第13話 キャンプの準備

 俺はお茶とスナック菓子を持ってハゲ頭のテーブル席に座ると、スナック菓子の封をあけテーブルに広げる。お茶をハゲ頭に手渡すと、お茶をもう一つテーブルに置く。これは少女の分だな。

 まだオレンジジュースが残ってるけどな。

 

 しかし……この少女の歌はコブシが効いていて、なんというかユキが歌っていた歌に似ているな。これならユキでもいけるんじゃないか? クロはユキの歌をダメだって言ってたけど。

 

「マミさんは歌が好きなのか?」


「あまり上手ではないがね。歌うのは好きみたいだよ……それにしても……彼女は若者の歌を歌わないんだよ」


「ふうむ」


 分からん! 若者の歌ってなんだよお。

 

 少女が数曲歌った後、二人が帰りそうになったから、俺はハゲ頭にも歌って欲しいなーとせがみ時間を稼ぐ。

 二時間だ。ここまできたら二時間は粘らないと! ポイントのために俺はハゲにでも縋り付くのだ。


 ハゲ頭の歌はなにやら軽快なリズムの歌で、時折しゃべり? のようなものが入る。これって今の流行りの曲ってやつか?

 後でクロに聞かねえと。


 ハゲ頭の歌が終わると俺は盛大に拍手をして、もう一曲歌わせようと頑張るが、彼は一曲歌って満足した様子……頼む、まだ帰らないでくれえ!


「さっき、マミさんが歌ったような曲を歌える妖怪がいるんだけど、紹介していいかな?」


 これ以上引き留めるのは難しいと判断した俺はユキを投入することを決める。

 さっきさり気なく雪女って言葉を出しても彼らは動じた様子がなかったから、ユキの人間と異なる瞳を見ても大丈夫だろうと俺は判断した。


 俺はステージ裏からユキの手を引き、二人の前に連れてくる。


「雪女のユキです。初めまして」


 ユキは普段からは想像できない上品な声と口調で二人に深々と礼をする。純白の着物姿で、両手を揃えて礼をする姿は非常に様になってる。


「おお、これはご丁寧に。これは上品なお嬢さんだ」


 ハゲ頭はユキの挨拶に感じ入った様子だな。この二人、余り異形の姿でも気にしないのかも知れない。

 一方ユキはといえば、「上品なお嬢さん」と言われて少し頰が上気している。口元も嬉しそうに少し緩んでいるのが見て取れる。これはご機嫌になってるな。


「ユキ、一曲頼んでいいかな?」


「うん」


 俺はさっそくユキにカラオケで一曲歌ってもらうように頼むと、彼女は上機嫌で足取り軽くステージの上に登ると、カラオケの端末を手に取り曲を入力する。

 彼女はマイクを握り、曲が始まるとあのコブシの効いた歌を歌い始める。


 大丈夫かなと、俺は冒険者二人の様子を見ると、ちゃんと聞き入ってくれているようだ。よおし、いいぞ。ユキ!

 曲が終わると二人はユキを拍手で称えてくれた! これは……なかなかの好感触じゃないか?

 

「ユキさん! すごく上手!」


 ユキの歌を聞いている時から少女のテンションは上がりっぱなしだ。ユキの見た目はこの少女より少し年上に見えるくらいだから同年代と思って親近感が出たのかもしれないな。

 同じ歌の趣味なようだし。

 

「演歌とはうちのマミと同じで変わった趣味をしているが……プロ並みじゃないか。ビックリしたよ」


 ハゲ頭も手放しでユキを褒めたたえる。そうか。ユキは歌がプロ並みだったのか! このコブシが効いた曲は演歌って種類らしい。

 

「いや……パパだって……その歳でラップとか良く息が持つわね」


「当たり前だろう。俺だって冒険者やってるんだぞ。体力には自信があるからな」


 二人は何やら言い合っているが、ハゲ頭が歌った曲はラップという種類らしい。世の中にはいろいろな曲があるもんだ。

 ユキの大活躍のお陰でこの後、話が盛り上がり冒険者二人は、ここで二時間滞在し帰って行った。

 


◇◇◇◇◇



 冒険者をダンジョンの入口まで送り、ステージから撤収しようとステージまで戻った時……事件が起こっていた!

