俺に言えよ! 牛鬼に向かって「来てもらいたい」とはどういうことだ。俺、俺がダンジョンマスターね。
ま、まあいい。気に入ってくれたのなら。
「牛鬼、牛頭さんは気に入ってくれたようだから、ラビリンスに行ってもらっていいか?」
「然り」
牛鬼は刀をしまうと、牛頭へ首を下げる。これに対し、牛頭は右手を牛鬼の前に差し出し、二人は固い握手を交わすのだった。
二人が立ち去った後、残されたのは騒動の元になったホルスタインことうっしー、俺が連れて来たユキ、そして俺の三人となる。クロはお昼ご飯を食べに行ったので今ここには居ない。そのうち戻って来るかもしれないけど、戻って来るように頼んではいないから来るかも分からない。
「うっしー、しっかりと働いてもらうからな」
俺はうっしーの肩をポンと叩く。
「ふんもふんも」
うっしーは日本語を放棄しているようだが、俺の話は分かっているらしく何度も頷いていた。
「うっしー、牛鬼のポイントは百だ。最低でも百ポイントは稼いでもらうからな!」
「百……少な……ふも」
「ん?」
「なんでもないふも。すぐにここへ人が来るふも、このダンジョンの広告とかある?」
「ああ。あるぞ。数枚渡すから、後はコピーして使ってくれ」
ユキはうっしーに俺のダンジョンについて書かれた広告(ビラ)を手渡すと、うっしーは内容を確認している様子だ。あの牛……たまにまともになるんだよな。
「これ、裏に地図も描いとくふも。うっしーの連絡先はここふも」
うっしーは名刺を胸の谷間から取り出し、俺に渡してくるが受け取ろうとした俺の手をユキがはたく。名刺はヒラヒラと宙を舞うが、ユキがうまくキャッチして事なきを得た。
「ユキ……」
俺の非難の声にユキは舌をペロッと出して頭をかく。
「ごめんね。つい」
ユキはちらりとうっしーの大きな胸を一瞥すると、自身の胸に少し手を触れながら俺へ頭を下げた。クロといいユキといいどうもうっしーに少し敵意を持っているように思える。
うっしーとはまだ出会って間もないけど、少しイライラするだけの特に害の無いモンスターだと思うんだけどなあ。
「じゃあ、頼んだぞ」
「ふんも!」
うっしーの連絡先を確認したので、彼女はダンジョンの入口へと向かって行った。
うっしーがどれだけの働きを見せるか分からないところで、結構な投資をしてしまったなあ……牛頭に妖怪が弱いと思われるのがしゃくだった部分ももちろんあるけど。
百ポイントか……なかなか痛いぞ。
俺の不安をよそにこの日の夕方に思わぬイベントが発生したんだ。
◇◇◇◇◇
ユキからポイントが大量に入ったと聞いて、急ぎダンジョンの入口に向かうとこの前あったハゲ頭の親子を先頭にしてゾロゾロと団体がダンジョンの入口にたむろしていた。
ハゲ頭は俺に気が付くと手を振りニヒルな笑みを見せる。
俺はといえば、今まで経験したことのない団体客に喜びよりも戸惑いを覚えている……こ、ここは俺のダンジョンだよな! 気になって冒険者の人数を数えてみると……ハゲ頭と少女を含めて十四人もいるじゃないか!
十四ポイントが一気に入る……少しクラクラしてきたぞ。
「やあ。夜叉君。約束通り遊びに来たぞ」
当然のように約束通りと言うハゲ頭が妙に輝いて見える。いや、頭じゃなくて彼の男前っぷりにだよ。
「あ、ありがとう。もう嬉しすぎて何が何やら……」
「ユキさんと座敷童ちゃんは連れて来れる?」
ハゲの娘? だろう赤毛の少女……たしかマミだっけか……ユキと座敷童を気に入っていたものな。
「もちろんだとも! すぐにでも連れてくるとも!」
「夜叉さん……何か口調が変よ」
マミは俺の変なテンションに若干引いている。いやでも考えてくれよ。俺のダンジョンはこれまで閑古鳥がずっとのさばっていたんだ。それがどうだ。突然十四人もの冒険者がやって来るなんて……自分で言うのも何だが異常事態だぞ。
彼らは新人を何人か連れてキャンプの練習を兼ねて遊びに来たそうだ。キャンプと野営の練習をするらしいので、テントの組み立てとか調理は新人が行うらしい。といってもテントの設営とか調理にかかる時間ってそれほど大した時間もかからないから、余った時間はステージとカラオケを使って宴会をしたいそうだ。
うん、大歓迎だ。俺が手伝えそうなことなら手伝うとハゲ頭に申し出ると、宴会の時に顔を出して欲しいことと氷をもらえると嬉しいとのことだった。
そんなものお安い御用だぜ! 俺はハゲ頭に了承の意をすぐに伝える。
冒険者たちの荷物でも持とうと思ったけど、荷物を持つのも練習のうちらしいので俺は先に失礼させてもらい、ユキと座敷童を呼びに行く。クロもどこかで紹介しなければ……彼女は人間に近い見た目だけど明らかに人と違うから、ユキを紹介した時のように機を見てお披露目させないとだな……
ここまで上手くことが運んでいるから、慎重に行動するほうがいいだろう。無いと思うけど、万が一クロにびっくりして撤収となってしまったら目も当てられないからなあ。
俺達が広場に戻る頃、ちょうど冒険者たちも広場に到着したところだった。ハゲ頭の親子以外の冒険者は、ダンジョンが明るい事やステージにカラオケがあることに驚いているようだな。
キャンプ場施設としては悪く無い場所だと思うんだよな。この広場。
火を扱う冒険者に俺は火焚き用のつづらを紹介し、他のつづらについてもついでに解説する。荷物入れやクーラーボックス変わりに使ってくれと説明していたら、冒険者たちもつづらの使い方に「おお」と感嘆の声をあげていた。
普通宝箱ってのはつづらも含めて、中のアイテムを取るものだ。蓋が開いたつづらがこの場に残っていて、そのつづらを利用しようって発想は彼らにとっても斬新だったんだろうなあ。
余りの不人気な宝箱から着想を得た妙手だろう。考え付いたのはユキだけどね。
ユキを見つけたマミは気さくに彼女へ話かけると、何やら盛り上がっているようだ。たぶん若い女の子同士の会話がされているように思う。聞き耳を立ててみようと思ったけど、野暮なことはやめておこうと俺はすぐに彼女たちから離れる。
座敷童は遠巻きに冒険者の様子をじっと眺めているようだった。今まで見たことのない冒険者の数にどんな反応をするか少し心配だったけど、彼はずっと口元に微笑みをたたえたままステージの隅に腰かけている。
俺はハゲ頭からもらった缶ビールを開けて、やることのないハゲ頭らベテラン冒険者たちとダンジョンのモンスターについて語り合っている。冒険者たちもモンスターを倒すことになかなか苦労しているようだなあ。
ちくしょう。倒すことを研究されるモンスターが憎い! どこかで夜叉の弱点の研究とかやってないんだろうか……俺の期待とは裏腹に妖怪の話が出る事は一度たりとも無かったのだった……
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