 

――ステージの上でクロが暗黒オーラを出して体育座りしている……幸いパンツは足で隠れている。まあ、本人はパンツが見えることを気にしていないんだろうけど……


 あー、気持ちは分かる。一人だけ何もやらなかったから沈んでいるんだろう。俺だって何もしていないと言えばそうなんだけどな……

 座敷童は既にこの場におらず、お掃除に向かったようで、ユキはと言えば……たぶんご飯の支度に行った。あいつらワザと俺だけを残しやがったな!

 

「あー、クロ……」


 クロの肩を叩き、呼びかけてみるが反応は無い。ダメだ。暗黒に捕らわれている。どうしたものか……

 

「クロ。冒険者達と話をしたんだけど、ここにバーベキュー施設と売店を作ろうと思ってるんだよ」


「……マスター殿……」


 クロはようやく俺を見上げると俺の名前を呼んでくれた。不意に彼女は俺に抱きついてきたので、俺はそのまま彼女を抱きしめて背中をポンポンと優しく叩く。

 

「クロ……予算が無いから売店といっても屋台を手作りになると思うんだ。そこの店員をクロに任せようと思ってる」


「マスター殿お!」


 クロは自分が出来る事を示してくれたことに感動した様子で俺をギュっと抱きしめて俺の胸に頬ずりする。あ、また鼻水がつく……


「よし、クロ。さっそく作ろうじゃないか。まずはユキにアイテムを出してもらおう」


「おー!」


 急に元気になったクロは勢いよく立ち上がり、ウキウキと二股に分かれた尻尾を振っている。ちょっとチョロ過ぎないかこいつ……

 機嫌が戻ってくれてよかったけど、余りにチョロいから不安になって来た。

 

 ええと、バーベキュー施設といっても単にバーベキュー用のかまどを作るだけだから、大したものが必要なわけじゃない。単純に石を積み上げて煮炊きできるようにするだけだ。ダンジョンの壁は燃えることが無いし、ステージも不本意ながらつづらで作られているから燃えない。

 つづらは宝箱の一種だから、どんな魔法でも破壊されることがないのだ! 消滅させる手段はつづらの中に入っているアイテムを取得すること。つまり……開いて中のアイテムを取らなければ、つづらは何があっても破損しない。

 

 屋台の方はどうするかなあ。木材を切って自作が安いか。ユキに聞いてみようかな。飲み物を冷やすのはユキにやってもらえばポイントが必要ないし、こちらで飲み物を準備したらポイントを消費するが……ユキに缶ビールのポイントを聞いとかないとだな。

 屋台の売り物を増やしていきたいところだけど、ポイントと相談ってところか。焼きトウモロコシくらいなら提供できるかもしれない……

 

「じゃあ、ユキのところへ行くか!」


 俺とクロは手を繋ぎ、ユキの居る地下三階の居住スペースまで移動する。

 ユキは食堂でご飯を作っていたが、俺と目があうとバツの悪そうな顔になる。クロを放置して逃げ出した自覚はあるようだな……思った以上にクロが単純だったから、全く問題なかったけどな!

 

「ユキ、屋台とバーベキュー用のかまどと屋台を作りたいんだ。材料とポイントをリストアップしてもらえるか?」


「分かったわ。かまどなら……つづらを開いておいて使えばいいんじゃない? 燃えないし」


「そ、そうだな……閉じれば椅子にもできるし、消火も簡単だ。扉を閉じたら空気を遮断して火が消えるものな……」


 気分的につづらは嫌だが、ポイントが一番かからないのならありだな。バーベキューで使った火を消すのも簡単だし、水を注いでも漏れて来ないし……

 

「屋台はつづらを二つ重ねて台にすればいいわね」


「つ、つづらか……屋根とか作らないでいいかな?」


「ダンジョンは雨が降らないし、必要ないんじゃない?」


「そういやそうだな」


 なんと……つづら無双で終わってしまった。クロと一緒に色だけ塗るかな。何色にするかはクロに決めてもらおうっと。

 

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